超過死亡の原因は分かっていない

2021年あたりから超過死亡が増えている。簡単に言えば、過去の死亡者数の推移から見てその年に死亡するであろう予想死亡者数と、実際の死亡者数との差だ。おかしいね?という声は多く聞かれる。森田 洋之さんの記事にはそのあたりのことが詳しい。

図1

図1は森田さんの記事で説明されている超過死亡者数を示すグラフだ。詳細は記事中を参照頂きたい。2012年から2019年までの死亡者総数(青色)を直線に近似して延長した線を予想死亡者数と仮定する。その線と実際に観測された総死亡者数(赤色)との差を超過死亡者数と呼ぶ。この超過死亡者数にはコロナによって死亡した人数も含まれる。コロナ死者は正確に把握されているから、それを差し引いた値(黄色)と予想死亡者数との差が、原因不明の超過死亡者数だ。

超過死亡者数という概念は、本来は季節性インフルエンザの流行を把握する為の物だった。インフルエンザは冬場、特に1月から3月あたりにかけて流行するので、一週間単位で予想死亡者数の見積もりが出来ないとインフルエンザの流行を読み取る事が出来ない。その為、統計的に精密な分析が必要になる。コロナ禍ではコロナ死亡者が季節に無関係に発生したので、予想死亡者数の見積もりに大きな誤差が生じた。したがって上の森田さんの示した年単位のグラフにおける2019年以前のデータからの直線近似を使った予想死亡者数の見積もりは、年単位での超過死亡者数の見積もりには適切だ。2023年まででおよそ20万人の超過死亡者数が見積もられる。

ではいったいこの超過死亡者はなぜ生まれたのだろうか?という疑問が沸き起こる。私の知る範囲で、詳細な分析を行ったのは仁井田 浩二さんの記事だと思う。

図2

図2は仁井田さんの示したグラフである。コロナ死亡者数を4倍に増やしたデータ(緑色)と、超過死亡者数(ピンク色)が一致する。したがって超過死亡者は「PCR陰性のコロナ死亡」だろうと結論している。

最近になって池田 信夫さんが、この超過死亡者は医療逼迫によって、本来の医療が受けられなかった一般の患者(コロナ未感染)の死亡によるものだ、という説を立てられた。

図3

以上の二方のデータ解析には致命的な誤りがある事を述べる。
図3ではコロナ死者数(水色)が正弦波の形で生じたと仮定した。それと同時に原因不明死者数(紫)が加わった場合を考える。予想死亡者数(橙)に時間と共にやや上昇する、という日本の事情を想定すると、これら3本のグラフを合計した物が総死亡者数(黄色)となる。総死亡者数(黄色)から予想死亡者数(橙)を差し引いた物を超過死亡者数(青色)と呼んでいる。すると、超過死亡者数(青色)とコロナ死者数(水色)はピークが同じ位置に来る波となる。原因不明死者数(紫)の形が、コロナ死者数(水色)と同程度の周波数(山谷の細かさ)で無い限り、この傾向は変わらない。すなわち、超過死亡者数(青色)とコロナ死者数(水色)のピークが一致したからと言っても、原因不明死者数(紫)のグラフはコロナ死者数(水色)のグラフと、何ら相関が無い。

もちろん、コロナ死者数のグラフと原因不明死者数のグラフが同じピークを持っていても同様の結果になる。したがって、コロナ死者数のグラフと超過死亡者数のグラフを比べただけで、超過死亡者数とコロナ流行の関係を述べる事は出来ない。関係が有るとも無いとも言えない。

図4

次に原因不明死亡者数の内訳を推察する。
図4には近年増加傾向にある疾患死者数を、2018年1月を基準に取った変化率として表した。総死亡者(紫)は年ごとに数%の増加(2020年は減少)をしているが、2021年以降は大きな増加を示している。特に際立つものとして老衰、敗血症、心疾患は総死亡者の推移と同様の増加を示している。とりわけ老衰死者は一年で20%以上の増加率を示す。

グラフの形を見ると、冬場に多く、夏場に減少するという従来と同じ傾向を示しながら、全体的には一定の割合で増加するバイアス(偏り)がかかっている。黒色で示したコロナ死者数(実数)との相関は見られない。特に老衰死者は、原因が特定できていない筈だから、病院内、施設内であっても特段の治療を受けていない場合が多いと推察される。したがって、医療逼迫が起きていたとしても、おおきな影響は受けていないと思われる。

以上の事から2021年あたりから起きた総死亡者数の増加(いわゆる超過死亡者数)は医療逼迫の影響を受けていない可能性が高い。

森田さんが示したグラフ(図1)によると、超過死亡者数は少なく見積もっても2年間で20万人となる。コロナ死者数は累計で6万人、東日本大震災の死者数は1万5900人だから、これらに比べて数倍以上の死者が生じている事になる。しかし、この異常な超過死亡者数の原因を探る研究が行われていると私は承知していない。

これだけの事実が判明している今日において、医療逼迫によって超過死亡が生じたという仮説が出現し、ワクチンによってコロナ死に加えて医療逼迫による死亡者を抑える事が出来た、なる非科学的な妄想が幅を利かせる事に危機感を感じる。僭越ながら以上の考察を発表させていただいた。

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