日記10/15:記憶、タクシー、セブンのチーズケーキ
aisatsana[102] / Aphex Twin
午前1時36分
バイト帰りのタクシーで助手席背面のテレビ広告を眺めていた。
質の良い睡眠をキープするためには、就寝時間と起床時間の中央値をずらさないことが大切らしい。つまり、遅くまで寝ていたい日は早くベットに入り、遅くまで起きてしまった日はその分早く起きるということだ。
睡眠を研究しているというその専門家の、台本通りの説明を聞いても、明日の朝早く起きようという気にはとてもなれそうにない。
バイトが遅くなった日はタクシーで帰宅することが許される。日常の中のささやかな優越感。疲れ切った街が、法定速度を無視した速さで過ぎていく。
地方大学院生として慎ましく生きる僕にとって、タクシーに乗る機会は滅多にない。誰に見られるはずもないのに、疲れ切った、翳りのある表情を作ってみたりする。
家の近くの通りを走っている時に、最寄りのセブンが目についた。なんだが自分にご褒美をあげたい気分だったことを思い出す。
タクシーを止めて、道を戻り、住宅街を場違いに明るく照らすコンビニに入る。
店内は、マスクで感情の見えない若い男の店員と、生気はないが品出しをテキパキこなす中年女性の店員の二人だけだった。
スイーツのコーナーで数秒悩んでチーズケーキを買った。
店を出て、小さな袋に包まれた、小さな喜びを両手で抱えながら、将来思い出す日常の一瞬がこんな時間だといいなと考える。
だけど、やけに鮮明に思い出されるのは、どうってことない風景だったり、なんてことない会話だったりする。
初めて一人で東京に行った夏。旅行の目的だった音楽フェスの内容よりも、ホテルの給水スペースの記憶の方が鮮明に残っている。廊下の端の自販機とその向かいにある給水機。
中学校の時の一番鮮明な記憶は、渡り廊下にいる時に、職員室にいる数学の女教師から、「誰を待ってるのー?」と話しかけられた時のこと。誰を待っていたのかも思い出せないし、その教師の名前も忘れてしまった。
結局、タクシーとか、セブンのチーズケーキとか、わかりやすい「ささやかな幸せ」よりも、もっと些細で、もっとどうでもいいことが記憶に残っていくんだろう。