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バレンタインデーにはチョコレートを

                                                                            むかしむかし 3

  

 つぎに、魔法つかいのおばあさんとネズミの家にやってきたのは 色の白いかわいい女の子でした。
「あの、ハリガミをみてきたんですけど……」
と、ネズミのはったビラをさしだしました。
 魔法つかいとネズミは、とたんにうれしそうな顔をしました。
 こんどこそ魔法がお役にたちそうです。
 

 魔法つかいのおばあさんは 女の子をへやにいれると、はなしやすいように あったかいのみものをすすめました。
 女の子は、うんざりしたように ホットチョコレートのはいったカップをみつめて「相談にのってもらいたいのは、チョコレートのことなの」と、ためいきをつくようにいいました。
 

 女の子の名前はあかねちゃん。小学三年生です。
 あかねちゃんには、すきな男の子がいます。今年もバレンタインデイのきのう、その子にチョコレートをあげました。
 男の子は、まいとし、虫歯になるほどチョコレートをもらいます。今年もあかねちゃんのチョコレートで、23こめでした。
 でも、あかねちゃんはみてしまいました。あかねちゃんからもらったチョコレートをとなりの席の男の子、そうたくんに、「これ、やるよ」と、あげているのを。
 そうたくんは、まだ だれからも、もらっていませんでした。
 だから、うれしそうに「いいのかあ」なんていいながら、あかねちゃんのチョコレートをパクッと食べてしまいました。
 あかねちゃんが すきになってくれますようにと、いっしょうけんめい 願いをこめて作ったチョコレートを。

 たったのひとくちで─。
 

 だからでしょうか、あかねちゃんは、なんだか へんなきもちになってしまいました。
 きのうまで すきだった男の子がきらいになって、あばれんぼうで イタズラッ子の、チョコレートどろぼうのそうたくんがきらいではなくなってしまったみたいなのです。
「魔法つかいのおばあさん、あたしのチョコレートをとりかえしてほしいの。だって、あの子にあげたんじゃないもの。……あんなイヤな子、すきになりたくないもの」
 あかねちゃんは、うっすら なみだをうかべて、魔法つかいのおばあさんにうったえました。
「いちど、たべたものはとりかえせないよ」
 ネズミくんは、あきれたように女の子にいいました。
 魔法つかいのおばあさんは、「おだまり」と、ネズミくんをにらみつけました。
「魔法つかいはね、どんなことでもできるんだよ。あんしんおし。ただね、どうして その男の子がきらいなのかをおしえておくれ」
「どうしてって、そんなのきまってるわ。いつも あたしの かみのけ ひっぱるの、それから目が大きいから 金魚だっていじめるし……」
 あかねちゃんは、つぎつぎと そうたくんのらんぼうなことをいおうとして、このまえ、あかねちゃんがそうじ道具をこわしたとき、しかられついでだからと、自分がこわしたことにしてくれたことを思いだしました。
「ほらごらん、いい子じゃないか。おまえのチョコレートをほかの男の子にやってしまうようなイジワルより、ずっと やさしいよ」と、魔法つかいのおばあさんはいいました。
「でも……色が黒いわ」
 あかねちゃんは、むりやり そうたくんの悪いところをさがしだしました。でも、「それはげんきなしょうこ!」と、魔法つかいのおばあさんにいわれて、思わず うなずいてしまいました。
「さあさ、おまえのチョコレートをとりもどそうかね。いちど、からだのなかに はいったものをとりだすのは、ちよっとした大しごとだがね、なに、たいしたことはないよ。二、三日休めばなおることさ」
「えっ、そうたくん、病気になるの?」
「そりゃぁそうさ、いくら魔法でも、そんなにかんたんに とりもどせないよ」
 魔法つかいのおばあさんは、むずかしい顔でいいました。
 あかねちゃんは、しばらく下をむいて考えていましたが、
「おばあさん、もういいわ。あたしのチョコレートはそうたくんにあげることにしたわ。そんなに悪い子じゃないから……」
と、つぶやくとかえっていきました。
「へんな女の子……」
 ネズミは あきれていいました。
「あの子は、あかねちゃんがすきだから ついからかってしまう そうたくんのよさに気がついたんだよ」と、魔法つかいのおばあさんはわらいました。
 そして、おもいだしたように、
「また、魔法はつかえなかったね」と、大きなためいきをつきました。

                            おわり

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