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Oculus Quest 2があればPC用VR専用機は不要か? 比較レビュー

Oculus Quest 2は単体で動作するPCに接続する必要のないVR機器で、それがメインの使い方ですが、PCに接続して使うこともできます。OculusはPC VR専用の Rift Sを2021年で終了させて以後はQuest系に注力すると発表しました。今後はPC VR専用機は廃れて、Questのような「単独で使えるがPCにも接続できる」機器が主流になるのでしょうか?

でもそれって大丈夫? オマケ機能ではなく本当にPC用VR専用機はいらないレベルで使えるのか? ということに興味があったので、その観点でレビューすることにしました。比較対象は以前から所有しているHTC VIVE Proです。

Oculus LinkでPCと接続

Oculus Quest 2を普通にセットアップすると、本体だけでVRを楽しむモードになります。PCと接続してPC用VRとして使うには、PCにOculusアプリをインストールしてUSBケーブルで接続する必要があり、これをOculus Linkと呼びます。その方法についてはすでにいろいろ記事があるので、例えばこちらの記事などを参考にしてください。私はこの記事でも紹介されているAnkerの3mのケーブルを使っています。PC側のスペックは CPUがIntel Core i7-8700K、ビデオカードは nVidia Geforce RTX 2080です。Oculus Linkは新しめのビデオカードしかサポートしていないので公式をチェックしてください。→互換性情報

ここで従来のPC VRを使ってる方は不思議に思うかもしれません。映像はどうやって送るんだ?と。PC VRはいわば特殊なモニターですから、HDMIやDisplay Portの映像出力に繋ぐのですよね。Oculus Linkはどうしてるのかというと、ビデオカードが作った映像を圧縮してUSBで送るのです。それをQuest 2側のCPUで展開して表示する仕組みで、宿命的に遅延と画質劣化が起こります。

Oculusは遅延解消にはとても気をつかっていて、こちらの記事などみると1画面を帯状に分割して描画できたところからどんどん圧縮して送るということをしているそうですね。なかなかすごいですが、実際に遅延はほぼ感じられませんでした。BOX VRのようなタイミングがシビアなゲームでも問題ありません。

画質もほとんどの場合は綺麗です。しかし完璧ではなく、時々圧縮が原因とみられる崩れが生じます。下の映像はVRChatで、左がPC側の映像で右がQuest 2側の映像です。接写できるレンズが無いのでピンボケですみません。移動のために自キャラ(Unityちゃん)が出現したシーンですが急に自キャラが現れてしかも奥に動くせいか、圧縮の動き補償などにミスがあるようでキャラの映像が一瞬崩れます。重いワールドでだけ発生するので、全体的な負荷も影響するのかもしれません。PC側の映像を同時に見ても崩れてはいないので、Oculus Linkの問題としか考えられません。

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コントローラー操作で視点を急に動かすと画面全体が一瞬崩れるゲームもありました。同じようにしても全く崩れないゲームもあるので、映像の圧縮しやすさなども関係あるのでしょう。

Oculus Linkにはグラフィック設定があり、ここで描画解像度を変更することができます。ここで最も解像度が高い「品質を優先」にすると解像感は上がりますが崩れが起こりやすくなり、下げると起こりにくくなります。この描画解像度については後で書きます。

oculuslink設定

Oculus Link経由でPCのデスクトップ画面やブラウザを見ると、文字にじわじわと細かいノイズが乗っていて視認性が下がります。VIVE Proでは起こらないし、Quest 2の本体側のブラウザで文字を見てもノイズはありません(本体側ブラウザの画質は素晴らしい)。これもOculus Linkによるノイズでしょう。

とは言えおおむね、ゲームをする分にはは画質低下を感じることは少ないので優秀だと思えます。

画面の性能

画面解像度はQuest 2が 1832x1920、VIVE Proが 1440x1600 なのでQuest 2が高解像度です。しかもQuest 2はRGB(赤青緑)のサブピクセルが1つづある一般的な液晶パネルですが、VIVE Proはペンタイル配列と呼ばれるもので、サブピクセルが部分的に省かれていて通常の66パーセントしかありません。インチキ臭いですがサムスンの有機ELパネルの仕様です。これによって実効解像度の差はさらに広がります。

ならばQuest 2が段違いに解像感高いかと言えば、一概にそうとも言えないのがVRの複雑なところです。そもそもVRヘッドセットがどういう構造になっているかといえば、小さいパネルに映っている映像を凸レンズ(と同じ働きをするレンズ)で拡大します。しかし凸レンズというのはそのまま拡大すると映像が歪んでしまします。以下その模式図です。

