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フリマの常識を変える 『価格なし出品』での新たな価値と反応

こんにちはUX Designチームのpoyomionです。
先日メルカリは、価格を設定せずに商品を出品できる新機能『価格なし出品』を新たにリリースしました。

メルカリでは、商品を出品する際にいくつかの入力必須事項があり、たとえば商品画像やタイトル、商品の状態などがあります。
販売価格もその中の1つですが、このたびリリースした『価格なし出品』では、文字通り価格を登録せずに商品の出品ができるようになりました。

今回私はリードデザイナーとして、この機能の役割やコンセプト、そして今までの出品体験からどうアップデートしていくのかの体験づくりやUIを担当しました。
多くのお客さまが利用する大きなサービスにおいてどのような経緯や意思決定で新しい概念を設計するに至ったのかをデザイン観点でお話できればと思っておりますので、この記事がプロダクト開発に携わる方にとって、なにかのお役に立てれば幸いです!

価格なし出品とは

まず『価格なし出品』機能についてかんたんにご紹介させてください。

『価格なし出品』機能
今回提供開始となる『価格なし出品』機能によって、出品者は商品の価格を決めずにすぐに出品することができます。
最初に販売価格を決めなくても出品でき、購入希望者からの提案を参考にしながら後から価格を決められるので、出品時に価格の設定で悩んだり、類似商品がいくらで売っているかを事前に調べる必要がなくなり、これまで以上にかんたんにメルカリをご利用いただけます。

https://about.mercari.com/press/news/articles/20240522_nopricelisting/

いままでのフリマ体験では、商品を出品する際に価格を登録することは必須事項でした。
価格が決まっていないとそもそも商品を購入できないので当たり前といえば当たり前なんですが、今回の焦点は、モノにはわかりやすく価格が決まっているものとそうでないものがあるという点です。

「販売価格を決めるのって面倒」

https://about.mercari.com/press/news/articles/20240522_nopricelisting/

家にある不要なものをメルカリに出そうと思う時、まず初めに考えることは「その商品が売れるかどうか?」ではないでしょうか。
事前調査で明らかになった点として、出品時の価格を決めることは6割程のお客さまが「面倒だ」と感じているようです。

個人的にも、出品をする時に最も悩む時間が長いのは値段を決める時です。
例えば本や服など買ったときの値段がわかるようなものは、需要や商品の状態でなんとなく値段の目星をつけられるのですが、祖父母からもらってモノとしては売れる状態だが需要があるのかわからないクマの木彫りや謎の絵巻物、5個セットで買ったけど3個しかないお猪口セットだとか、そういった値段をつけづらい商品を出品したい時もあります。

「せっかくおばあちゃんがくれたけど・・・」

「定価も相場もわからないし、でも梱包や発送に一定のコストはかかるからそこはマイナスにしたくない、でも需要があるかもわからない……」そんなことを考えて結局出品しないまま年月が経っていた……なんてことはありませんでしたか?
一方購入者目線では、そういった値段が付けられない物珍しい掘り出し物こそ、自分がメルカリに求めてる商品だったりもするのです。

そんな出品のブロッカーともなりうる「価格を決める」という当たり前を出品からなくしたのが今回の『価格なし出品』です。

コンセプトと設計思想

購入者にとって重要なポイントは、その商品に価格が決まっている・決まっていないにかかわらず、その商品をほしいと思ったら購入できることだと思います。
そして出品者にとっては、価格を決めるタイミングは必ずしも最初である必要はなく、まずはかんたんに出品が完了でき、商品が売れることが最初のゴールです。
出品者・購入者ぞれぞれの重要なポイントをクリアするために、両者が納得する値段で取引が成立するところまで全体の体験を滑らかに整えることを目標に進めていきました。

影響画面の洗い出しとレビュー会やエンジニアからのFB

今回はどの商品にも必ず存在する「価格」に手を入れていくので、アプリやWebともに影響範囲が非常に広く、まずどこに影響があるかを洗い出していきました。
基本的な要件を元にPMとより詳細な仕様を策定する中で、まずコンセプトを定義していきます。私たちはこの機能に「自分の価値基準に基づいて価格を提案する体験」を提供するという軸を定義しました。

自分の価値観で値段を決める

一連のフローを考える中でUXライティングと相互コミュニケーションの設計は非常に重要です。
前述のとおり、これは商品の値付けを競う機能ではありません。
誰かが不要だと思ったモノであっても、自分にとっては強い魅力を感じる商品で、自分だったらいくらの値段で購入したいかを想像し、提案する。そういった今までになかった新しい観点からの価値定義を行う役割を担っています。
それ故に、出品側ではなく購入を検討してる側からの価格提案は、フリマにおいて新鮮で面白い切り口だと思っています。

しかし、仕様を詰めていく中で、表現次第では全く別の思想になる懸念が出てきました。それが「競り」という概念です。

競りとはつまりオークションであり、入札や落札といった概念は皆さんにも馴染みのある言葉だと思います。
複数の人が1つの商品に対して値段を提示し、最終的には入札された中で最も高い価格で商品が落札されるといった仕組みです。
オークションは最初の価格を元にお互いの提示価格が釣り上がっていく構造であり、その商品が最終的に何十万、何百万といった価値に変わる可能性もあります。

今回提供した『価格なし出品』はオークションとは少し性質が異なり、出品者にとっては価格の相場や定価がわからないような商品でも購入希望者の観点から価値を決められるところに焦点を置いているのが特徴です。
そこでコンセプトである、お客さまが「自分の価値基準に基づいた価格提案をできているか」を判断軸に持つことで、メンバーで共通認識を持ちながら適切な表現方法や出すべき情報・そうではない情報などを選び取っていくようにしました。

