よもぎが原の魔女
よもぎが原には、百才になる魔女がすんでいます。
年をとりすぎたせいか、ときどき じゅもんをわすれます。
そのよもぎが原に、ある日、トラックが二台 やってきました。よもぎが原に別荘がたてられることをしらせにきたのは、はやみみのウサギでした。それも、いっけんではありません。五十けんもたつというのです。
よもぎが原にすむ動物の中には、もうひっこしのじゅんびをはじめたものさえいます。
人間が何十人もやってきて、あちこちにクイをうちはじめました。
ブルドーザーがうなり、よもぎが原の一部がこわされはじめました。
「おばあさん、ながいつきあいだったけど、おわかれだね。もう あんなうるさいところには、一日だって すめないよ」
はやみみのウサギさん一家がにもつをまとめて、魔女のおばあさんの家にあいさつにきたのは、満月のよるでした。
もう、よもぎが原の動物たちのはんぶんは、いなくなっていました。
「おまちよ。ウサギさん。わたしゃ 今夜のような月をまっていたんだよ。このごろは目がうすくなって、やみよにゃ しごとはできないからねえ」
「しごとだって? 」
ウサギさんは、くびをふりました。
この何年も、おばあさんがしごとをしたのをみたことがなかったのです。魔法のツボをさいごにつかったのは、もう何十年もまえのことだと、おばあさんはいっていたではありませんか。口をとがらせたウサギさんに、
「そりゃあそうじゃ、ここじゃ 魔法をつかうひつようがなかったからさ。みんな なかよしで、もめごとひとつおこらなかった。じゃが、今度はちがう。よもぎが原は、わたすわけにはいかんのじゃ!」と、、きっぱりといったおばあさんは、
「これだけのものをあつめておくれ」
ウサギさんに一枚の紙をわたしました。
すみなれたよもぎが原をすてなくてもいいかもしれない……。
ウサギさん一家は、三才になったばかりのミミちゃんまで とびだしていきました。
さて、よもぎが原のまんなかに、魔女のおばあさんは魔法のツボをそっとおきました。右手には、じゅもんをかいた紙を、左手にはウサギさん一家があつめてくれた五十しゅるいの薬草をもっています。
「ムニャムニャム ムニャムニャムム……」
つぶやきながら つぎつぎに薬草をツボのなかにいれていきます。
ツボのなかから、みどり色のけむりがでてきました。ツボをふると、チャポチャポとおとがします。
「これでよし」
おばあさんは、口をすぼめてわらうと、ツボのなかの液体をよもぎのうえにかけていきました。
つぎの日のことです。
朝いちばんにやってきた工事カントクは、じぶんの目をうたがいました。じゅうたんのように やわらかだったよもぎが、ひとばんのうちに大きくなって大木になっていました。
たちかけていた家のはしらが、高い木のうえにひっかかっています。
「よもぎが原は、おばけが原」
人間がにげだしたあとは、またもとのじゅうたんのようなよもぎが原にもどったということです。
おわり
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