レンズで拡大

カメラのレンズは複数のレンズが組み合わさっていますが、あれはこのような歪みを生まないためです。しかしヘッドセットに複雑なレンズは入れたくないので、映像のほうをあらかじめ歪ませることにしました。ゲームはまず普通に描画して、さらにGPUを使ってレンズ用に歪ませます。それがレンズを通すことで元の歪みの無い映像になります。

ディストーション

しかしこの歪み(ディストーション変換)が入ることで、中心に近い部分ほど拡大されてしまうのがわかるでしょうか。元の1ピクセルがそれ以上の大きさに伸びてしまうため、つまり解像感が下がります。

普通であれば、モニターの解像度が2560x1440ピクセルならゲームはその解像度で描画すればよくて、それ以上は無駄です。でもVRの場合は歪ませる処理が入るため、パネルの解像度と同じ解像度で描画してもボケてしまうのです。歪みで伸びてしまった分を取り戻すには、なるべく1.5倍(縦横それぞれ)くらいの解像度で描画するのが良いと言われていますし、2倍くらいまでは解像感が上がるのがわかります。(それ以上は上げても無駄)

しかしそれでなくてもVRというのは描画負荷が重いのです。両目用に2画面必要で、しかも90Hzなど高い周波数で描画する必要があるため、さらに1.5倍(面積比では2.25倍)なんて解像度で描画するのは至難のわざです。RTX2070くらいだと、ゲームによりますが 片目2160X2400くらいが限界ではないでしょうか。これはVIVE Proの解像度の1.5倍なのでまぁ合格ですが、Quest 2にとっては解像度の1.2倍なので、せっかくのパネルの高解像度を生かせていないことになります。これが「単純に数値ほどは差がつかないことがある」理由です。PC側の描画性能の限界が先に来ることが多い。

実際にゲーム画面で見てみます。この映像は「Moss」というゲームで、VRとしては珍しく見下ろし型の画面ですが、小さなネズミが主人公でシルバニアファミリーの箱庭を見ているような楽しさがあります。Oculus Linkの設定は「バランス」にしました。その時の描画解像度は 2448 x 2688 だと海外掲示板で見たので、VIVE Proでも SteamVRでその解像度に設定しました。(※この設定はその後のアップデートで変わり、解像度を直接指定できるようになりました)

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それで見比べると、やはり解像感そのものにさほどの違いは感じませんね。他のゲームでも同様の傾向があります。

でもパネル解像度が高い利点は他にもあって、画素のすき間が見えにくいことです。VRは画面が近いので画素の間のすき間が網目状に見えがちなのですが(スクリーンドア効果)、Quest 2はその網目がほとんど見えません。VIVE Proは絵柄によりますが、この主人公のネズミ君の白い体では目立ちました(網目は黒いので)。網目があるとネズミ君の体の微妙な階調変化が見えづらくなるのですが、Quest 2では階調がなめらかで立体感があり、そこに存在するようなリアリティがあります。この差はとても大きいです。

一方でVIVE Proは有機ELなので、液晶のQuest 2に対して発色で優位性があります。これはバーチャルマーケットの九竜城ですが、ネオンがきらびやかで、さらに明るい部分も色彩感を失わない感じは有機ELのほうが良いことが一見してわかります。一長一短はありますね。

九竜城

モーショントラッキング

VR機器は映像だけでなく、位置や動きを正しくとらえることが大事です。頭部およびコントローラーの位置と動きですね。

VIVE Proはアウトサイドインと呼ばれる方式で、部屋の2か所にセンサーを固定しており、そこからヘッドセットとコントローラーの位置を測定します。センサーを設置するのが大変ですが、一度設置してしまえば安定しています。画像はVIVEのマニュアルから。Riftも旧型はこの方式でした。

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Quet 2はインサイドアウトと呼ばれる方式で、ヘッドセット側にセンサー(赤外線カメラ)があり、それが部屋の様子やコントローラーの位置を読み取って、自分とコントローラーの位置を特定します。AIなどを駆使したスマートな仕組みで、センサー設置の必要がないのが大きなメリットです。Rift Sもこの方式です。

他にもメリットがあって、VIVE Proの場合、センサーの電源を入れて安定するまでに少し時間がかかるんですよね。センサーにはモーターが入っていてレーダーのように回転するので、回転が安定するのに時間がかかるようです。VIVEで遊ぼうとすると、まずVIVEの電源を入れ、Steam VRを起動し、センサーが安定して認識されるまでしばらく待ってからゲームを起動、という手間がかかりるのでかなり億劫です。これが億劫でVRを起動しないくらいで。

