【感想】BS1スペシャル コロナ危機 未来の選択「ジャレド・ダイアモンド~世界が連帯する“最後のチャンス”にせよ」
世界の知性が語る「コロナ後の未来」第一回は、ジャレド・ダイアモンド。進化生物学者、生理学者、生物地理学者で、ニューギニアに何十年も住み込んでフィールドワークを行った人だ。ヨーロッパが世界の覇者になった理由を説いた「銃・病原菌・鉄」などの名著がある。
これまで、いくつもの文明が興り、消えてきた。ダイアモンドは深い洞察力で、その歴史を解き明かしてきた。だからこそ、今の世界の動向から、コロナ後の世界はどこに向かうのかが見えているのではないか。すでに82歳とのことだが、冴えわたる思考に感服した。納得のインタビューだった。
印象に残り、今後も何かのネタに使いそうなところだけ記録しておくことにしよう。ダイアモンドが述べていることだけではなく、自分が感じたり、解釈した部分も含む。
人類が直面する感染症
ダイアモンドが「銃・病原菌・鉄」で書き記している有名なエピソードがある。1532年にスペインのピサロ率いる168名の少人数の軍隊が、インカ帝国を滅亡させてしまった出来事だ。インカ帝国が滅びた原因の一つは「天然痘」だったという。スペイン人にとって、天然痘は、長い期間をかけて免疫を獲得していた感染症だったが、南米の人たちは免疫がなかったため一気に感染症にかかり死んでいったのだという。歴史を調べると、このような事例は多く、感染症により、ひとつの文明が滅び、乗っ取られることもあった。
しかし、今回のコロナ危機は「免疫の有無」で世界を分断させてはいない。コロナウイルスは、中国でも、ヨーロッパでも、アメリカでも、日本でも、同様の脅威となっているのだ。その一方で、コロナは世界のひずみを明らかにさせている。富める者と貧しい者の分断を明らかにしている。アメリカでは、有色人種の死亡率が高い。また、十分な医療体制を整えることができない国々での感染の高まりは甚だしい。だから、コロナはある意味、公平で、そしてすごい不公平な感染症なのだ。
各国のコロナ死者数の多少
コロナに関しては、アメリカやブラジルで激しく拡大して、大量の死者を出しているが、日本や中国などは死者数は少ない。この理由は文化や政府の違いにあるとみている。特に、アメリカと日本は文化の違いが際立っている。
アメリカは極端な個人主義で「誰にも指図されたくない」という国だ。マスクを着用するというルールや、ロックダウンの指示など、政府からの指示でも、基本的に言うことを聞こうとしない。その結果の死者数だ。一方、日本は共同体を大切にする文化を持つ。他人や政府の意向を気にしがちで、社会的圧力が行動の動機になっているため、政府からの要請で、一気にロックダウンする。自粛警察も日本独特。その結果として、日本でのコロナ死者数は驚くほど少ない。
日本は、世界的に見ると、優秀な国なのだ。ダイアモンドは親族が日本にいることもあり、日本のことを高く評価している。日本は、これまでに多くの災害や原発など、様々な危機を乗り越えてきた実績があり、その危機対応能力が今回も活かされているとみている。なんといっても、日本は、国土が狭く、そもそも「密」なので、他の国よりはるかにコロナ対策が難しいのにも関わらず、よく抑え込んでいる。
ダイアモンドが高く評価している国は、ベトナムやフィンランドだ。これらの国は過去の危機に学び、用意を整えてきた。ベトナムは2002年のSARSで学んだ教訓をもとに、すでに1月の時点で国境を封鎖し、ロックダウンを開始した。フィンランドは第二次世界大戦でソ連に攻め込まれた経験から、あらゆる危機に備える体制が生まれた。医療用品が大量に備蓄してあったおかげで、ヨーロッパの中では、比較的コロナに処しやすかったという。
人類の素晴らしいところは、過去の失敗や危機から学んで、それを活かすことができることにある。
コロナ後の世界
極論を言えば、コロナは人類の存続を脅かす問題ではない。もし、仮に77億人全員がコロナにかかったとする。致死率が2%だとして、亡くなるのは1億5000万だ。つまり、75億人以上は残る。だから、人類全体を脅かす問題にはならない。むしろ、危機は気候変動・環境問題である。地球の資源はあと30年持たないと言われている。もし、本当にそうであれば、地球人類全体が滅亡する危機はそちらにある。
とはいえ、ダイアモンドはコロナ後の世界に対して楽観的な見方を持ち続けている。というのは、科学者たちの間では、過去に例を見ないほど共同での研究が進んでいるからだ。国の境を超え、共同で人類の抱える問題に立ち向かおうという機運が高まっている。コロナをきっかけに、より大きな人類の抱える問題への取り組みを開始できるなら、人類滅亡を免れることは可能ではないか。それがダイアモンドの予測であり、願いだ。
今から30年後の世界を想像する時、ダイアモンドがよく使うメタファがある。モアイで有名なイースター島の滅亡だ。優れた文化を持ちつつ、やがて滅亡した島。その原因は、貴重な島の資源を乱費したことにあるという。ダイアモンドの授業の中でひとりの学生が示唆に富む質問をした。「イースター島の住民は、最後のヤシの木を切り倒す時に何て言ったんだろう」。
同じ問いが、今の人類にも投げかけられている。森林伐採、海洋資源の枯渇、気温の上昇は深刻だ。500年後の人類は2050年の人類史を見なおした時に「彼らは最後の地球資源を使い尽くす時に何て言ったんだろう」というかもしれない。っていうか、その時には500年後の人類も存在していないということになるだろう。500年後の人類が存在しているかどうかは、2020年の今、コロナ危機により、人類の英知がひとつになるタイミングをとらえるかどうかにかかっているのだ。
まとめ
コロナ危機から気候変動の話に行くとは思わなかったが、大変、説得力のある話だった。人類がコロナというひとつの敵と立ち向かうことになった、コロナ危機。これは、かえって人類を救う可能性があるという指摘には目から鱗が落ちた。世界史・人類史の観点から、物事を見る。独特の視点をダイアモンドは提供してくれたと思う。
あまりにも面白くなさそうなタイトルで(笑)読んでいなかったけど、一度、手に取ってみたいと思った。最近はNHKのドキュメンタリーを見た後に、その著者の本を読むことが多い。
大人のADHDグレーゾーンの片隅でひっそりと生活しています。メンタルを強くするために、睡眠至上主義・糖質制限プロテイン生活で生きています。プチkindle作家です(出品一覧:https://amzn.to/3oOl8tq)