日商簿記範囲外のEX論点【有価証券③】~有価証券の差入、保管等~

日商簿記3級から1級の範囲外の論点、および範囲内ではあるものの出題率の極めて低い論点を紹介します。
基本的に、公認会計士・税理士等で紹介されるような論点となります。
なお、論点に対しての適用指針等は紹介しません。

今回は、有価証券の論点から「差入・保管・貸借」を紹介します。
※この論点は日商簿記1級および全経簿記1級の範囲となります。




1.有価証券の差入と保管

概要

金銭の貸借等の担保として、現金ではなく、保有している有価証券を差し入れることがあります。

差し入れている(保管している)有価証券がある場合、その旨と貸借対照表価額を、貸借対照表に注記する必要があります。

また、契約内容によっては、保管側に自由処分権が与えられていることがあり、その場合は売却処理等が可能となります。


仕訳

差入時の仕訳(借手側)

差入有価証券  XXX / 有価証券  XXX

所有権はまだ相手へ移転していないため、本来は仕訳は不要です。
しかし、他の有価証券と区別するために、上記仕訳のように備忘記録を残していることがあります。

備忘記録を残している場合、取得原価差入有価証券勘定(備忘勘定)を計上します。

期末時の時価評価は、有価証券の保有目的による評価基準により行います。

差入時の仕訳(貸手側)

保管有価証券  XXX / 預り有価証券  XXX

借手側同様、所有権がこちらへ移転していないため、本来は仕訳は不要です。
しかし、他の有価証券と区別するために、上記仕訳のように備忘記録を残していることがあります。

備忘記録を残している場合、時価保管有価証券勘定(借方、備忘勘定)と預り有価証券勘定(貸方、備忘勘定)を計上します
(貸手側は借手側の帳簿価額を知りえない為)。


2.有価証券の貸借

概要

上記のような担保としてではなく、消費貸借取引等によって有価証券の貸借が行われることがあります。

貸し付けている(借りている)有価証券がある場合、その旨と貸借対照表日の時価を、貸借対照表に注記する必要があります。


仕訳(借手側)

貸付時の仕訳

貸付有価証券  XXX / 有価証券  XXX

所有権はまだ相手へ移転していないため、本来は仕訳は不要です。
しかし、他の有価証券と区別するために、上記仕訳のように備忘記録を残していることがあります。

備忘記録を残している場合、取得原価貸付有価証券勘定(備忘勘定)を計上します。

期末時の時価評価は、有価証券の保有目的による評価基準により行います。

仕訳(貸手側)

借入時の仕訳

保管有価証券  XXX / 借入有価証券  XXX

差入側同様、所有権がこちらへ移転していないため、本来は仕訳は不要です。
しかし、他の有価証券と区別するために、上記仕訳のように備忘記録を残していることがあります。

備忘記録を残している場合、時価保管有価証券勘定(借方、備忘勘定)と借入有価証券勘定(貸方、備忘勘定)を計上します
(貸手側は借手側の簿価を知りえない為)。

売却時の仕訳

保管有価証券  XXX / 借入有価証券  XXX
現金預金    XXX / 保管有価証券  XXX

借りた有価証券を売却した場合、将来同一の有価証券を買い戻す義務が発生します。
そのため、有価証券を受け入れる処理と売却の処理を同時に行います。

受け入れ時、時価保管有価証券勘定(資産)と借入有価証券勘定(負債)を計上します。

また、この取引によって借入有価証券がオンバランスされる為、当該借入有価証券の注記処理は不要となります。

※担保として保有していた保管有価証券を売却した場合も、同様の処理となります。

期末時の仕訳

借入有価証券  XXX / 有価証券評価益  XXX
          or
有価証券評価損  XXX / 借入有価証券  XXX

期末時の時価評価は、売買目的有価証券の処理に準じます。

注意点として、借入有価証券は負債の為、

  • 時価が上がった場合 ⇒ 評価損を計上

  • 時価が下がった場合 ⇒ 評価益を計上

することになります。

買戻し時の仕訳

保管有価証券  XXX / 現金預金  XXX

買戻しを行った際の金額は、取得価額となります。
勘定科目ですが、「有価証券」でも問題はありません。

返還時の仕訳

借入有価証券  XXX / 保管有価証券   XXX
           / 有価証券売却益  XXX
          or
保管有価証券   XXX / 借入有価証券  XXX
有価証券売却損  XXX /

売却時の処理は、売買目的有価証券の処理に準じます。
また、買戻し時と同タイミングで行われる場合もあります。


3.例題

(1)差入と保管

以下の取引について、借手側・貸手側の仕訳を示しなさい。

①A社は、B社より200,000円の現金を借り入れ、その担保としてC社株式400株(取得原価 @500、時価 @550)を差し入れた。
その際、差し入れた有価証券の備忘記録を行っている。

≪借手側≫

現金預金  200,000 / 借入金  200,000
[差入有価証券  200,000 / 有価証券  200,000]

≪貸手側≫

貸付金  200,000 / 現金預金  200,000
[保管有価証券  220,000 / 預り有価証券  220,000]


(2)貸借

以下の資料を参考に、取引について、借手側・貸手側の仕訳を示しなさい。

  • A社、B社ともに洗替法を採用している。

  • B社は、C社株式に対して自由処分権が与えられている。

  • 有価証券の貸借に関する備忘記録はつけていない。

①A社は、B社に売買目的で保有しているC社株式400株(取得原価 @500、時価 @550)を貸し付け、現金200,000円を受け取った。

≪借手側≫

現金預金  200,000 / 借入金  200,000

≪貸手側≫

貸付金  200,000 / 現金預金  200,000

②B社は、C社株式300株を@520で売却し、代金は当座預金に入金された。

≪借手側≫

仕訳なし

≪貸手側≫

保管有価証券  156,000 / 借入有価証券  156,000
現金預金    156,000 / 保管有価証券  156,000

有価証券156,000 = 300株 × 売却時時価@520

③期末を迎えたため、時価評価を行う。
 C社株式の決算日時価は@530であった。

≪借手側≫

有価証券  12,000 / 有価証券評価益  12,000

評価益12,000 = (決算日時価@530 - 取得原価@500) × 400株

≪貸手側≫

有価証券評価損  3,000 / 借入有価証券  3,000

評価損3,000 = (売却時時価@520 - 決算日時価@530) × 300株

④翌期になったので、再振替仕訳を行う。

≪借手側≫

有価証券評価益  12,000 / 有価証券  12,000

≪貸手側≫

借入有価証券  3,000 / 有価証券評価損  3,000

④B社は、C社株式300株を@510で購入し、代金は当座預金から支払い、400株をA社に返還した。

≪借手側≫

仕訳なし

≪貸手側≫

保管有価証券  153,000 / 現金預金  153,000
借入有価証券  156,000 / 保管有価証券   153,000
             / 有価証券売却益  3,000

有価証券156,000 = 300株 × 売却時時価@520

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