見出し画像

JANOME 3話

ここはケガレチの一番西に位置する場所ニシカミ。ほとんど誰も近寄らないこの場所は、ケガレチ一と言っても過言ではないほど陰の気が溢れている。住んでる人間は決して柄がいいとは言えない者たちが多く、廃墟と化した建物が不気味に立ち並んでいた。到着した燗蜜と麦の2名は、街のみんなの視線を浴びながらビルの中にある巨大な赤い扉を目指した。「へぇ〜、有名人のご登場じゃない。相変わらず野蛮ね。」「ほんといい迷惑だよ、こんな所にまで現れて。」なかなかの歓迎だ。さすがの鍵交換に酔っ払いを一人で行かせるわけにはいかないと同行した麦。「おい、聞こえてんぞお前ら。言いたい放題言いやがって。」麦は顔をしかめた。燗蜜は相変わらずふらふらと無表情のままだ。「目の前から女が一人歩いてきた。「おい、人殺し。とっとと失せな。」通りざまに喧嘩を売られ、麦はついにキレた。「誰が人殺しだって?ああ?黙って聞いてりゃ言いたい放題言いやがって。大体誰のためにこんなとこまで…」「やめな。相手してる時間ないよ。」燗蜜が止めた。確かに今日は売られた喧嘩をかう時間はなかった。鍵交換があるからだ。鍵交換とは、ケガレチにいくつか存在する陰の気が溢れた場所に、扉を隔てケガレチ中の陰、そしてキトリを閉じ込めている。この世に存在している陰や、日々送り込まれるキトリすべてを対処できるはずもなく、ほかの八咫烏たちがこの扉の中に閉じ込めていたため、扉が開かぬよう定期的に鍵を交換する必要があった。そんな役目も蛇の目が請け負っていた。「にしてもここはいつ来ても気味が悪い。とっとと片付けちまおう。」赤い扉の前に着いた二人。固く縛られた鍵を持つ麦だが人一倍怖がりだ。「いいか、慎重に……ん?硬いなにこれ、んん〜〜!なかなか外れないわね」麦が錆びついた鍵を外そうと苦戦している。「んん〜〜〜〜!っと」精一杯の力だ。「おい、そんな馬鹿力出したら壊れるだろ、いい加減にし…」パキ!!!「うわぁ!割れた!!早く新しい鍵を出せ!!」麦が焦るなか、扉がガタガタと揺れ出した。中からキトリたちが出てこようとしている。「おい!早くしろ!」麦は精一杯扉を押し戻している。「わかってる!焦らさないでよ」燗蜜は慌てて鍵交換をしようと鍵を落としてしまった。「ちょっ、もう…むり…」麦が精一杯抵抗するなか、ついに扉から勢いよく飛び出してきたキトリたちが次々に沸く。「だからお前との仕事は嫌いなんだ!!」「とにかく扉を先に閉めなきゃ」怒る麦とは正反対に静かな燗蜜。溢れ出すキトリたちを無理やり閉じ込め先に鍵をかけた。だがすでに出てしまっているキトリたちがうようよと漂い、二人を狙っていた。「どおする?数が多すぎる。」構えながら麦が聞いた。「いくよ。」燗蜜はそう言うと、一気に二人は走り出す。「この近くに池があっただろ、そこまで走れ。」迫り来るキトリに応戦しながら走る二人。「うおおおりゃあ!」麦がスリングブレイドをかまし続けるなか、燗蜜はまるで忍びのように軽快に飛び回り次々と倒していく。池に着いた二人はキトリに囲まれていた。「これで全部か?」「ああ」水回りに集まるという特性を持つキトリを上手く誘き寄せられた。すぅーっと息を吸い込んだ燗蜜が構え、筋肉を拡張させ始めた。腕が3倍にも大きくなった燗蜜は麦に忠告をした。「少し離れてて。」すると、地面に両手をつき目を閉じた。グラグラと揺れ動く地面がひび割れ始めた。血管は浮き出て赤黒く変化している。「バーンアウト」一気に溜まった気は勢いよく放出され、急激な圧と風で次々にキトリを押し潰していく。木っ端微塵となった体は池に投げ込まれていった。「ふぅ〜」手をつき座り込む燗蜜に後ろから強烈な一撃を放り込んだ麦。「この馬鹿女!おめぇがチンタラしたせいで危ないとこだっただろ!」「いた。」「ふんっ、まぁなんとか無事終わったわね。ほら、帰るわよ。」「動けない。」へたり込む燗蜜。バーンアウトは、一気に気を放出させることで強力な一撃を生み出すが、その分回復するのも時間がかかる。「無茶して。」麦は片手で燗蜜を抱えると二人は歩き出した。

一方、蛇の目の棲家では慌ただしさがおさまることはない。「ウネメ!帰ったなら言ってよ!」勢いよくドアを開けたのは暁だ。燃えるような赤い髪には今日もよく跳ねている。「ノック。」ウネメは一言そう言うと睨んだ。「そんなことより!ユミヒキ様からの仕事、あの二人に行かせたの?!燗蜜!あいつはやばいっしょ」信じられないというような物言いだ。「ちゃんとしてるわよ、たまにはね。」興味なさげにウネメは答えた。「例の会議が長引いてるし、ウズメ様も不在だし。こんな時に荷が重いけど今年も始まるわよ。」「ああ、もうそんな季節か。」ウネメは忘れていたが、今年もやってくる。あの大会が。「蛇の目の底力を見せつけてやるわよ。覚えてろ、あんのヤローども。」暁はメラメラと闘志を燃やしていた。「夕餉始まるわよー!」マリが下から呼んでいた。今宵は月が綺麗に登った宿で賑やかな夕餉が始まろうとしていた。

3話完


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?