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PlayStationの歴史を俯瞰しながらPlayStation 5のレビュー

PlayStation 5 を入手して楽しんでいます。普通のレビュー記事はたくさんあるので、私はPlayStationの歴史を振り返りながら、その歴史を俯瞰した視点でPlayStation 5のレビューを試みます。まずは初代PlayStationの振り返りから。

PlayStation (初代)「全てのゲームは、ここに集まる」

通称PS1。プレイステーションと言う名前はワークステーションから来ています。科学技術計算やCG作成に使われるコンピューターで、今ではPCが高性能化したので廃れましたが、当時はCGといえばワークステーションでした。「PlayStationの父」の久夛良木氏は、ワークステーションで動くリアルタイムのCGを見て「これでゲームがしたい」と考え、「遊びのためのワークステーション」という意味でプレイステーションと名付けたわけです。

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ちなみにプレイというのは"SMプレイ"みたいにそういう意味にも使われるので、アメリカ側からは難色を示されたが押し切ったと聞いたことがあります。今ではPlayStationと聞いてそういう連想をする人はいないでしょう。"Play"という単語はプレイステーションを象徴するものとして、キャッチフレーズでも繰り返し使われています。

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当時はアーケードゲームの全盛期で、そこで最先端だったリッジレーサーなど3DCGのゲームが家庭で遊べることは衝撃的でした。しかしPS1が革新的だったのは性能だけではありません。ソニーはプレイステーション事業のために「ソニーコンピュータエンタテインメント(SCE)」という会社を作りましたが、ソニーとソニーミュージックが半分づつ出資して、技術系のスタッフはソニー本体から、営業やコンテンツ系のスタッフはソニーミュージックから来ていました。当時のゲームの流通は古くからあるおもちゃ問屋だったのですが、SCEは音楽CD流通の仕組みを導入し、製造元のSCEから直接ショップに卸して素早く細かい注文に対応できるようにしました。ゲームの値段も安くなりました。

さらに音楽アーティスト発掘の仕組みを応用して、中小のゲームメーカーが参入しやすくしました。例えばダークソウルなどで知られるフロムソフトウェアは元々ビジネスソフトの開発会社で、ゲームを作ったことが無かったのですが、この仕組みで参入できたのです。

「すべてのゲームはここに集まる」というキャッチフレーズは、そういうことを表しています。当時はゲーム機市場は任天堂の牙城であり、大手メーカーが参入しては敗れ去っていました。ソニーもそうなると思われていたので、このキャッチフレーズを鼻で笑った人も多かったでしょうが、これらの取り組みによって切り崩すことができたのだし、その自信が込められたキャッチフレーズだったでしょう。

PlayStation 2 「全てのエンターテイメントは、ここに集まる」

PS1は純粋にゲーム機でしたが、PS2はこのキャッチフレーズにあるように、ゲームだけではなくエンターテイメントを提供するマシンなのだというコンセプトでした。これは危うさを含んでいましたが、ちょうどDVDプレイヤーが普及するタイミングだったのでマッチしました。当時のDVDプレイヤーよりPS2のほうが安かったのです。映画「マトリックス」が大ヒットしていて、キーラータイトルはマトリックスのDVDだと言われたりしました。これはPS2を象徴しています。

PS2は技術的にも尖ったマシンで、PS1はまだCPUは既存のものでしたが、PS2はCPUもGPU(グラフィックス用チップ)も独自色の強いものです。コストのわりに高性能ですが、性能を出すためにはこれに合わせて作りこむ必要がありました。ただ当時はゲーム機に合わせて作りこむ職人的なゲーム開発スタイルだったので、それほど問題になりませんでした。

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一方、同世代のXBOXやゲームキューブ(任天堂)は、職人的に作りこまなくてもそこそこの性能が出るという方向性でした。これは実は正しかったので、次の世代で花開くことになります。ともあれこの世代は、PlayStation 2がブームを作り、多くの専用タイトルを集めたことで、圧倒的なシェアを取ることになりました。

PlayStation 3 「Play Beyond」

この世代で特徴的なのは、PCゲームの台頭です。PS2が出た頃はPCでPS2並のゲームを動かすのは大変だったのですが、この頃になると数万円のビデオカードでかなり高度なゲームができるようになりました。また、CPUにグラフィック機能が統合されるようになり、ビデオカードが無いPCでもそこそこゲームが動くようになってきました。steamがプラットフォームとして存在感を増したのもこの頃です。

ゲームの開発コストが上がったこともあり、ゲーム開発者はPCや複数のゲーム機で発売することを前提にゲームを作るようになりました。いわゆるマルチタイトルで、特定ゲーム機の専用タイトルは少なくなりました。

