JANOME 3.5話
6ヶ月前に遡るー。
蛇の目の棲家、蛇腹の間に招集がかかった。ここは鳳と呼ばれる最高幹部の3名しか使用できない部屋だ。久しぶりの紅一色の間に入ったウネメは静かに正座していた。ふすまに彩られたは絵はいつ見ても見事だ。「う〜〜〜っす。」颯爽と入ってきた1人の女から放たれる雰囲気は気持ちの良い風のようだ。だが同時に少し部屋の中がピリつく。長い黒髪は煌びやかで、彫の深い顔に長身で細身なスタイルがまるでモデルのようだ。この女こそ、蛇の目の鳳の1人である。「ウズメ様、ご無沙汰してます。」ウネメの隣にいた同じ花形であるレオが挨拶をした。レオは普段は無口で見た目もボーイッシュだが誰よりも礼儀が正しい。見た目もとっつきにくいが、彼女は昔喧嘩したとかの理由で上の歯がなく入れ歯なのでそこが唯一面白い。「今日は集まってもらってありがとう。この後やることが多くて、簡潔に話すわ。明日、朝一番で八咫烏招集議会に行く。議席が一つ空いたそうで、うちの評判をききつけてオファーしてきたってわけ。」そのままウズメは続ける。「このケガレチで初めての参加権よ。高翠が長期出張だから、代わりに私が出席することになった。それで、同行者が必要なの。分かるでしょ?ウネメ、レオ、花札、暁、そしてヒバリ。6人で向かおうと思ってるんだけど、問題ある?」あっさりと話す様はいつもながらえらく淡白だ。みんなの顔を見ながらウズメは淡々と話す。「驚きましたが、意義はありません。」暁が答えた。「なら決まりね。それじゃ、詳しいことは明日移動中に。」そう言うと足早に部屋を出た。「議会参加ってことは、確実に議席をもらえるってことよね。突然、うちに?」暁は核心をついた言葉を言った。議席とは、イヤシロチで行われる八咫烏のみが参加する政を行うとても貴重な席で、その席につけるのは11名の決まった人間のみだ。ほぼ全員といっていいほどイヤシロチ出身者である。この話をもらえたということは、蛇の目の勢力が確実に力をつけているといった意味があるが、裏を返せば脅威とみなされ何かしら警戒をされている可能性もある。万が一のため、護衛という役目で花形が招集されたというわけだ。「ウズメ様は信じてらっしゃるのでしょうか。」不安そうに花札が言うと、「あの方は細かいことにはこだわらない。知ってるでしょ?何があっても後の祭りって感じ。」ヒバリがすかさず答える。「そのために私たちが行くんじゃない。くだらない考察はやめて、とっとと明日に備えるわよ。」レオはそう言うと部屋を出た。
翌日。この日は乾いた風が吹いていた。暑くて少し湿った肌に服が絡みつく。わずかな緊張を胸に蛇の目一同は仲間とともに歩き出した。ここはイヤシロチ。八咫烏議会におけるウズメの護衛のため、花形として参加した5名。ウズメは議会に参加するため一足早く向かっていた。移動中のウズメからの説明は特になく、大事な日だからすぐキレるのは御法度。とだけ言ったが、全くどの口が言うか、と全員が思った。ウズメの短気は蛇の目一だ。「会議ってどれくらいかかんのかしら。」かれこれ、同じ場所に3時間はいるだろう、暇そうに暁が辺りを見渡した。「にしても、ここは空気が綺麗ね。」ケガレチの曇った空気とは違って、イヤシロチの空気は澄み、街も人もみんな活気に溢れていた。すると突然、叫び声が聞こえた。「何事?」様子を確かめようと向かったレオに続いたウネメが目にしたのは、複数の何かが1人の女を囲み襲っていた。深くフードをかぶり、只者ではないことは明らかだ。咄嗟に助けようとレオが攻撃をしかけた。(あの集団って…)ウネメはどこかで見たような気がした。叫び声を聞きつけ他の仲間たちがやってくる。「暁!」レオがそう呼ぶやいなや暁たちは次々に攻撃を仕掛けた。「なんですか!?気味が悪いです!」花札も応戦しながら不気味な何者かに見入っていた。すると突然、黒いフードを被った者たちが一斉に倒れ始めた。「え?!なにこれ?!」倒れた姿を見ると、全員が人間の姿で口から血を流し倒れている。「女は?!」レオが確認するとその女性は見る影もないほど顔が膨れ上がり、殴られた後が痛々しく息を引き取っていた。「そんな…」花札が泣きそうに呟く。「お前たち!ここで何をしている!」路地裏から1人の警官が現れた。「まずい」暁がそう言うと、警官は躊躇わずに発砲してくる。次々と警官が集まり始めたので、騒ぎを恐れたウネメたちは一旦この場を離れることにした。