Quest 2の場合はOculus Linkを使う場合であっても、USBを接続して電源を入れれば数秒後にOculus Appの画面が出て、そこからゲームを起動するだけなのでずっとお手軽です。VIVEは手順通りにやらないと認識しないことがあるのですが、Quest 2はラフにやってもかなり安定して認識する印象です。

ただ位置測定の安定性には問題があり、最初に自分がプレイする領域を「ガーディアン」という機能で設定するのですが、使っているうちにガーディアンを設定しなおせと何回も言われました。なにかで見失うのでしょうか。VIVEの場合も同様の設定がありますが、1回やればやり直すことはありません。仕組み上ある程度仕方ないと思えますが、面倒なのでアップデートで安定性が上がることを期待しています。

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Quest 2はコントローラーの位置をヘッドセットに内蔵しているカメラで認識するので、そのカメラから見えにくい位置にコントローラーがあると見失うことがあります。ある程度は補間するようですが、腰より下とか体の後ろとかですね。その点VIVEは安定して認識しますが、Quest 2も実用上さほど問題無いとは思います。

VIVEの方式の利点は他にもあり、トラッカーと呼ばれる位置測定用のデバイスを使うことができます。VRChatではこれを腰と足先の合計3つ付けた「フルトラ(フルトラッキング)勢」と言われる人々がいて、自分の体の動きをかなりキャラに反映されることができます。さらにトラッカーを増やすこともできるし、この仕組みで3D配信をしているVTuberさんもいます。Quest 2でもVIVEのセンサーを併用することで近いことができるかもしれませんが、フルトラ目的にはあまり向いていないと言えるでしょう。

互換性

PCのVRゲームの多くはHTC VIVEとOculus Rift のシリーズに対応しており、Oculus Link経由でのQuest 2対応を明示しているものはあまりありません。今のところ多くのゲームでは保証外の動作と言えるのかもしれません。

しかし私が手持ちのPC用のVRゲームやアプリを試した限りでは、全て動作しました。試したのは Beat Saver、BOX VR、東京クロノス、VR Chat、AIR Tone、Moss、The Walking Dead、LAYERS OF FEARS、Gun Club、Project Cars, Google Earth など。

これはProject Carsですが、こういうリッチな映像のゲームはQuest 2単体では無理なのでPC VRならではです。ゲームコントローラーも使えますし。

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Google Earth VRも今のところPCだけですね。世界中どこにでも行けるので一生楽しめます。

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中には動かないゲームもあるかもしれませんが、互換性はほぼ問題ないと思えるし、これから出るゲームはQuest 2でも動作確認するようになるでしょう。シェアがどんどん増えるはずなので。

Quest 2 はPC用VR専用機を不要にするか?

一通り使ってみて、Quest 2 + Oculus LinkはVIVE Proの完全な上位互換とは言えないけれど、ほぼ同じことができるのでPC用VRの代わりになるだろうと思いました。画質は一長一短だけれど網目が見えないのは素晴らしい。設置がお手軽。ソフトもPC用のものがほぼ問題なく動く。

懸念があるとすればOculus Linkに正式対応しているゲーム・アプリがまだ少ないことですが、Oculus はRiftの系列をやめると言っているので、今後はPC VR向けにもQuest系列をお勧めしていくことになるのでしょう。

そもそも今、PC用VR機器で何を買うかって難しいんですよね。以前はOculus RiftかHTC VIVEを買えばよかったのですが、今はRift Sは将来性が無いし、HTCは初代VIVE後継のCosmosがぱっとしないし、Valve IndexがVIVE Proのほぼ上位互換と言えるけれどまだマイナーだし、という状況です。Quest 2はPC VRでやりたいことはほぼできるし、単体でも楽しめて独自アプリもあるし、価格は安いしということで、フルトラやりたいとかでない限り、PC VR用としてもQuest 2買えばいいんじゃないですかと思えます。個人的にも、より気軽に使えるのでQuest 2の使用頻度のほうが増えそうです。

一方で圧縮による画質劣化など気になる部分はいくらかあるし、アウトサイドインのトラッキング精度はやはり良いので、VIVE ProやValve Indexのようなハイエンド機の価値もまだあると思いました。

この記事はOculus Link特化ですが、Quest 2の全体的なレビューはこちらの記事に書きました。


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