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#2「ネイチャーポジティブ」とは?生物多様性ビジネスの最先端を行く3人によるトークイベント@Google for Startups Tokyo

前回に引き続き、本記事ではイベント後半に行われた、株式会社バイオーム 代表取締役の藤木氏と、angle代表/angleReserve代表の伊藤によるセッションの様子をお届けします。日本の環境ビジネス先駆者とも言える2人が、起業ストーリーや最新のビジネストレンド、展望について熱く語りました!



【株式会社バイオーム 代表取締役 藤木庄五郎氏のネイチャーポジティブ:いきものデジタル化で生物多様性保全ビジネスを実現】


ボルネオで樹木調査のためにサバイバル生活

ボルネオでのサバイバル生活から起業へ

藤木氏は、生物多様性を守ることをビジネスとして成り立たせることにチャレンジしています。
元は研究者として生態学を専門に、インドネシア・ボルネオ島へ渡り、2年間野宿をしながら現地調査を行っていました。熱帯雨林の中、1000箇所以上で行った樹木調査は、現地で10人雇ったスタッフが次々と逃げ帰り、1ヶ月で3人まで減るほど過酷なものでした。飲み水は泥水を煮沸したり蔦を切って賄い、朝起きると、靴の中にサソリが入っていないかチェックする様な生活だったそうです。
そんな中、研究だけでは生物多様性保全を解決できないと気づく転機が訪れました。
本来、熱帯雨林があるはずのエリアが360°見渡す限り、地平線までさら地になった光景を目の当たりにした時です。背筋が凍るような思いをした、と藤木氏は回想します。熱帯雨林を構成する、樹高60mほどの大木を伐採するには相当な労力がかかります。地平線が見渡せるまで皆伐するのは想像を絶する程大変ですが、なぜ可能だったかを考えると、伐採することでカネが儲かる、つまり食っていける、生きていけるからでした。カネのもたらすエネルギーの大きさに打ちのめされ、儲けを考えない限り、環境保全の領域は進まないと感じたそうです。
環境を壊せば壊すほど儲かる社会の仕組みが問題なら、環境や生き物を守った方がカネになるモデルケースを作ろうと考えました。儲かるようになれば人が集まり、環境保全を促進する好循環が生まれます。そこで、2017年に株式会社バイオームを立ち上げました。

起業の源体験となった、ボルネオ皆伐地帯との遭遇

生物多様性がもたらす経済界のパラダイムシフト

藤木氏によれば、今、世界的に生物多様性保全を推進する仕組みが作られています。2022年のCOP15では、2030年までの生物多様性に対する世界目標「昆明・モントリオール生物多様性枠組」が採択されました。この枠組の一部は、企業のビジネスにおける生物多様性への影響評価・情報開示を促進させるもので、2027年頃までにこれを義務化する動きもあります。
現在、生物多様性領域は気候変動領域を後追いしてルールメイクされています。気候変動領域では「エネルギー革命」が起こり、CO2の排出という明確な基準によってエネルギー価値が順位づけされ、気候変動ビジネスのマーケットが誕生しました。生物多様性領域では、環境保全に即して生産されたか否か、という基準で食料、金属など土地生産資源が順位づけされる「自然資本革命」が起きるとされているそうです。同じ綿でも生物多様性に配慮して作った綿には付加価値がつくということです。
また、ネイチャーポジティブ領域でもTNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)の枠組みで情報開示が促進されています。企業は資産の見直しや枠組みへの対応を求められるようになり、経済界でもネイチャーポジティブは無視できない存在になってきています。

バイオームの挑戦:生き物のデータ化

そこでバイオームでは、生物多様性を数値化・デジタル化しています。藤木氏は、企業の情報開示などが求められていく中で、生物多様性を数値化しないとマーケットにならないと問題意識を持っていたそうです。様々なアプローチの中でも、生物の位置情報をスマホの画像データとセットで集める取り組みが大きく成功しています。生き物の写真を撮るとAIが種名を特定する「生き物コレクションアプリ Biome」をリリースし、全国95万人以上のユーザーから累計700万個体以上のデータを集めました。リアルタイムで日本中の生物多様性を観測するプラットフォームとして機能しています。この生物分布・多様性データを多方面に応用し、商品化しています。例えば、外来種駆除、企業の情報開示、密猟対策、エコツーリズムなど、30種類のサービスが打ち出されました。取引先は400社、60以上の自治体と増えており、協働プロジェクトにより街づくりや温暖化の影響調査、開発計画の支援などにデータを幅広く活かしています。