一方の八咫烏議会では。「以上で、可決する。なにか意見のあるものはこの場で申すように。」議会進行役である男がそう言うと、議席に座っている1人の男が静かに言った。「蛇の目の評判はここ、イヤシロチまで届いている。素晴らしい活躍だ。キトリの始末まで請け負っているそうだね。」嫌味な言い方でわざとらしく馬鹿にした。「議会は初めてとのことだが、そんなめでたい日になぜ皇は顔を出さない?それともこのような場は好みではないか?」男は嫌味を続けたいらしい。皇は蛇の目のトップであり、絶対的な存在だ。堂々と座るウズメはこの場で眉ひとつ動かさなかったが、皇の話題となれば別だ。片眉が上がる。「度々申し上げますが、皇は高齢のため体調が優れず、この場に来ることは困難です。誰よりも礼儀を重んじる方ゆえ、こうして書状を持参したまで。それと、キトリの始末をしないと困るのはあなた方、イヤシロチもそうでは?」意味深に答えた。異様な空気のなか、それを遮るよう進行役が続けた。「では、これをもって11席目に就くは蛇の目代表の皇に代わりウズメどのに可決してよろしいか?」進行役がいうや否や、ドアを勢いよく開け1人の男が入ってきた。何やら慌てた様子で進行役に耳打ちをすると、顔色が変わる。ざわつき始めた周囲に、ウズメは嫌な予感がしていた。
ウネメたちは逃げ道を探そうと走り続けていた。「ねぇ、あいつら。どこかで見た気がしたと思った、憑人じゃない?噂で聞いたことがあったのよ。深いフードをかぶった怪物集団だって。」ウネメは引っかかっていたことを話した。「憑人?!まさかあの狂ってるって評判の?!なんかの怪しい宗教活動してるとか。」「宗教活動どころか殺人活動じゃない!それより今何時?」暁が時計を見た。「とにかくウズメ様に知らせないと。これは偶然じゃなさそうよ。」「ハメられたぽいね。」レオがそう言うと暁は確認を取る。「巻ける?レオ。」「わかった。」その場で二手に分かれる。議会所に着いたウネメたちは騒動の最中、すぐにわかった。こちらでももうすでに暴れた人間がいることを。すでに周りは倒れた人で溢れていた。「さぁ帰るよ。巣穴に。」ウズメは淡々と言うと何事もなかったかのようだ。「また派手にやらかしましたね。あは、ははは…」ヒバリは遠慮気味に苦笑いをした。「レオは?」レオがいないことに気付いたウズメ。「実はこっちでも面倒が起こって。それのために今巻いてます。」「わかった、合流しよう。」ウズメがそう言うとみんなで外に出た。
議会所では、議席で冷やかしていた男は顔半分が膨れ上がり倒れ込んでいた。ウズメの仕業のようだ。「あの女…絶対に許さんぞ!お前ら早く追いかけて捕まえろ!くそ、顔が痛い。」コツコツと靴の音が鳴った。「?!」1人の男が目の前で止まる。「黒丸様!」慌てた様子で見上げると、黒丸と呼ばれた男は体は人間、頭は山羊でまるでバフォメットのようだ。異様な空気を纏い、真っ黒のスーツに身を包みつま先まで高級感が漂っている。無言のまま煙草を片手に立っていた。「………」
乾いた風が肌に絡みついた日、この日から蛇の目の女6名は殺人の容疑がかけられ、ウズメの議会所での行いも含めて指名手配となった。指名手配になったのは大した問題ではない。重要なのは誰が憑人と繋がっていたか、だ。 3.5話完
★普段6名はフードをかぶって出歩くことがある。それは目立たないようにする以外に、憑人と接触するきっかけのためでもあった。憑人は用心深く、いつもフードを深く被り、仲間をそれらで判断しているという。
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