PS3はその時代に合っていませんでした。PS2が独自路線で一応成功したので、PS3はそれをさらに過激に推し進めて、独自CPUであるCellの構成はスーパーコンピューターそのものです。むしろ現代のスーパーコンピューターの構成を先取りした優れた技術ですが、問題は、ゲームで重要なのはグラフィック性能であって、CPUの演算性能がそんなにあっても使い道がないということです。でもPS3はゲーム専用機では無いという考え方でした。キャッチフレーズの「Play Beyond(遊びを超える)」はその思想を表したものでしょう。どう超えるのか、あまり具体性はありませんでしたが。

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Cellの演算性能をグラフィックに使うことはできましたが、その使いこなしは複雑でした。CPUにそんなにコストをかけるよりGPUを強化したほうが合理的で、PCとも近いです。ライバルのXBOX 360はそういう素直な構成であり、PCとのマルチタイトルが作りやすいものでした。

Cellやブルーレイドライブを搭載したことによるコストの高さもあって、PS3は大きくつまづくことになりました。任天堂にはWiiで再逆転され、XBOX 360にもアメリカなどで追い抜かれました。しかしライフの後半ではゲーム開発者が慣れてきたことや、コストダウンが進んだこと、ブルーレイ搭載の優位性が生きてきたこともあり、ある程度巻き返すことができました。

PlayStation 4 「play & peace 世界が、遊びでひとつになる。」

PS3のつまづきを受けて、PS4は路線変更しました。あくまでゲームがメインであり、ゲームを作りやすいゲーム機を提供するというものです。独自技術へのこだわりを捨て、PCに近いものになっています。

しかし全くPCと同じだと、単なる安物PCになってしまいます。PS4はそこで工夫をして、CPUとGPUが高速なメモリ(GDDR5)を共有するという構成にしました。PCはメモリやGPUの拡張性が必要なために両者のメモリは別々なのですが(高性能なGPUの場合)、ゲーム機は拡張性は切り捨ててよいという優位点を生かしたのです。これはかなりの発明で、これによってコストのわりに高性能で、かつゲームも作りやすいという理想的なゲーム機になりました。PCとのマルチタイトルがさらに一般的になっていたので、時代にもマッチしました。

ps4アーキテクチャ

またこの時代の特徴は、SNSが普及し、ゲーム配信が流行りつつあったことです。PS4はそれを見越してコントローラーにShareボタンを搭載しました。このボタンを押すことで、スクリーンショットを撮ってSNSに投稿したり、YouTubeやTwitchで動画配信したりということが簡単にできます。これは優れたアイデアで、その後XBOXや任天堂スイッチがそのままパクりました。「世界が、遊びでひとつになる。」というキャッチフレーズはこれを表したものだし、また遊び(Play)が中心にあるという主張なのでPlayへの回帰とも言えます。

PlayStation 5 「Play Has No Limits -遊びの限界を超える-」

こうしてみると、PlayStationはそれぞれの時代背景に合わせて作られていることが分かります。PS1は3DゲームPS2はDVDなどのエンターテイメントPS3はスーパーコンピューター(これは空振り)、PS4はマルチタイトルとゲーム配信です。キャッチフレーズもそれを表していました。ではPS5は何でしょうか。私はPS5の時代背景は「スマホゲーム」だと思います。

PS4が出た頃は、スマホで遊べるゲームはパズドラみたいな2Dか、アクション性のあまり無いものでした。しかし2017年の荒野行動あたりから流れが変わり、多くの人が3Dアクションゲームをスマホで遊ぶようになってきました。背景にはスマホの性能の向上と、Unityなど開発ツールの進化があります。

PS5は「ゲームはもうスマホやタブレットでいいじゃん」という時流に逆らう必要があります。そのためにはスマホの良いところを取り入れつつ、スマホには無いものを提供する必要があるでしょう。

スマホ並みにストレスを無くす

スマホゲームの良いところは、ストレスが無いことです。スマホを取り出してアイコンをタップすればすぐに起動して、すぐに終了できるというお手軽さ。一方でゲーム機は、ディスクゲームならまずディスクを入れ、起動を待ち、メーカーロゴなどを何枚も見てからメニュー画面でコンティニューなどを選択し、さらにしばらく待ってからやっとゲームが始められるというものでした。ぱっと手軽にやりたいという気になりません。

PS5はまずそこを改善しています。超高速SSDによって起動が速いのですが、それだけではありません。例えばスパイダーマンをホーム画面で選択して、下ボタンを押すとこの画面のようになります。

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ここで「メインミッション ラ・ノーチェ・ブエナ」を選択すると前回の続きから始まり「移動チャレンジ2.0」を選択するとこのミッションから始まります。ロゴ画面なども一切出さず、このアイコンを選択して8秒後くらいにはもうスパイダーマンを操作できる状態になります。これにより本当に、ちょっとした時間で1ミッションプレイしようかという気になります。

