亡くなったふたりの友のこと

 今年は、年の近い翻訳者友人ふたりの訃報が同じ月に届くこととなった。
 ひとりは、翻訳会社に勤務していたときの先輩である。彼はわたしが入社したあとすぐ辞めて、フリーの翻訳者になった。英・日・西の3か国語で特許をメインとして翻訳している人だった。
 数回、一緒に飲みに行ったし、ご自宅にうかがったこともある。わたしが行くと「いい酒あけよう」と、とっておきの一ノ蔵を出してくれた。二十年前のわたしは酒がいくらでも飲めたし、彼もそうだった。一本何千円もする日本酒を、二人ともぱかぱか飲んでは話をした。
 最後に会ったのは3~4年ほど前だろうか。お嬢さんの大学入学が決まり「お祝いしよう」という口実で飲んだ。このとき一冊の本を貸してくれたので「(わたしが)お返しするとき、また飲みましょう」と言った。
 ところが2年前に病気が発見され、手術を経て強い副作用に耐えながら治療を続けてきた。SNSに闘病の様子を時々アップしていて、それを読むかぎりでは、「きっと大丈夫。回復して、仕事もまたばりばりやれるはず」と思えた。
 それだけに、8月初旬、奥様によるご逝去のお知らせを読んだ瞬間「えっ、うそでしょ」と固まってしまった。
 ご葬儀には一般参列もできた。けれども、コロナ後遺症をもつわたしは、また罹患するのが怖く人混みを避けて暮らしているし、夏の暑さに極端に弱いため、猛暑日が続くなかで喪服を着て出かけるのはどうしてもできなかった。
 もうひとりの友人も、やはり8月にお知らせが届いた。こちらはNiftyの翻訳フォーラム時代の友人だ。
 10年ほど前まで、ある友人が毎年自宅でクリスマスパーティを開いてくれていたのだが、彼と奥様、そしてわたしも、そのパーティの常連だった。
 酒が強く、見聞が広くて多彩な趣味をもつ人である。ビールやワインの紙コップを片手に、語学やクラシック音楽の話などを延々とかたってくれた。
 料理も素人離れしていて、彼の作るザウアークラウトは絶品である。「ほんとうに美味しい」とばくばく食べているとレシピを書いて「覚えておいて。キャラウェイシードは欠かせないからね」とコツを伝授してくれた。
 そのお宅でのパーティが開かれなくなってから10年近く、彼とは会う機会がなかった。それでも「狭い業界だし、そのうちまた飲む機会もあるでしょ」と考えていたのだが、急に、あまりにも急に、あちらに行ってしまった。
 奥様も呆然とした様子で、真夏の葬儀を終えてからSNSで知らせてくれた。来年あたり「偲ぶ会」を開いてくれる予定だという。それには、体調と気力を万全にととのえて出席しなくては。そして、最近コンサートに行くようになったので、また彼とクラシック談義をしたい。「うーんそういう音楽はね」ときっと言うだろうが、わたしの推しをけなすことはないだろう。そういう人だったから。

 ということで、友人二人についての投稿で今年を締めくくりたいと思います。読んでくださった方、フォローしてくださった方、スキをくださった方、ほんとうにありがとうございます。
 来年は、今年以上に健康にお金と時間をかけ、今年以上の仕事量をこなしていくつもりでいます。じっさい、数日前に新たな得意先候補にアプローチしたところです。コロナ後遺症も一年前より回復したことだし、「元気で」ばりばりやっていく所存です。どうぞ見守ってくださいませ。

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