歳をとること

なんだか大人になるにつれて、物事あるいは人間を一面的に見るより多面的に見ることができるほうが偉い、成熟している、崇高である、そうじゃなきゃダメだという考えに自分の頭がシフトするようになった。あるいは、支配されるようになったとも言えるかもしれない。

自分の痛みを感じながら他人を許すこと、それが暗黙のうちに求められるようになった。それが成熟するということなのかもしれない。

子どものころ、自分に求められるものは少なかったし、はっきりしていたかもしれない。テストで良い点を取る、運動部で沢山身体を動かす、高校は進学校に入り、4年制大学に入る。希望の大学ではなかったにしろ、大学では、真面目に勉強し、バンド活動に打ち込んだ。アルバイトも一生懸命やった。高校から少しずつ挫折というものを経験した。その時ある力を振り絞ってもどうしても古典や物理の点数はあがらなかった。センター試験はセンタープレより120点ほど点を落とした。大学のゼミでは末席で自らが明らかにせんとする仮説の研究計画をうまく立てることはできなかった。その結果、2年予備校には通ったが大学院進学は叶わなかった。就職を決意し、入職した1社目の会社、上司のラインをキッカケに2ヶ月で退職。建設の派遣をやりながら見つけた2社目、正社員にはなれず非常勤職員として時給で働いている。

高校生くらいから自分が好きな知識を増やすことが好きになった。田舎から高速バスなどを使って県内で少し栄えた街で服、CDを買う。時には県外まで出かけることもよくあった。それが楽しかった。ブックオフで漫画を沢山買って読んだ。

ただ知識を吸収することに喜びを感じる段階から、考え、何かを生み出すことを大袈裟に言えば社会から要請されるようになった。大学でのレポート、研究計画、何か答えがあるわけじゃないものに答えを出すこと。曲を作ること、答えがあるわけじゃないけれど、グットなメロディが浮かび上がると何よりも嬉しかった。

現職でも、マニュアルという答えがないなかで、自分の試行を積み重ねて答えを出さねばならない。周りの人からとやかく言われることもある。自分の意見を貫くある種の強さが必要とされる一方で、頑固であってはならない。他人を迎合し、受け入れなければ他者から認められることはない。そういうときに、僕は他人がなす試行を見守るというスタンスをとる。そうやって他人が自ら気づくのを待つ。しかし、人生は短い。他人の試行を待てないときがある。そういうときは、自分の意見を押し通そうとする。非情かもしれないがそういうときが確かにある。そうやって何かを生み出すことを繰り返している。

人間関係も答えがないからこそ、他人を一面的ではなく多面的に見ようという考えに至る。職場のあの人も感情的になると嫌な気持ちになってしまうけれども、あの時助けられたからとか笑顔を見せてくれることがあるからとかなんやかんやと理由を取り繕って、相手を受け入れようとする。つまり、そうやって大なり小なり色々抱えながら、お互いに許し合い時間を過ごすこと、人を愛することにも似た行為であると思える。

27歳を目前にした今、誰に求められたわけでもないけれど、成したいことと為さねばならないの多さとその巨大さに、ワクワクする一方で押しつぶされそうになる。今の仕事をするなかで、人々と親密な関係になること、結婚し、家族を作ること、子どもを育てることの素晴らしさを知りつつある。みんなどうやって結婚するのだろうか。なし崩し的にするのだろうか。気分?年齢?タイミングに人生を任せるのだろうか。きっと家族ができたら家族を守りたい、そのためなら何でも差し出せるのかもしれない。そんな家族を作りたい。家族を作るには精神的、経済的に自立する必要がある。僕にはどちらもできてはいない。今ある能力と時間とお金を投資し続けて毎日仕事に打ち込み、多くの人を幸せにする。僕のキャリアプランなんてその程度だ。子どもができたら、どんなことを話そうか。自分が積み上げてきた人生の上に立てるようにしたい。子どもからきっと学ぶだろうし、愛をもらうだろう。家族がいるなら、家がいる。中古か新築かオーダーメイドか建売か、家の構造って色々あるらしい。物理的な意味もあるし、何世帯で住むか、賃貸併用物件なんてものもあるらしい。ミサワホームで建てるのか。住友林業で建てるのか。バンドはどうするのか。刻々と過ぎていく時間、変わり続ける環境のなかでどう付き合っていくのか。

翻って、人や物事を多面的に見るのは、答えを出すための方法に過ぎないようにも感じる。それ自体が答えではない。誰も教えてくれないなかで、答えを出すこと。誰も教えてくれないから、最近は、手当たり次第興味のある本を買って読んでいる。大人になるってこんなに難しいことだとは思わなかった。なりたい大人になれると思ったら大間違いだ。ただ年をとるのではなく、年を重ねたい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?