GAW ~Game of Another World~  第2話

2:夜にのびる影

2.1.1

場所:大森林
時刻:夜

キリ「森に入ってすぐ廃城がある」
キリ「今日はそこに泊まるぞ」

 石造りの古びた廃城。
 一部城壁が崩れ中が見える。

テル「幽霊でも出てきそうですね」
キリ「でるぞ」
キリ「といっても低級霊ザコだけどな」
キリ「テルは幽霊は苦手か?」
テル「はい すごく」
キリ「良い機会だ 慣れておけ」
キリ「お守りも貸してやる 特別だぞ」

 キリ、テルに短刀ダガーを渡す。

キリ「ゴーストには普通の武器じゃ効果がない」
キリ「それは祝福がついた特別な武器だ」
キリ「それだったら倒せる がんばれよ」
テル「頑張れ って・・・」
キリ「ああ テルが倒すんだ」
キリ「安心しろ キリさんのサポートつきだから」
テル「や、やってみます」
テル「キリさんは 幽霊は平気なんですか?」
キリ「ん? 苦手だよ テルと一緒」
キリ「大丈夫だよ 苦手だけど怖くはないから」
キリ「幽霊よりも怖いものがあるから」
キリ「さ 行くぞ」

 廃城に入る2人。
 テル、キリの指示でゴーストを倒す。

キリ「これでおしまい 楽勝だろ」
テル「はいっ キリさんのお陰です」
キリ「じゃ 明かりをつけるか」

 キリ、照明器具に火をおとす。
 部屋に明かりが広がる。
 光から逃げるように動く、不自然な影。
 テル、地面を蹴って、その影にダガーを突き立てる。
 影、煙になって消える。

キリ「やるじゃん」
テル「なんか変だったので」
キリ「そうだ 常にアンテナを立ておけ じゃ 飯にしよう」

2.1.2

場所:廃城
時刻:夜  

 テルとキリ、食卓を挟んで向かい合う。
 テーブルに並ぶ料理を口に運ぶ。

テル「おいしいっ!」
テル「すみません ボクばっかり食べちゃって」
キリ「いいよ テルが美味しそうだと幸せな気分になれるからさ」
テル「すごく美味しいです」
キリ「師匠からみっちり仕込まれたからな」
キリ「『食べることは生きることだ』」
キリ「『味を楽しむのは生きることを楽しむことだ』」
キリ「『だからお前は最初に料理を覚えろ』って」
キリ「まったく意味不明いみふだけどさ」
キリ「テルを見てると 頑張って良かったって思えるよ」
テル「師匠さんってスゴイ人なんですね」
キリ「そうだな でもまるっきり善人ぜんにんって訳じゃない」
キリ「料理だって本当は私のためじゃない」
キリ「師匠は面倒だから私に作らせたんだ」
キリ「チューターだけあって人のあつかいがうまいんだ」

 キリ、嬉しそうに話す。

テル「師匠さんに会えるのが楽しみです」
テル「ここからどれくらいかかるんですか?」
キリ「半日だ 朝早くに出発して夕方に着く」
テル「明日あしたには着くんですね」
キリ「ああ そうだ」
キリ「師匠は親身になってくれるよ」
キリ「私よりもずっとさ」

2.2.1

場所:大森林
時刻:早朝~夕方

 テルとキリ、廃城から出発。
 テル、キリの早さについていくのがやっと。
 キリ、テルを待って立ち止まる。

キリ「悪い 早かったな 少し休憩にしよう」
テル「すみません」
キリ「気にするな」
キリ「テルが道に慣れていないことを考えに入れていなかった」
キリ「悪いのは私だ」
テル「いえ そんな」
キリ「そうだ テルに渡したいものがある」

 キリ、テルに小さい革袋を渡す。
 テル、袋を開ける。
 中からは種が出てくる。

テル「コレは?」
キリ「疲労回復と覚醒作用がある種だ」
キリ「便利だが使い過ぎは厳禁だ」
キリ「反動がヤバイ 倦怠感けんたいかん眩暈めまいとか」
キリ「だから適量な」

 テル、一粒口に入れる。不味い。

テル「ーー独特な味ですね」
キリ「その分 効果は絶大だ」

 キリ、テルの手から一粒つまみ、口に運ぶ。

キリ「うん 不味いな」

 キリ、笑顔を見せる。

キリ「さて 出発だ」

 テル達、休憩と進行を繰り返す。
 時間は、テル達より早く進む。
 空は赤く、森には長い影がのびる。
  
キリ「もうすぐ夜だな」
キリ「影が来る 準備をしておけ」

2.3.1

 夜の闇の中。
 木々の間から影が姿を現す。
 巨大な黒い狼。
 キリ、口笛を吹く。

キリ「随分と立派な影だな」
テル「アレって なんなんですか?」
キリ「ボスの分身だよ ボスは出現した場所から動けない」
キリ「だから分身を作るんだ」
キリ「分身はプレイヤーを殺すため どこまでもついてくる」
キリ「影っぽいだろ」
テル「ボクに倒せますか?」
キリ「テルにしかできない」
キリ「テル以外の攻撃で受けた傷はすぐに再生する」
キリ「でもボスと違ってダメージ自体は受けるからな」
キリ「私が影の動きを止める」
キリ「その間にテルがとどめをさせ」

 キリ、口の端をあげてウィンク。
  
キリ「来るぞ」

 狼、遠吠え一つ。暗闇を走る。
 キリ、矢を放つ。
 影、避ける。
 テルの目の前。飛びかかる。
 キリの恐ろしく早い第2射が狼に刺さる。
 倒れる。四肢に、次々と矢が打ち込まれる。