PS5を使っていると、ディスクを入れるのがかったるくなるはずです。PS5の購入者は、PS Plusに加入することで「PS Plusコレクション」という19種類のPS4ゲームが遊び放題になります。モンスターハンターワールド、ペルソナ5、ラストオブアスといった名作揃いなのですが、これはすべてダウンロードゲームなので、さくさくと切り替えて遊ぶ事ができて、これに慣れるともうディスクのゲームは買いたくないと思う人も多いでしょう。それも狙いかもしれませんね。私もPS5のゲームはすべてダウンロードで買ってます。

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スマホはゲームの攻略動画などをぱっと見られるのも利点ですが、PS5はホーム画面のゲームの関連情報に「話題のビデオ」としてYouTubeやTwitchの配信動画が並んでいます。PS5はこれをゲームの画面に重ねて表示したり、並べて表示したり自由にできます(下の写真参照)。これは攻略動画など見ながらやるのにとても良いと思うのですが、今は残念ながら見たい動画を自由に検索して見ることはできないようです。今後それができるようになればかなり使える機能だし、これもストレスの排除です。

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ゲームが並んでいるホーム画面と同じところにストアのアイコンがあり、そこからシームレスにPlayStation Storeに行って買い物ができますし、PS4よりも軽快に閲覧できます。PS5はこのように、ストレス排除のための改善を随所で気づくことができ、スマホ並みにストレスなく使えることを追及したマシンだと思えるのでした。

あと、ストレスなく使うためには純正のコントローラー充電スタンドがお勧めです。コントローラーの充電が切れて、ケーブルを探して繋ぐのは手間ですし、充電のためにケーブルがぶら下がっているのはカッコ悪いです。このスタンドは接点が磁石になっていて、置くだけでカチっと吸い付くようにハマって充電できるようになっています。使い終わったらスタンドに戻せば充電されていますし。パッと持ち上げてPSボタンを押せば数秒後にプレイできるのでノーストレスですね。デザインも本体と統一感があってかっこいい。

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スマホを超える

PS5はスマホを見習うだけでは不足で、スマホを超える必要がありますが、それはまず本体デザインに表れてます。スマホやタブレットのデザインは「ただの板」というものが多いですよね。画面さえあればよいという感じで、モノとしては主張しないデザインです。

一方で、PS5の本体デザインは主張しまくっています。未来的な派手なデザインで、コンセプトは「5次元」だそうです。「PS5」に引っ掛けているわけですが、部屋に置くとまさに異次元空間への入り口みたいな異物感。GANTZのマンションの一室にある球体みたいな、「ここから別世界に行ける」というような感じが出ています。

PS5縦置き

ゲームは基本的に、プレイヤーが操作すると画面が動くという視覚のフィードバックが主ですが、現実世界はそれだけではありません。触覚や反動などが伝わってくるはずだし、体の向きが変わると周囲の音の気配も変わるはずです。PS5はそういった視覚以外のフィードバックもこだわっており、コントローラーは複雑な振動やトリガーの感触を再現できるし、立体音響をリアルタイムに計算するための専用ハードウエアが搭載されています。その効果の一端はデモンズソウルなどで体験できました。

もちろん、映像の美しさやレイトレーシングによる光の表現も没入感を高めてくれます。このスパイダーマンでは凍った路面に風景が反射していますが、従来の「それっぽく作った反射」ではなく正しく計算された反射なので、特に動いているとリアリティが違います。

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スマホは「生活の一部にゲームがある」という感じでしょう。その手軽さは良い事ですが、PS5はそれを見習いつつも「がっつり別世界に行ける」という感覚を大事にしているように見えます。そのためのデザインだし、様々な機能でしょう。流行りの異世界転生です。キャッチフレーズの「遊びの限界を超える」は、スマホやこれまでのゲーム機では見たことが無い世界に連れて行く、という意味でしょう。

さらにディープに異世界ダイブするために、新しいPSVRにも期待したいところです。PSVRはとても惜しい代物で、ヘッドセット自体は良いし、優れた専用タイトルもあるのですが、PS4の性能がVRには不足気味なことと、MoveコントローラーがPS3時代にデザインされたもので操作性が悪いのが欠点でした。新PSVRはそのあたりが改善されて、Oculus Questの手軽さと、PCVRの性能を両立したものになるかもしれません。登場はまだ先のようですが。

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そのためにもPS5には売れて欲しいですが、どうなるかはスマホとの戦い次第なのでしょう。スマホでゲームをする流れは続くでしょうから、ゲーム機自体が廃れるかもしれません。でもスマホでゲームに親しんだ人が、より没入感を求めてPS5を買うようになるとPS4より売れるかもしれません。PS5はスマホと戦うための準備はしているので、それが功を奏するのか興味を持って見ています。ゲーム機の新しい時代の幕が開くのは、いつもわくわくしますね。

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