「まる子のR-1」の巻。第3話

はまじ:俺みたいな売れてない地下芸人は毎回2千円くらいノルマを払って出る。

まる子:今はまだ安いよ。昔は3千円払って出て、あたしゃ精々おじいちゃんしか呼べなかったよ。

はまじ:俺も爺ちゃんしか来なかったぜ。メディアに出れてない、勝ち上がれない、集客できない、となると、声がかからない。自分でライブにエントリーするしか方法はないぜ。でもそこから繋がりができるかもしれないよな。

まる子:ノルマなし、お客さん入る、そんな好条件のライブなんてないよ。呼ばれないのは自分の力のなさなんだから、数人の希少なお客さんの中で試して、それでウケた時はあたしゃ嬉しいよ。

はまじ:数人の客の笑いが数百人になった時はすげーもんあるぜ。

まる子:そんな大きい舞台に立ちたいよね、そのためには最低準決勝まで行かないとって事だよね。

はまじ:おう、俺の事、つまらない事やってて意味ないねってバカにしてきた永沢見返してーなぁ。

まる子:あたしもだよ。そんな事してて可哀想って馬鹿にした前田さんを見返したいよ。

はまじ:深夜のバイトも辛いけどよ、優勝したら売れてバイトしなくて済むようになるかもしれないからな!

まる子:そうだね!さぁ、あと一踏ん張り!今尺が2分10秒だから少し削って、中身の差し替えと、ウケない箇所をどうするか、微調整のみ!本番まであとライブ5個しかないけど足りるのかな!?

そしてR-1、1回戦初日が始まった。まる子とはまじは出場日はまだこれからだ。

まる子:今日220組受けて15人しか受かってないよ!?去年3回戦行ったブー太郎も落ちてる!あたしゃ怖くなってきたよ。

そして、まる子とはまじの1回戦の日を迎える。たまたま同じ日だったのだ。

先に出番を終えたはまじ。  

まる子:どうだった!?お客さん入ってた?

はまじ:入ってたぜ!まあ、いつも通りウケた!

まる子:ならきっと上がれるよ!

そして出番を終えたまる子。

まる子:結構手ごたえあり!受かったかもしれない!

この時点でまだ午後。結果が出るのは夜の8時頃。居ても立っても居られれず、夕飯も喉を通らないほど緊張しているまる子。

まる子:たまちゃん、会いにきたよ!

たま:まるちゃん、お疲れ様!

まる子:あたしゃこの時間が怖くて、一人で過ごすの孤独でさ。もし落ちた時、一人だとなんかすごく暗くなっちゃうからさ。

まる子の時代はブログで合格発表だ。

まる子:もうすぐ8時だ。まだ結果更新されてないね。8時ちょうど!まだ出てないねぇ。30秒経った!まだだね。8時1分。まだかぁ。

たま:まるちゃん、見すぎだって。  

まる:だって気になるんだもん!まるで病院の診察待ちみたいだよ、嫌なドキドキでしかないよ。ああ、8時15分。遅れてるね。

たま:審査が難航してるのかもね。

まる:あ!!結果出てる!!!

画面をゆーっくりスクロールするまる子。出番はDブロックだった。

まる:あ、Aブロックの大野君受かってる!Bブロックの、とし子ちゃん、永山君も受かってる!そろそろかな?あ、あたしの少し前のCブロックの丸尾君もだ!

プップクプーまる子(さくらプロダクション)

あ!あたしの名前だ!!!やったー!やったー!たまちゃん、見て!あたしの名前あるよね!?見間違いじゃないよね!?

たま:うん!確かにまるちゃんの名前あるよ!おめでとう!まるちゃん!

一方その頃はまじは。

はまじ:俺の出番前の丸尾が受かってる。で、俺より出番後のさくらの名前がある…。嘘だろ……? 俺、落ちたのか!?俺の名前がないぞ!?見間違いじゃないよな?うん、ないな、俺の名前。こんなあっけなく1回戦落ちかよ。死ぬ気でライブ出まくったのによ。いつも通りウケたのに。手応えもあったのに。

じゃあ手応え100点かって言われたら、80点くらいか?それじゃあダメか?正直丸尾のウケの方が75点だ!でもよ、こればかりはどんなに悔しがったって仕方ねーんだ。ウケが全てって訳でもねーからよ。 

それに案の定だけど花輪も受かってる。あいつ、ライブほとんど出てないだろ。悔しい。でも売れた人だから、そこは俺とは訳が違うから、何も言えねーぜ。俺は今、どこか遠くに1人旅にでも行きてー気分だ。

とにかく1人は辛い。。さくらにラインしよう。「おめでとう」

まる子:あ、はまじからだ!…はまじは落ちたから、なんか気まずいな。なんて返事していいのかわからないよ。はまじ、ここ最近毎日ライブ1日2本はしごした後バイトも頑張ってたのに。あたしゃここ最近のはまじのウケを知ってるよ。あのウケなら絶対に2回戦上がれると思ったよ。

はまじ:本当は絶望感でいっぱいだ。悔しくてさくらにライン打つ指が震えてるぜ。でもここで凹んでたら芸人の名が廃る。明るいフリをして、YouTube生配信やる!

「落ちましたー!でも、いいじゃんいいじゃんプップクプー!」

精一杯明るく振る舞うはまじ。周りの芸人が冷やかすコメントをする。

ブー太郎「やーい、1回戦落ち(笑)」

小杉「はまじの1回戦落ち、飯が進むなぁ!」

はまじ「ぴぇーん。あんまりだぜ〜!俺がイケメンだから落ちたのかな?」

そんな事を言っておちゃらけているが、内心ショックで仕方ない。2回戦絶対行けることを見越して、いくつもライブを入れていた。明日もライブがあるのだ。こんな理由でキャンセルするほどメンタル弱かったら芸人なんてやっていられない。しかも明日のライブには2回戦進出したまる子も丸尾もいるのだ。


後半へ続く

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