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#1 「ネイチャーポジティブ」とは?生物多様性ビジネスの最先端を行く3人によるトークイベント@Google for Startups Tokyo

5月24日、Google for startups Campus Tokyoで約50名の参加者に向け、「ネイチャーポジティブを実現する!生物多様性ビジネスの最先端」セミナーを開催しました。
日本人女性初の南ア政府公認サファリガイドである太田ゆか氏、株式会社バイオーム代表取締役の藤木庄五郎氏、そして弊社代表の伊藤が、「ネイチャーポジティブ」の実態や環境ビジネス市場、トレンドなどについてお話しました。

登壇者プロフィール

日本人女性初南ア政府公認サファリガイド
太田 ゆか氏

サバンナの大草原に心打たれて移住して以来、クルーガー国立公園でガイドとして約10年に渡り活躍中。野生動物保護活動やクラウドファンディングに取り組み、youtubeやinstagramなどのSNSで活動内容を発信。メディアでも注目を集め、TBS「クレイジージャーニー」へ出演。2024年には著書「私の職場はサバンナです!」が全国高校生向けの課題図書に選出された。

株式会社バイオーム 代表取締役
藤木 庄五郎氏

学生時代、京大(博士号取得)で生物多様性を専門に研究活動を行う一環として、ボルネオの熱帯雨林で2年間のサバイバル生活を経験。衛生画像解析による生物多様性可視化技術を開発した。現地の熱帯雨林が皆伐された惨状に衝撃を受け、「環境問題は儲からないと解決しない」と研究の世界を飛び出して株式会社バイオームを設立。「生き物のデータ化」に挑戦する。

angle株式会社&angle reserve株式会社 代表取締役
伊藤 啓二

株式会社リクルートにて新規事業開発に携わった後、世界一周の旅に出る。その後、「社会課題をビジネスで解決する」シリアルアントレプレナーとして活躍。Googleアクセラレータープログラムに選出された後、マネックスグループに参画。2019年にangle株式会社を設立。環境保護事業を新たなビジネスとして掲げ、世界最大規模の野生動物保護区ビジネスに挑む。


本記事のまとめ

  • 気候変動にと同じく大きな環境問題として「生物多様性」の激減が注目されています

  • それを食い止め、好転させるための世界目標が「ネイチャーポジティブ」であり、新たな環境問題ビジネスマーケットが誕生しています

  • 本記事では、太田氏、藤木氏、伊藤の各々が環境ビジネスに携わるまでの経緯や、現場での実体験、最新のビジネストレンドについて、イベントダイジェストを通じ前半・後半に分けてお伝えします

  • 前半となる本記事では、伊藤によるイントロダクションと、太田氏のトークセッションの振り返りをお届けします



イントロダクション:僕らの現在地って?

「ネイチャーポジティブ」とは?

「ネイチャーポジティブ」とは、「2030年までに自然や生物多様性の損失を食い止め、2050年までに回復させる」という世界目標です。国連生物多様性条約やCOP15(生物多様性条約第15回締約国会議)などで各国へ呼びかけられ、日本国内では「生物多様性国家戦略2023-2030」が閣議決定されました。投資家や企業も「ネイチャーポジティブ経営」、つまり環境への負荷が少なく、自然資本の保全に貢献するビジネスへの急速な移行が求められています。

なんと、既に70%の種が地球上から消滅済み

生物多様性の現状
生物多様性は悪化の一途を辿っており、過去50年で野生生物は70%減少しています。100万種が絶滅の危機に瀕し、その半分は次の100年で絶滅すると言われています。これが実現すれば、生活の根幹となる食糧生産はもちろん、経済活動にも大きな影響が出ます。というのも、世界の総GDPの半分以上が自然資本に中高程度依存しているからです。人類の生命や経済活動にとって、生物多様性が無くてはならないものであることが、ネイチャーポジティブを目指す理由です。

【日本人女性初南ア政府公認サファリガイド 太田ゆか氏のネイチャーポジティブ:人間と野生動物が共生できる仕組み作り】


サファリガイドとして多方面で活躍中

サバンナで起きている変化:生息地の分断と減少

太田氏はサバンナの大自然に心打たれたことがきっかけで、現地の訓練学校でガイドの資格を取得し、約10年に渡りクルーガー国立公園で活躍している日本人女性初の南ア政府公認のサファリガイドです。
彼女は、生物多様性の課題を現地で見てきました。一例は、サファリで身近な存在だったサイの減少です。2016年頃までは毎日必ず出会える動物だったのが、2017頃から密猟が増え、今では何ヶ月も出会えなくて当たり前になってしまったそうです。
でも動物の数が減っていること以上に、太田氏が緊急課題だと訴えるのは、生息地の減少と分断化です。これは農地や工業地帯の開拓によるもので、サバンナとして守られた生息地は急激に減少しています。せっかく動物の数が増えても、住める環境がなければ生態系は崩れてしまうのです。

