日商簿記範囲外のEX論点【有価証券①】~親会社株式~

日商簿記3級から1級の範囲外の論点、および範囲内ではあるものの出題率の極めて低い論点を紹介します。
基本的に、公認会計士・税理士等で紹介されるような論点となります。
なお、論点に対しての適用指針等は紹介しません。

今回は、有価証券の論点から「親会社株式」を紹介します。




1.親会社株式(個別上の取引)

概要

原則として、子会社は親会社の株式を保有してはいけません
しかし、合併や買収による諸資産の承継等によって、親会社株式を取得してしまった場合は、早めに処分する必要があります。

親会社株式は、その他有価証券または売買目的有価証券に分類されます。
その為、期末時に保有している場合は、時価評価が必要となります。


仕訳

※いずれの仕訳も、保有目的が「その他有価証券」であることを前提として作成しています。

取得時の仕訳

親会社株式  XXX / 現金預金など  XXX

親会社株式を取得した場合は、取得原価親会社株式勘定(資産)を計上します。

期末時の仕訳

親会社株式  XXX / 繰延税金負債        XXX
          / その他有価証券評価差額金  XXX
          or
繰延税金資産        XXX / 親会社株式  XXX
その他有価証券評価差額金  XXX /

期末時の時価評価は、有価証券の処理に準じます。
相手勘定に関しては、保有目的により

  • その他有価証券評価差額金

  • 有価証券評価損益

のいずれかを使用します。

また、部分純資産直入法の場合は、評価損が出た場合、

  • 投資有価証券評価損

  • 親会社株式評価損

を使用します。

(外部)売却時の仕訳

現金預金  XXX / 親会社株式     XXX
         / 親会社株式売却益  XXX
          or
現金預金      XXX / 親会社株式  XXX
親会社株式売却損  XXX /

売却時の処理は、有価証券の売却時に準じます。
売却損益が発生した場合の勘定科目は、保有目的により

  • 投資有価証券売却損益

  • 親会社株式売却損益

  • 有価証券売却損益

のいずれかを使用します
(ここでは、親会社株式売却損益を使用しています)。

また、売却損益が発生した場合は、

法人税等  XXX / 未払法人税等  XXX
          or
未払法人税等  XXX / 法人税等  XXX

上記の仕訳を期末時に行う必要があります。


2.親会社株式(連結上の取引)

概要

親会社株式は、連結上 純資産の控除項目として扱います。
控除する際は、

  • 親会社持分相当額 ⇒ 自己株式として株主資本から控除

  • 非支配株主持分相当額 ⇒ 非支配株主持分から控除

上記のように行います。

また、個別会計上、親会社株式をその他有価証券として保有し、時価評価を行っていた場合は、取得原価に戻す必要があります。


仕訳

※いずれの仕訳も、保有目的が「その他有価証券」であることを前提として作成しています。

時価評価取り消し時の仕訳

繰延税金負債        XXX / 親会社株式  XXX
その他有価証券評価差額金  XXX /
         
or
親会社株式        XXX / 繰延税金資産        XXX
                / その他有価証券評価差額金  XXX

時価評価を行っていた場合は、繰延税金資産・負債とともにそれを取り消す処理を行います
(法定実効税率の指示がない場合は、そもそも繰延税金資産・負債は発生しないので取り消す必要はありません)。

親会社株式の連結修正仕訳

自己株式     XXX / 親会社株式  XXX
非支配株主持分  XXX /

完全子会社の保有する親会社株式の場合は、自己株式への振替のみとなります。

(外部)売却時の連結修正仕訳

親会社株式売却益  XXX / 法人税等      XXX
             / その他資本剰余金  XXX
非支配株主持分に帰属する当期純利益 XXX / 非支配株主持分  XXX
         or
法人税等      XXX / 親会社株式売却損  XXX
その他資本剰余金  XXX /
非支配株主持分  XXX / 非支配株主持分に帰属する当期純利益 XXX

その他資本剰余金が負の値の場合は、利益剰余金から減額します。
また、法人税等を考慮する場合は、非支配株主持分に帰属する当期純利益の金額もその分を反映させる必要があります。


3.親会社株式(持分法)

