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恋愛特攻部隊

mixi日記(2007年)より転載

家庭教師として学習指導している女子高生との会話。

彼女は同じ部活に憧れの先輩がいるのだけど、彼は文化祭で部活は引退、
あとは受験勉強に専念するらしい。

だから、文化祭後の打ち上げが先輩との距離を縮める最後の大きなチャンスだそうです。

で、「この夏はその打ち上げに向けてがんばる!」とのこと。

一体、何を頑張るんだ?
頼む。少しだけでいいから勉強もがんばってくれ。
俺のために。

罪悪感を覚えるんだよね。
家庭教師として来てるのに、おやつ食べて恋バナだけ聞いて家に帰るの。
俺が飲み会でやってることとなんらかわりねーじゃん、それじゃ。

彼女はそんなぼくの気持ちなどおかまいなしに楽しそうに話を続けます。

「ぶっちゃけ、その打ち上げでコクっちゃおうかと思ってるんですよ!」

多分、失敗するな。まだ、十分に関係とれてないでしょ。話を聞いてる限りでは。

「うーん、俺的にはそういう告白は美学にあわないのだが……
 相手に告白させてナンボだろ。多分、失敗するぞ、それ」

でも、そこで、ふと思うことがあり、言葉を続けました。

「あ!でもいいかも。
 そういう告白って若いうちしかできないからなあ。
 告白して断られる経験は絶対積んでおいたほうがいいわ。
 いっちゃえ、いっちゃえ。
 特攻作戦が失敗するということを、一度は体で学んでおく必要があるから
 ちょうどいいチャンスだよ、それ」

「きっとダメでしょうね!
 でも絶対に失敗するわけにはいきませんよ!」

「とりあえずさー、
 で、この夏の間にはなにができるの?
 ほら、特攻するにせよ、しないにせよ、夏の間にやれるベストを尽くして
 それでダメだったらまあ、あきらめもつくけど。
 やれることやらないでダメでしたっていうのは、ちょっと悔しいだろ」

「そうですねー。
 でも話題がわからないんですよー。何を話したらいいのか。」

「ああ。相手が興味を持ってることがらを知るには、
 どんなことをすればよさそうなんだ?」

「本人に聞く? でも、聞けないよなあ。うざがられそうで。」

「とりあえず、今、わかってる情報としては?」

「音楽の話題と……
 あ、夏休みの宿題で本を読む課題が出されてるんですけど、
 どんな本を読めばいいか聞いてみればいいや!」

「それは賢明だ。
 非常にいいところをついてると思う。
 なぜなら、その話題は先輩に聞く必然性があるしね。」

「なんでですか?」

「だって、先輩は学年一、頭が良くて勉強熱心なんだろ?
 勉強に関することは勉強が一番できる奴に聞くのが
 一番いいに決まってるじゃん。大手を振って聞けるでしょ。

 『なんで俺に聞くの?』

 って聞かれたら、

 『学校で一番頭のいい人が目の前にいるのに
  わざわざほかの人に聞くわけないじゃないですか!』

 って堂々と返せるじゃん。」

「あ!そうか!……勉強の話題で盛り上がるってことは
 私も勉強しないと質問できないですよね……?」

「まあ、そうかもね……」

「あああ……寝不足に……」

「寝不足になるほど勉強するってこと?」

「ええ。」

「いや、そこまでやらなくても……」

「時間がないんです!」

「そ、そうですか……」

なんだかよくわからんが、
勉強する方向に結びついたからよしとしよう。
時にはこういうまぐれあたりもあります。

まあ、この話の本題はそこじゃありません。
本題はこのやり取りでぼくが何をやっているのか?

ぼくは彼女の失恋予告をし、失恋することを指示すらしています。

中学時代に長い不登校を経て高校受験をクリアし、
再登校するようになった彼女が、
失恋した後にめげて、再び、引きこもるのはできれば避けたい。

そこで、失恋しても前に進んでいくように予防線をはっておくわけです。

失恋予告をしておけば、実際、失恋をしたときにぼくの予言は当たります。
予言を当てたぼくは彼女に対する影響力を増します。
予言者じゃ、予言者。

そしたら、落ち込みかけても、
こちらの働きかけでなんとかすることができる。

失恋しないで成功したら、
きっとこんなやり取りすっかり忘れてるでしょう。
覚えていても問題ない。

「先生は失敗するって言ってたけど、成功したじゃないですか!」

「おお。俺も驚いたよ!すげえなあ!」

これでOK。

さらに、ここでは失恋をした方がいい、メリットがあると主張しています。

こうやって、先に種をまいておけば、あとで失恋したときに、
既に潜在意識に撒かれたこの言葉がニョキニョキと芽を出してきて
自然と前向きに対処していくだろうと思います。
失恋することは悪いことではなくて「良い経験」とされている。

事件が起きる前に前もって種をまいておくわけです。

来週は憧れの先輩効果で、少しは夏休みの宿題を進めているだろうか?



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