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さびしがりやのスベリダイ


 小高い丘にある公園に、さびしがりやのスベリダイがいました。 公園には、ヒメジオンの花がさきみだれていました。小さな子どもなら、あたまのさきまで かくれてしまうほど……。
 そのせいでしょうか、団地のちかくだというのに めったに子どもたちはあそびにきてくれません。

 ためいきばかりついていたスベリダイが、いつのころからか たのしそうに わらいごえをあげるようになりました。
 そのことにきがついた三日月が、ある夜、スベリダイに声をかけました。
「さびしがりやのスベリダイくん、さいきん なにかいいことがあったのかい? ばかにたのしそうじゃないか」
 「あっ三日月さん。ぼくにも、やっと ともだちができたんですよ。ほら、こんなにたくさん」
 スベリダイは、うれしそうにわらったかとおもうと、きゅうに
「こらこら、順番をやぶっちゃだめじゃないか。ならんで、ならんで」
 と、やさしい声でいいました。
 三日月は、目をこらしてみましたが、スベリダイのまわりには ヒメジオンの花が風にゆれてるばかり。
 やれやれ かわいそうに、スベリダイくんも、ついに あたまがおかしくなったか……と、つぶやくと くびをふっていってしまいました。
 

 秋がきて、冬がきて、それから二年目の夏のことです。
  三日月がスベリダイのいる公園にきたとき、さきみだれていたヒメジオンの花がかられ 公園らしくなっていることにきがつきました。くさりだけになっていたブランコも、ペンキぬりたてのピカピカのものにかわっていました。
 ほうーッと、三日月は、ながいあごをしゃくるとスベリダイに声をかけました。
「どうだい、スベリダイくん、あたまのちょうしは。それにしても公園らしくきれいになったじゃないか。これでまた、こどもたちとあそべるよ」
 スベリダイは、まえよりももっとさびしそうな声でいいました。
「あー、三日月さんですか?私のともだちは、いってしまいましたよ。あたらしい団地の売り出しが始まって、草ぼうぼうの公園があったんじゃ うれるものもうれなくなってしまう……と、今朝から あっというまにこれですよ。ヒメジオンの花といっしょに 妖精たちもいってしまいましたよ」
「なに、妖精だって?」
「えぇ、三日月さんの目にはみえなかったでしょうけど、ヒメジオンの花のなかには妖精がすんでいたんですよ。ある日、ツバメのせなかにのってやってきましてね。こんなすみやすいところはないって みんな よろこんでいたんですよ。それなのに……。
 あっというまのことでしたよ。つぎのすみかも さがすひまさえなかった。ぶじに あたらしいすみかをみつけられたらいいのだけれど……」
 スベリダイは、ほっと といきをつくと、まえよりもさびしいかおで下をむいてしまいました。
 三日月さんは、こまったかおで
「でもまあ、あしたからは、こどもたちがきてくれるよ。元気いっぱいのこどもたちが……。そうしたら、いそがしくなって 妖精なんていう、いたのかいないのかわからないようなもののことなど わすれてしまうよ」
と、声をかけるといってしまいました。


「わすれたりしないよ。きみたちのことはぜったいに……」
 枯れ草のにおいのなかで、スベリダイは、ポツリとつぶやきました。

                            おわり


  


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