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「夢先案内人」の朝焼けを探す

小説やエッセイ、歌の歌詞でも、
場面が浮かぶ胸ときめく表現に出会い、ほぉ…っと溜息をつくことがある。

山口百恵の「夢先案内人」(←You Tubeで聴けます)は当時、中学生だった私にはロマンティックなフレーズが詰まった憧れるような世界だった。

♪朝の気配が東の空をほんのりと
♪ワインこぼした色に染めてゆく

…なんて素敵なんだろうとうっとりした。
好きな人に抱かれながら美しい朝焼けを眺める…そんな朝を、大きくなったら私も迎えるのだ、きっと。

ワインという言葉に大人の世界への憧れを一層高めていた。

月夜の海にゴンドラを浮かべる…。

おとぎ話のようなシチュエーション。
阿木陽子さんの歌詞がとても綺麗で心酔した。
台所の食卓に両肘をつき、テレビで歌う山口百恵を見つめ、

「この歌、すごく良いよなぁ…!」

と言うと、母も頷いた。

「ワインこぼした色ってどんなかな。そんな朝焼けを見てみたいわ。」

夢見るような口調の私に、母は

「寒いで。」

急にリアルをつきつけてきた。
母のBBA的感覚に思春期だった私は激しく反抗し、

「寒くないよ!」

と言い返したが、母は妙にキッパリと言い切った。

「舟やろ?水辺は冷える。寒いわ。」

…今なら、私もわかる。
確かに海や湖の近くは冷える。
娘たちが南港やディズニーランドへ出かける時は、海の側は寒い!と防寒を口うるさく言ったりした。

今、私が夜の海でゴンドラに乗ることになったら、
ヒートテックの極暖を着込んでダウンのロングコートにくるまり防寒対策するだろう。
ロマンティックの前に、カイロを持ち込む。
下手に眠ると死に至りそうな思いで朝焼けを迎えるのだろう…。

…いや、だからこんな真冬でなく、夏なら夜も半袖でいられるくらいの気温なのよ!
夏に乗るべき…と考え、あ、それなら虫除けスプレーもバックに忍ばせないと…と即座に思う辺り、
私もやはり母の娘…。

これだけ色々考えを巡らせても、山口百恵は

♪そんな そんな夢を見ました

とはぐらかすのだが。

ゴンドラはベッド、
海は昨夜、彼と月を眺めた部屋、
満ち足りた気持ちでぼんやりと眺める美しい夜明け…
そのゴンドラには私も乗ったことがある。

それでも、きれいな色合いの朝焼けを見ると今も、
「夢先案内人」の一節が浮かぶ。
口ずさみながら
ワインをこぼし染められた空はこんな色だろうか、と思う。

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