生物のデータ化により、巨大な生態系観測プラットフォームの樹立に成功

企業や投資家の、自然への見方が変わる潮流ができたのは喜ばしいこと。本当に意味のある保全ができるサービスを提供し続けたい、という言葉でセッションが締めくくられました。


【angle株式会社CEO/angle reserve株式会社CEO 伊藤のネイチャーポジティブ: 世界最大規模の自然保護区グループ実現】

ビッグな社会課題の解決を目指してangleを立ち上げた

環境破壊を加速する社会の仕組みを逆転する

環境問題は、その解決によりお金が儲からないと解決しないと伊藤は考えています。
伊藤は幼少期から、環境保全の課題はなぜ解決に向かわないのか不思議に感じていました。その答えは、自然を壊して農地を作ったり、木材を売った方がお金になって儲かる仕組みではないか?
たとえば、膨大な手付かずの土地を持っていて、税金ばかりがかかって収入にならなければ、当然土地を開拓する選択を取るのも頷けます。ビルゲイツが著書に記したように、自然を守るよりも壊すインセンティブの方が強いから壊すのであって、政治経済的な解決策が必要です。伊藤はこのインセンティブの逆転を実現したいと考え、環境経済を学び、2社ほど起業して経験を深めてから環境事業に挑戦しました。COP28(​​国連気候変動枠組条約締約国会議)でのSDGsデザイナーのヤーコブ・トロールベック氏との会話の中で、「国連としても向こう10年の3本柱の1つは生物多様性だ」と聞き、国際社会における生物多様性領域の注目度の高さを実感したそうです。

世界最大規模の私営保護区groupを作り、ネイチャーポジティブを実現

既存の仕組みをアップデート

自然を守って儲ける仕組みは、既に存在します。カーボンクレジットの為の商社による森林の買取や、ラグジュアリーサファリなどが例です。これらの仕組みをさらにアップデートして、土地利用を最大化し、運営コストを下げることでレベニューを上げることが、伊藤の考える戦略です。現在angleReserveが注目しているのは、サバンナの自然保護区。生物多様性のクレジットを売ったり、衛生データやAIなどテクノロジーの活用等、様々な方面から土地利用を最大化することができます。農地を開拓するよりも、保護区としてキープした方が儲かる仕組みを作り、横展開で切る仕組みに落とし込むことを目標としています。
また現地のコミュニティを巻き込むために土地は買わずにリースし現地住民の雇用を産み経済発展に貢献しつつ、リースした土地の価値も高めていきます。サファリ事業を横展開することで、生息地の減少や分断の課題解決、30 by 30(2030年までに陸と海域の30%を保護する世界目標)の達成に繋げられると考えています。

第一拠点は、太田氏も活躍するクルーガー国立公園周辺を検討

是非、皆さんと一緒にこのチャレンジに挑めたら嬉しいです。


以上、登壇者3名によるスピーカーセッションの様子をお届けしました!
この後、約50名の参加者を交えたトークセッションが行われ、会場から直球の質問がいくつも投げかけられました。まだまだ答えのない問いに対し、3名がそれぞれの視点から考えを述べ、会場一体となって最適解を出そうとする雰囲気が印象的でした。

トークセッションの様子

トークセッション終了後は、会場内で登壇者と参加者間のネットワーキングの時間が設けられ、和気あいあいとした雰囲気でイベントは幕を閉じました。

今後、気候変動ビジネス以上のインパクトをもたらす可能性のある生物多様性領域と、「ネイチャーポジティブ」。
名前を耳にしたことはあっても、本記事で初めて具体的な全体像が見えた方も多いのではないでしょうか。

angleでは、引き続きビッグな社会課題解決の一環として、環境事業に力を入れていきます。今後も登壇者の活躍に注目すると同時に、皆さんも是非一緒に「ネイチャーポジティブ」の実現に向け協力していきましょう!

let's make it happen together!



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