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トンテン山にふる雨は


 雨がふりつづきました。
 ふってもふっても、おわりがないように、ふりつづきました。人々は青空の色をわすれ、もう二度と太陽がかおをださないのではないかと、ためいきをつきました。
 三日まえには、水のあふれた小川に、子どもがながされました。

 ふりやまない雨にしびれをきらした大工のトクさんが、
「おれはもう、がまんできねぇ」
  おかみさんにいいました。
 トンテン山の一本杉にのぼってみると、ハシゴをもちだしました。この村では、雨がふるときは、どこよりもさきに、トンテン山にふります。
 カラカラつゆがつづいて、あの一本杉の下で雨ごいをしたのはいつだったでしょうか。その夜以来、雨は、ふりつづいています。とめる おかみさんをふりきって、トクさんは、つきささるようにふる雨のなか、トンテン山にむかいました。
 どこまでもどこまでものびた一本杉は、どのくらいの高さがあるのか、村の長老でさえしりません。大昔からそこにあり、年々大きくなっていることだけはたしかです。下からみあげると、一本杉のはんぶんから上は、まっくろい雲のなかにかくれています。
 ずぶぬれになりながら、トクさんは、一本杉にのぼりはじめました。
 一つめの雲の上に、また雲がありました。
 五つめの雲の上に頭をだしたとき、あまずっぱいにおいが トクさんのはなをつきました。
(酒だ!)
 あたりをみまわすと、1しょうびんをかかえたまま、いびきをかいている白いひげのおじいさんがいました。
 どうやら、これが空のかみさまらしいのです。そして、そのそばにある雨のモトセンがひらきっぱなしになっているではありませんか。
 ハハーッと、トクさんは手をたたきました。
 かみさまは、雨ごいをしたときのお酒を しこたま のんで、よっぱらってしまったのです。けいきよく モトセンをひらいたのはいいのですが、そのまま、よっぱらってねてしまったのでしょう。
 トクさんは、いそいで 雨のモトセンをしめると、思いきり かみさまのはげあたまをたたきました。

 うーんと、うなりながら、かみさまが目をさましたとき、トクさんのすがたは、もうどこにもありませんでした。
 それ以来、トクさんの村では、おみきは、一合までにきめられたということでした。

                       おわり


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