メンタル不調の書かれ方|魂を分け合う往復書簡。『急に具合が悪くなる』/宮野真生子・磯野真穂
まず、タイトルにひかれて本書を手に取った。「なんで急に具合が悪くなっちゃうんだろ?」、と。これは哲学者と人類学者の往復書簡であり、急に具合が悪くなる可能性があるのは哲学者の宮野真生子だ。ワークショップ開催のためにメールのやりとりをしていたところ、人類学者の磯野真穂に宮野が「がんを患っているため、急に具合が悪くなるかもしれない。イベントの講師を引き受けていいものか」と打ち明けるところから始まる。
磯野は当然のごとく驚き、戸惑うが、「急に具合が悪くなるとはいったい何を意味しているのか」と考え始める。
そのような磯野からの返信を受け取った宮野は「みんな等しく『急に具合が悪くなる』かもしれないんだ」と気付く。そして主治医から「急に具合が悪くなるかもしれない」と告げられたことによって、そのリスクを前提とする人生についてこのように考えるようになる。
二人は書簡の往復を続け、「生きることとは何か」「関係性をつくりあげるということはどういうことか」「当事者とは何なのか」といったことを語り合う。磯野は常に「あいつは簡単には死なねーよ」と自分自身の心の中で叫び、また同時に宮野に対しても「宮野にしか紡げない言葉を記し、それが世界にどう届いたかを見届けるまで、絶対に死ぬんじゃねーぞ!」と率直に投げかける。そんな関係性について宮野は「やっぱり待っていたのだと。磯野真穂という魂を分け合った人と出会うことを」と表現している。
それだけを読むと、2人の関係はとても深刻で緊張感あふれるものに感じられるかもしれない。しかし磯野は「舞台裏」と称したあとがきでこう述べている。
磯野は宮野を「病に侵されたかわいそうな人」「こちらがケアしてあげる弱い存在」としてではなく、「病をもち未来をどう進もうともがきながらも、自らの役割を忠実に果たし日々のちょっとした楽しみを貪欲に探していこうとする人」として、正面を向いて付き合っていく覚悟を決めていたのだろうとわたしは想像する。そのような関係性だからこそ、宮野も磯野を「魂を分け合った人」と評したのだろう。
こころに残った一文
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