概要

持分法を適用している会社が親会社株式を保有している場合は、親会社持分相当額を自己株式として株主資本から控除し、同額を投資勘定から減額させます。


仕訳

※いずれの仕訳も、保有目的が「その他有価証券」であることを前提として作成しています。

時価評価取り消し時の仕訳
2.親会社株式(連結上の取引)と同一

親会社株式の連結修正仕訳

自己株式  XXX / 投資有価証券  XXX

親会社等の持分相当額を自己株式に計上し、その同額分の投資有価証券勘定を減額させます。

(外部)売却時の連結修正仕訳

投資有価証券  XXX / 持分法による投資損益  XXX
持分法による投資損益  XXX / その他資本剰余金  XXX
          or
持分法による投資損益  XXX / 投資有価証券  XXX
その他資本剰余金  XXX / 持分法による投資損益  XXX

その他資本剰余金が負の値の場合は、利益剰余金から減額します。


4.例題

<1>個別上の取引

以下の取引について仕訳しなさい。 (単位:円)

①当期中に、企業の買収によって親会社A社の株式70,000円を取得した。
 上記親会社株式の対価は現金で支払っている。
 なお、当社はA社の完全子会社である。

親会社株式  70,000 / 現金預金  70,000

②期末を迎えたため、時価評価を行う。
 当該親会社株式の決算日時価は65,000円であった。
 また、当社では、その他有価証券として親会社株式を保有しており、全部純資産直入法を採用している。

その他有価証券評価差額金  5,000 / 親会社株式  5,000


<2>連結上の取引

以下の資料に基づき、次の問に答えなさい。 (単位:円)

  • P社は、S社発行済株式総数の70%を保有しており、S社を連結子会社としている。

  • S社は、当期中にP社株式20,000円を取得している。なお、当期末時価は25,000円である。

  • 税効果会計は考慮する(法廷実効税率は40%とする)。

  • 現時点でP社の貸借対照表に計上されている諸勘定の金額は以下のとおりである。
    ・自己株式 △10,000円
    ・その他有価証券評価差額金 7,000円
    ・非支配株主持分 22,000円

  • S社のその他有価証券評価差額金の金額は3,000円であり、保有株式はP社株式のみである。

①時価評価取消時の個別仕訳を完成させなさい。

繰延税金負債        2,000 / 親会社株式  5,000
その他有価証券評価差額金  3,000 /

②親会社株式の連結修正仕訳を完成させなさい。

自己株式     14,000 / 親会社株式  20,000
非支配株主持分   6,000 /

③上記親会社株式を、23,000円で売却した場合の個別上・連結上の仕訳を完成させなさい。
 法人税等は考慮すること。

≪個別上の仕訳≫

現金預金  23,000 / 親会社株式     20,000
          / 親会社株式売却益  3,000
法人税等  1,200 / 未払法人税等  1,200

法人税等1,200 = 売却益3,000 × 実効税率40%

≪連結修正仕訳≫

親会社株式売却益  2,100 / 法人税等      840
             / その他資本剰余金  1,260
非支配株主持分に帰属する当期純利益 540 / 非支配株主持分  540

①その他資本剰余金1,260 = 売却益3,000 × 70% × (1 - 実効税率40%)
②非支配帰属純利益540 =売却益3,000 × (1 - 70%) × (1 - 実効税率40%)


<3>持分法適用会社の場合の仕訳

以下の資料に基づき、次の問に答えなさい。 (単位:円)

  • P社は、A社発行済株式総数の30%を保有しており、A社を連結関連会社としている。

  • それ以外の資料は、<2>連結上の取引と同一とする。

①親会社株式の連結修正仕訳を完成させなさい。

自己株式  6,000 / 投資有価証券  6,000

②上記親会社株式を、23,000円で売却した場合の連結上の仕訳を完成させなさい。
 法人税等は考慮すること。
※個別上の仕訳は、<2>連結上の仕訳と同一のため省略

投資有価証券  540 / 持分法による投資損益  540
持分法による投資損益  540 / その他資本剰余金  540

持分法による投資損益1,260 = 売却益3,000 × 30% × (1 - 実効税率40%)


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