毎日サファリで見ることができたはずのサイは、滅多に出会えない存在に…

人間と野生動物の軋轢

昔は野生動物と人間の居住区域は離れていましたが、現代ではたった数枚の柵を隔てて両者が鮨詰め状態になっています。この距離の近さは、現地住民の生活を支える家畜と野生動物間での伝染病の媒介や、保護区内線路などにおける野生動物の交通事故被害を引き起こしています。近くの農地に実った作物の匂いを嗅ぎつけ、保護区を逃げ出して人や家畜、作物に被害を生むケースも多発しているそうです。これらの問題は人間と野生動物間の殺し合い・軋轢を産んでいます。代表的なエピソードとして、観光スポット的存在だったヒョウが限られた生息地内での縄張り争いに負け、人間の村に追い出された結果、住人の家畜やペットを食い荒らして射殺された一件がありました。人気だったヒョウが殺されたことに対し、ネットでは住民が批判に晒されましたが、日々野生動物による命の危険に怯える彼らの気持ちにも理解が必要だと、太田氏は考えます。同様に、生息地を壊し開拓を行う人々の動機も、農地などを増やして雇用を守り、経済を発展させる為であると理解することができます。経済発展の短期的な重要性と、自然破壊を防ぐことの長期的な重要性のバランスをとることが難しいのだそうです。

生息地の減少と分断が大きな課題

人間と野生動物の双方に寄り添う取り組み

この現状を解決するため、太田氏は人間と野生動物がハッピーに共生できるシステムの構築を目指しています。現地コミュニティと連携し、家畜被害の補償金を提供したり、知識不足により野生動物が殺されることを防ぐために環境教育を行っています。またサファリガイドやシェフを養成するトレーニングを無償で提供し、保護区での近隣住民の雇用を拡大しています。さらに、生息地に対して個体数が増えすぎた種を引越しさせるプロジェクトも行っています。線路や道路で居住可能区域が隔たれ、自力での移動が難しい動物には麻酔を打ってヘリで運搬しているそうです。より効果的な保護活動を計画するために、生態調査も行っています。人間の生活圏へ出ていってしまう動物にGPSの首輪をつけてモニタリングし、データを蓄積して住民への被害を防ぐというものです。昨年はサファリファンの方々と協力したクラウドファンディングを元に、サイの保護プロジェクトも成功させました。

サバンナのリアルに、参加者も興味津々

日本に暮らす消費者にとって、生物多様性は他人事ではない

サファリで起きている問題は、日本に暮らす皆さんには無関係に思えるかもしれません。でも、決して無関係ではないと太田氏は語気を強めます。サバンナを分断、抹消して作られた食料品や資源は、日本を含め世界中の国で日常的に消費されているからです。消費者として、生物多様性に配慮した商品・サービスの選択を行うことが大事です。また、サファリを訪れる日本人のお客さんに対しては、少しでも身近な問題として考えてもらえる様、学びあるツアーを意識しているそうです。オーバーツーリズムも問題になっていますが、様々なルールで保護環境に配慮し、正しく運営されているサファリもあります。そこへ観光客が多く訪れ、収益が上がれば、現地の経済ニーズを満たしつつサバンナを守ることができます。より多くの人々にサファリを訪れてほしい、と太田さんは訴えました。

クラウドファンディングも実施

個人、企業を問わず、サバンナでの保護活動への協力を歓迎しているそうです。サファリでの日常や保護活動の現状は太田氏のSNSでも発信されているので、是非チェックしてみてください! 

SNSリンク集:


ここまで、イベント前半の内容をお届けしました。
地球の反対側にあるサバンナで起きている問題が、我々の生活と密接に関わっていることに衝撃を受けた方も多いのではないでしょうか。

次回は、株式会社バイオームで「生き物のデータ化」を通じた生態系保全に挑む藤木氏、そして、太田氏の暮らすクルーガー国立公園を第一拠点に自然保護区運営ビジネスを開拓するangleReserve伊藤によるトークセッションを振り返ります。

次回もお楽しみに!




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