なぜその提案を承諾するのか

出品者目線で考えると、基本的にはできるかぎり高い価格で売れるほうが嬉しい人が多いのではないでしょうか。
出品者は商品が売れたあとにも商品の梱包や発送といった作業があり、発送にかかる梱包資材の費用や作業コストは、決して安いものではありません。
なんなら売れた後の方がやることが多く、労力を考えれば安売りしたい人はそう多くはないのでは、と思います。
そのため、いくつかの仮説の中で「一番高い価格提案を承諾したいケースがほとんどなのでは?」という意見もあり、当初はその前提で仕様を検討していました。

一方で、高い金額で買ってくれるなら誰でもいいかというと、一概にそうとも言えないのでは?という観点もあります。
これは個人的な感覚ですが、メルカリには評価機能がついていて、評価が高く、取引件数も多い人に対しては一定の信頼性や取引への安心感を感じます。商品に複数の提案が来ていた場合、少し提示金額が低くともこの人が検討中ならこの条件で出品しよう、といったケースもあり得るだろうと思いました。

そういった背景から、出品者が総合的な判断を行いやすいよう提案一覧では購入希望者のプロフィールへの導線を設けたり、価格提案が多く寄せられるような場合を考慮して初期から並び替え機能を設けるなど、細かい仕様について議論を重ねていきました。

自由だからこそケアすべきこと

大規模なサービスに限らずだとは思いますが、初期の設計段階においてメインケースとは異なる使われ方も一定想定しておかねばなりません。
一般的には入力エラーや途中離脱などがありますが、今回は自由な価格を提案できる点は押さえつつ、その自由さを受け手が自然に受け入れられる、という情緒的な体験面も考慮する必要がありました。

この機能はすべての商品に展開している機能なので、カテゴリーという括りだけでなく、相場や定価の有無、需要と供給のバランスなど様々な商品パターンでの設定が想定されます。

ここまで対象範囲が広い場合、もし出品者がなんとなく価格のあたりを想像していた場合、その予想とは異なった提案が届く可能性もあります。
また、デザインチームの全体レビュー会では、初期のアイデアに「(出品者目線だと)提案は受けた瞬間に承諾するかどうかを判断したいので、ズルズルとやり取りが続くような体験は時間がもったいないと感じる」というフィードバックをいただいて、ハッたしかに・・・と思ったのは強く覚えています。

この2つの要素を解決するために、提案一覧画面に「辞退する」というアクションを追加しました。出品者が承諾するつもりがない提案にはすぐにその意思表示ができ、結果の通知も届くので、お互いにスピーディーに事が進み時間の短縮にも繋がります。

過去のデザインブログの記事にてAI機能の施策について執筆した時でもそうですが、自由を許容するほど考慮すべきケースが増えていきます。
少なくとも初期リリースの開発段階では、すべての例外ケースを洗い出すこともなかなか難しく、一旦出してみないとわからないようなこともあります。
そういった場合はリリース前の数週間で事前にUXRをしたり、社内のメンバーに実際に使ってもらって使い心地を感じてもらうなど、多角的な観点でフィードバックをもらうと新しい考慮漏れが発見して学びも多いのでおすすめです。

実際の取引事例

さて、ここで気になる点はやはり「で、実際どう使われてるんですか?」という点だと思います。機能のリリース後、分析チームが出してくれた実際の取引データを見てみると新しい発見が多くありました。

私が面白いなと思ったのは、オーディオ機器やゲーム機本体のジャンク品で何件もの『価格なし出品』が利用されていたことです。
私もたまに電子機器のジャンク品を出品するのですが、新品・未使用の定価からどれくらい下げるべきか悩むことも多く、「たしかにこういう商品って価格決め難しいな…」と悩むことが多かった印象です。

他にもキャラクターやアイドルの公式グッズ、ファッションであればブランド品や小物といったカテゴリーでの出品も確認できました。
また、取引が成立する価格帯も様々で、メルカリでの最低金額として設定している300円での取引もあれば、何百万といった価格で取引されている事例もあり、多様な観点で分析しがいのある機能だと感じます。

おわりに

この施策を進めるにあたり、「これはメルカリだからこそ楽しんでもらえる機能だな」と思いながら体験を考えていました。
自分にとっては不要なものでも、誰かにとってはとても価値のあるものがメルカリには多く存在します。私は購入者の立場の時、よくおばあちゃん家にあるような中古家具やアンティークを見つけて購入することが多いので、この機能にはとても親しみを感じました。

加えて、価値に対する値段を決める人が出品者ではなく購入者という概念は、紛れもなく今後の新しい取引体験を生み出していくだろうと思っています。
CtoCのサービスのデザインでは、出品者と購入者、双方向の体験設計が大切です。法的な要件をクリアしていても、それがお客さまにとっていつもの体験を損なっていたり、倫理に反するデザインになっていないかは注意深く判断しなければいけません。
これはメルカリだけでなくCtoC領域でプロダクトに携わるすべての人が日々向き合っていることであり、このバランス感と道徳に基づいた体験づくりはCtoCサービスならではの難しさであり面白さだと感じます。


『価格なし出品』はまだリリースしたての機能ではありますが、お客さまがこの機能をどう使っていくのか、それに対してどうアップデートしていくべきか、引き続き改善に携わっていきます。
今回お話した『価格なし出品』の使ってみた感想もお待ちしてます。
ここまでお読みいただきありがとうございました!


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