日商簿記範囲外のEX論点【退職給付会計①】~前払年金費用~

日商簿記3級から1級の範囲外の論点、および範囲内ではあるものの出題率の極めて低い論点を紹介します。
基本的に、公認会計士・税理士等で紹介されるような論点となります。
なお、論点に対しての適用指針等は紹介しません。

今回は、棚卸資産の論点から「前払年金費用」を紹介します。
※この論点は、一部日商簿記1級の範囲を含みます。




1.前払年金費用

概要

前払年金費用とは、退職給付会計において、年金資産の額が退職給付債務の額を超過した場合の当該超過額のことです。

前払年金費用が発生する要因として、

  • 数理計算上の差異の発生による、退職給付債務の減少もしくは年金資産の増加

  • 退職給付水準の引き下げによる退職給付債務の減少

といったものが考えられます。


連結上の表示

前払年金費用は、連結貸借対照表上では退職給付に係る資産として計上されます。

なお、親会社が企業年金制度、子会社が退職一時金制度というように、複数の退職給付制度を採用していることによって発生した前払年金費用と退職給付引当金は、金額を相殺せず両建てで表示すべきと考えられています。


仕訳

振替時の仕訳

前払年金費用  XXX / 退職給付引当金  XXX

退職給付会計において、退職給付引当金の額がマイナスになった場合は、マイナス分の金額を前払年金費用勘定(投資その他の資産)に振り替えます。

掛金拠出時の仕訳

前払年金費用  XXX / 現金預金  XXX

本来は、退職給付引当金を減少させる取引ですが、前払年金費用を計上している場合は、前払年金費用を増加させます。

年金資産返還時の仕訳

現金預金  XXX / 前払年金費用  XXX

年金資産の積立超過が発生している場合、年金資産が返還されることがあります。
この場合、前払年金費用を減少させます。

返還された年金資産に係る数理計算上の差異の仕訳

≪不利差異≫

退職給付費用  XXX / 前払年金費用  XXX

≪有利差異≫

前払年金費用  XXX / 退職給付費用  XXX

返還された年金資産に、数理計算上の差異が発生していた場合は、返還時に退職給付費用を計上します。

計上すべき金額は、

  • 差異の金額が明らか ⇒ 返還された年金資産に対応する金額

  • 差異の特定が困難 ⇒ 返還時の年金資産の比率等により、合理的に按分された金額


2.例題

(1)前払年金費用への振替

以下の資料に基づいて、仕訳を示しなさい。 (単位:円)

  • 当社は、従業員非拠出型の確定給付企業年金制度を採用している。

  • 退職給付に関する資料は、以下の通りだった。
    期首退職給付債務:500,000円
    期首年金資産:500,000円
    勤務費用:6,000円
    割引率:年4%
    長期期待運用収益率:年3%
    当期掛金拠出額:12,000円
    期末退職給付債務実績額:526,000円
    期末年金資産評価額:534,000円

  • 期首時点で、差異は生じていない。

  • 数理計算上の差異は、発生年度の翌年から10年にわたって償却を行う。

①退職給付費用計上時の仕訳を示しなさい。

退職給付費用  11,000 / 退職給付引当金  11,000

①退職給付費用11,000 = 勤務費用6,000 + 利息費用20,000 - 期待運用収益15,000
②利息費用20,000 = 退職給付債務500,000 × 割引率4%
③期待運用収益15,000 = 年金資産500,000 × 期待運用収益率3%

※退職給付引当金額:退職給付債務500,000 - 年金資産500,000 = 0
※退職給付債務の差異:期首退職給付債務500,000 + 勤務費用6,000 + 利息費用20,000 - 退職給付債務実績額526,000 = 0
※年金資産の差異:年金資産評価額534,000 - 期首年金資産500,000 - 期待運用収益15,000 - 掛金拠出額12,000 = 7,000(有利差異)

②掛金拠出時の仕訳を示しなさい。

退職給付引当金  12,000 / 現金預金  12,000

③退職給付引当金の額がマイナスとなった。
 前払年金費用振替時の仕訳を示しなさい。

前払年金費用  1,000 / 退職給付引当金  1,000

退職給付引当金△1,000 = 期首計上額0 + 退職給付費用計上額11,000 - 掛金拠出額12,000


(2)年金資産の返還

以下の資料に基づいて、仕訳を示しなさい。 (単位:円)

  • 当社は、従業員非拠出型の確定給付企業年金制度を採用している。

  • 退職給付に関する資料は、以下の通りだった。
    期首退職給付債務:650,000円
    期首年金資産:800,000円
    勤務費用:8,000円
    割引率:年4%
    長期期待運用収益率:年3%
    当期掛金拠出額:20,000円
    返還する年金資産の額:80,000円
    数理計算上の差異:50,000円(有利差異、前期末に発生)

  • 退職給付債務の見込額および年金資産の額は、期末の実績額と差異がなかった。

  • 数理計算上の差異は、発生年度の翌年から10年にわたって償却を行う。

①年金資産返還時の仕訳を示しなさい。
 なお、返還する年金資産に対応する数理計算上の差異の金額は6,000円であった。

現金預金  80,000 / 前払年金資産  80,000

前払年金費用  6,000 / 退職給付費用  6,000

②退職給付費用計上時、および掛金拠出時の仕訳を示しなさい。

退職給付費用  5,600 / 前払年金費用  5,600

前払年金費用  20,000 / 現金預金  20,000

①退職給付費用11,000 = 勤務費用8,000 + 利息費用26,000 - 期待運用収益24,000 - 差異償却額4,400
②利息費用26,000 = 退職給付債務650,000 × 割引率4%
③期待運用収益24,000 = 年金資産800,000 × 期待運用収益率3%
④差異償却額4,400 = (数理計算上の差異50,000 - 返還する年金資産に対応する数理計算上の差異6,000) / 10年

③返還する年金資産に対応する数理計算上の差異の金額が判明しなかった場合の、年金資産返還時の仕訳を示しなさい。

現金預金  80,000 / 前払年金資産  80,000

前払年金費用  5,000 / 退職給付費用  5,000

返還される年金資産に対応する数理計算上の差異5,000 = 数理計算上の差異50,000 × 返還する年金資産80,000 / 年金資産合計額800,000

※差異償却額: (数理計算上の差異50,000 - 返還する年金資産に対応する数理計算上の差異5,000) / 10年 = 4,500


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