小学英語は「自己アピール」と「単語入れ替え」の世界

 このところ小学英語教材の校正をしている。
 わたしのメインフィールドは高校生向け教材で、次が大人と中学生向け。小学生用は珍しい。
 「いまの小学英語はこうなっている」と分かってきたところで、今日は、教材の作りからわかった「どんな子が英語ができるようになるのか」について書いてみよう。

英語ができる子の条件1:自己紹介をためらわない

 まず「ためらわずに自己紹介できる小学生」が英語ができるようになる。
 各社の教科書はどれもこれも、出てくる例文が「わたしの名前は~です」、「好きな教科[TV番組、色、動物…]は~です」、「誕生日は◯月▢日です」、「△時に起きます[家に帰ります/お風呂に入ります/TVを見ます/寝ます]」といったものばかり。
 自分のことをどんどん言える子はいいけれど、「なぜ自分が風呂に入る時間をクラス全員の前で発表しなければならないのか?」と思う子は、残念ながら評価されない。ためらわずに「自己アピール」することが最初の一歩なのである。
 欧米文化ではたしかに、自己アピールができなければ始まらない。けれども、将来、英語圏において、英語を第一、あるいは第二言語でも流暢に操る外国人たちとわたり合うようになる子は、教室にいるほんの一握りにすぎない。
 それよりも、仕事の一環として、英語を読んだり書いたりするのが必須になる子たちは、その何倍もいるはずだ。その層を育てる初等英語教育は、自己アピールだけではないと思う。
 自分のことを話したがらない内向的な子であっても、英語を読んだり書いたりする力を身につけられる。それが将来、多くの人に求められている英語力ではないのか。

英語ができる子の条件2:単語をぱっぱっと入れ替えられる

 もうひとつは、決まったパターンを覚えて、単語、とくに名詞をどんどん入れ替えていくスキルである。
 「わたしは~が好きです」という一文を覚えたら、次はI like の後に、たとえば教科名であるJapanese language(国語)、math(算数)、 science(理科) social studies(社会)、 English(英語)、 home economics(家庭科)、 P.E.(体育) 、music(音楽)、arts and crafts(図工)であると、ぱっぱっと単語を入れ替えて話していくことを求められる。
 このときにあまり考えていてはいけない。完全に教科名を暗記しており、それがすらすら口から出てこないとならない。つまり、「情報処理」が早いのが絶対条件だ。
 もちろん英語は「語学」であり、最初は単語の暗記から入る。他の教科にも増して、いちいち考えることなく、言われたことを言われた通りにやらなければ上達は望めない。
 だが、少し前まで中学英語は、「なぜそうなるのか」という理屈も教えていたはずだ。挨拶の仕方やコミュニケーションが重視されてはいても、「be動詞」「三単現(三人称単数)」といった文法用語も使って、「英語とはこういう枠組みでできているんだよ」と子どもたちに伝えていたはずだ。
 先述したように、そうすれば、英語を読んだり書いたりする力を育むことができる。将来必要となる英語力は、英語メールが書けたり、英語資料が読めることになることが先で、外国人とわたり合うようになれるのはその先にあるのではないか。
 教育において最重要な「最初の一歩」において、「口からぱっぱっとパターン文を出す」ことだけが重要であると刷り込んでしまわないだろうか。これが、英語教育の人たちがずうっと言ってきた「小学英語のおそろしさ」なのだと実感し始めた。
 いまからでも、どうにかならないのか。小学校で英語を教えるのはいい。だが、自己アピールと単語入れ替えだけの世界ではなく、「考えて英語を読んだり書いたりできるようになる」ことを見据えたカリキュラムにしてもらえないのだろうか。

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