キリ「今だ!」

 テル、ダガーを引き抜き、狼に振りかぶる。
 狼の咆哮ほうこう
 音の塊がテルを直撃し、視界が歪む。
 刃は狼から逸れ、地面に刺さる。
 狼、黒い霧になって消える。

キリ「っつ!! こいつは厄介だ」
キリ「再生速度リジェネレイトが異常だ」
キリ「仕切り直しだ 気合を入れろよ テルっ!!」

 キリ、弓に矢を構える。
 テル、その先を視線で追う。
 狼、無傷で立っている。
 遠吠えひとつ。
 それから、一歩ずつ近づいてくる。

キリ「もう一度 動きを止める 今度は絶対に仕留しとめろ」
キリ「傷は治る なにがあっても躊躇ちゅうちょするな」

 キリ、弓を引き絞る。
 矢の先が、小さく震えている。

キリM(絶対当たる距離 それまでは我慢だ)
キリ「れたら負けの根比べか 上等だよ」

  キリ、額に汗が浮ぶ。

キリ「テルっ 必ず射抜いぬく」
キリ「だから必ず止めをさせ いいな!」

 テル、ダガーを握る。
 キリ、狙いを定める。
 狼、一蹴りで届く距離。
 キリ、額に浮かんでいた汗が大きくなる。
 汗が額から落ちる。
 睫毛をすり抜け目に入る。
 片目を目を閉じる。
 影、地面を蹴り飛びかかる。

 キリの矢が狼を射抜く。
 即座に2射目。
 狼を地面に縫い付ける。

キリ「いまだっ!」

 テル、ダガーを狼に突き立てる。
 狼、グズグスと溶けて崩れる。

キリ「やったな」
テル「キリさんのおかげです」
テル「目を閉じたときはあせりました」
キリ「エルフに鷹の目はいらない 耳でるからな」

 キリ、耳を指差し動かして見せる。

テル「よかったです」
キリ「心配性だな 私はベテランだぜ これくらぃーー」

 キリ、左手をテルに突き出す。
 テル、キリの腕に狼の牙が食い込むのを見る。
 キリ、腰から短剣を抜き、狼に突き立てる。
 狼、黒い霧になって消える。
 テル、状況を理解する。

テルM「1匹じゃなかった 狼は 2匹いた」

 キリ、左腕を押さえて膝をつく。

キリM(腕の感覚がない 弓は無理か)
キリ「逃げ時かもしれないな」
テル「多分 無理です すぐに追いつかれます」
キリ「同意見だ どうする?  白旗でもあげてみるか」
テル「心にもないこと言わないでください 何か策があるんですよね」
キリ「何でそう思う?」
テル「だってキリさん ずっと笑ってるじゃないですか」

 キリ、吐き捨てるように笑う。

キリ「策なんて上等なモノじゃない」
キリ「ギャンブルだよ 逃げるよりは少しだけマシな」
キリ「やるか?」
テル「やります」
キリ「良い返事だ」

 キリ、右手で弓を持つ。

キリ「双弓技だ 2人で1つの矢をる」
キリ「狙いも タイミングも 全部私がやる」
キリ「テルは矢を引いて離すだけでいい」

 キリ、テルの胸に弓を押し当てウィンク。

キリ「私の腕になってくれよ」

 テル、弓を受け取る。
 革袋を取りだし、種を一握り。口の中に放り込む。
 矢を弓につがえる。
 奥歯を噛み、全力で引く。

キリ「上出来だ」

 キリ、右手でテルの頭をぽんぽん。
 テルの向かいに立ち、右手をテルの左手に重ねる。
 視線を合わせ、体を合わせる。

キリ「大切なのは力じゃない タイミングだ」
キリ「だから もう少し肩の力を抜け」
テル「はいっ」
テルM(不安しかない でも 勝算はある)
テルM(スライムの時と一緒だ きっとできる)

 テル、一瞬だけソレ・・に視線を落とす。

キリ「こんな時にのぞきか?」
テル「違いますよ」
キリ「終わったら いくらでも見せてやるよ」

 狼、遠吠え。
 一直線に走り出す。地面を蹴って飛び掛かる。
 キリ・テル、矢を放つ。
 矢、1匹目の時と同じ。不可避ふかひの軌道。
 狼、空中を蹴る。
 空中に足場でもあるかのように、さらに飛ぶ。

テルM(ーー2段ジャンプ!?)
テルM(誘導されたっ!!)

 狼の牙が、テルに襲いかかる。
 テル、口の端をあげる・・・・・・・

テルM(でも 悪くない)
テルM(スライムの時と一緒だ)
テルM(予想できれば・・・・・・ 対応できる!)

 テル、右手をダガーソレに滑らす。
 抜き取り、狼の口内に、腕ごと押し込む。
 刃が狼の肉を引き裂く。
 狼、牙をつきたて首を振る。
  
テルM(倒すのが先か 食いちぎられるのが先か)

 テル、腕のいたみが消える。
 絶望より早く。
 キリの右手がテルの右手を握る。
 テルの手をさらに押し込む。
 テル、左手でキリの手を握り、さらに押し込む。
 狼、小刻みに震え倒れる。
 崩れて煙になる。
 テル、確認するようにキリを見る。
 キリ、テルの頭をくしゃくしゃにする。

キリ「上出来だ」
テル「キリさんのおかげです」
キリ「まぁ そうだな」

 2人で笑う。

キリ「お互いボロボロだな」
テル「コレ治るんですか?」
キリ「一晩でな 手当てしてやるから見せてみろよ」

 キリ、傷口を手当てをする。
 テル、種の反動で目を回し倒れる

キリ「ちょっと 良かったぞ テル」

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