日商簿記範囲外のEX論点【退職給付会計②】~退職給付信託~
日商簿記3級から1級の範囲外の論点、および範囲内ではあるものの出題率の極めて低い論点を紹介します。
基本的に、公認会計士・税理士等で紹介されるような論点となります。
なお、論点に対しての適用指針等は紹介しません。
今回は、棚卸資産の論点から「退職給付信託」を紹介します。
1.退職給付信託
概要
退職給付信託とは、保有する金銭や有価証券を用いて、退職給付債務の積立不足を解消するために設定した信託のことです。
退職給付信託に信託した財産は、下記要件を満たすことにより、年金資産として扱われます。
信託が退職給付に充てられるものであることが、退職金規定等で確認ができること
信託財産を、退職給付に充てることに限定した他益信託(委託者と受益者が別)であること
事業主から法的に分離されており、信託財産の事業主の返還・受益者に対する詐害的行為が禁止されていること
管理・運用・処分は、受託者が信託契約に基づいて行うこと
なお、年金資産と退職給付信託資産の合計額が、対応する退職給付債務の額を超える場合(前払年金費用として計上されるような場合)は、年金資産として認められません。
仕訳
信託時の仕訳 (有価証券を信託)
退職給付信託に金銭・有価証券を信託した場合、時価で退職給付引当金を減少させます。
また、時価と簿価の差額分は、退職給付信託設定損益勘定で計上します。
なお、有価証券の場合、期末日時価と見込額
(退職給付信託時の金額 + 期待運用収益)
に相違があった場合、数理計算上の差異として扱われます。
返還時の仕訳 (有価証券を信託)
退職給付信託を返還する場合、信託時の簿価で退職給付引当金を増加(前払年金費用を減少)させます。
返還された退職給付信託に係る数理計算上の差異の仕訳
≪不利差異≫
≪有利差異≫
返還された退職給付信託に、数理計算上の差異が発生していた場合は、年金資産の返還と同様の処理を行います。
2.例題
(1)退職給付信託
以下の資料に基づいて、仕訳を示しなさい。 (単位:円)
当社は、従業員非拠出型の確定給付企業年金制度を採用している。
退職給付に関する資料は、以下の通りだった。
期首退職給付債務:500,000円
期首年金資産:250,000円
勤務費用:5,000円
割引率:年4%
長期期待運用収益率:年3%
当期掛金拠出額:12,000円
期末退職給付債務実績額:525,000円
期末年金資産評価額:269,500円期首時点で、差異は生じていない。
数理計算上の差異は、発生年度の翌年から10年にわたって償却を行う。
当期首に、その他有価証券として保有しているA社株式(帳簿価額:120,000円)を退職給付信託へ拠出した。
長期期待運用収益率は4%、拠出時点での時価は150,000円であった。
なお、期末時の時価は160,000円である。
①退職給付信託開始時の仕訳を示しなさい。
②退職給付費用計上時、および掛金拠出時の仕訳を示しなさい。
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