見出し画像

仲の良い同僚が酔った勢いで自慢を始めた事が聞き捨てならない内容でした

前の職場のお話。当時44歳。
社内試験に合格すれば、契約社員から社員へステップアップできる制度がある。どこの会社でもそんな感じだろう。

仲の良い同僚のタエがその社員試験にめでたく合格した。

「おめでとう!やったね。これで仕事にも精が出るね。近いうちにお祝いしようね!」この試験はなかなか受からない難しいもので、何度もチャレンジしてようやく受かる、もちろん受からない人間もざら。そんな難関なのにタエは一発合格なんて凄いなと思ったのと同時に「なんでだろう」という気持ちもあった。

「なんで?」

この疑問の理由はこうだ。何年も実績を上げてきている勤務年数が長いベテランが篩にかけられ、やっと受験資格を得るのだ。ベテランでもないタエの営業成績は並であり、ひいき目で見るとある一つの商品の売上成績がいいかな、って程度だった。先輩たちは「なんでタエが受験資格をもらえるのよ。ほかに成績優秀者はいるのは歴然なのに。」とささやいていた。私もそうだよなと思ったけど、補欠のような感じで声がかかったのかなと考えていた。




「かんぱーい!」「合格おめでとう!」「ありがとー!」


タエと祝杯をあげていた。仕事のシフトの都合でなかなかお互いが翌日休みの前日会うことができなかった。私は明日も仕事なので、アルコールの量も控えめにしていた。その反対にタエは明日が休みなのと、試験合格した喜びと、緊張からの解放で浴びるように飲んでいた。

「凄いわぁ、1発合格なんて!A先輩とDさん、今回も落ちたって言うのに。」

「私は運が良かったんやて!」未だに合格できない諸先輩方と自分自身を比べるようにタエはまんざらでもない感じで言う。

「運も実力のうちやな(笑)難関の試験に一発で合格したんやから!凄い凄い!!」私が褒めている間、気を良くしてかタエはビールジョッキの交換をする。

「ぷっはー!今日のビールは格別!」






2時間くらい他愛もない話をしていただろうか、すっかり酔っ払い出来上がったタエが、ニヤッと笑いながら
「実はねぇ……」と切り出した。

「今回の試験も遠藤部門長が仕切ってたやん。」遠藤部門長とは、早い話がこの試験の合否を決めるキーマンだ。遠藤部門長に気に入られると、出世も早いとまことしやかに噂されている。枕営業する女性は結構いるとも噂あり。しかし遠藤部門長曰く、俺は一切えこひいきはせぇへんで実力主義や!と常に社員にはっぱをかけていた。

「へぇ、今回も仕切ってんの。遠藤部門長ってやっぱり人事権あるんやなぁ。」

「そうそう!お偉い人~ぉ!でぇ、遠藤部門長と飲みに行ったときにぃ、いい雰囲気なって~。でぇ…」にやつきながら、言葉を詰まらせるタエ。「へ?はっ?いい雰囲気って、もしかして…」びっくりして、言葉を詰まらせる私。

「へへへ。私っておじさんキラーやん?遠藤部門長に色目使ったら受験してみるか?って言われてなぁ。試験までに何回か寝たら、合格したってわけよ。年の割に元気やであの人。」



絶句。



これが噂の枕営業か…。わかりやすい。そういうことをする訳ないと思っていたタエが枕営業で合格をGETしたわけか。簡単に股を広げるわけないわと思っていたのは勝手な私の思い込みなのだが。

その後はただただ、その枕営業に至る武勇伝を聞かされた。

「えこひいきされるのも実力よね。権力者とは寝たくなるよ。」

「旦那とはレスやし、ちょうどいいわ。部門長も奥さんとレスなんやって。」

「セックスなんてただの手段」

「合格したけど、今後もちょくちょく部門長にお世話になると思うわ。」



気持ちが悪かった。一瞬で酔いも醒めた。タエは私が醒めているのにも気付くことなく、ドヤ顔で色々言っていた。極めつけは、

「きんにくちゃんも試験受けたいと思うんやったら、もうちょっと成績上げた方がいいよぉ。今のままやったら危ないかもよ。がんばりぃ~・・・」と言いながらテーブルに突っ伏して寝てしまった。

すっかりしらふに戻っていた私は、最後の言葉に頭に来ていた。あんたと成績は大差ないわ、おめーに言われたないわ!あほ!

私も人のことが言えるほど、立派に生きてきてはいないが…。仕事に性を出してくるのは好きじゃない。仕事の見返りを求めて男の人と寝たことは未だかつてないし、それだけはしたくなかった。遊びは仕事の外でしたかった。よって彼女の考え方には同意できない。それに遠藤部門長と寝たと言われてしまっちゃ、上司の愚痴や仕事の文句等、余計なことはもう言えない。遠藤部門長もそうだ、なにが実力主義だ、エロオヤジが。

もう金輪際タエには本音も言いたくないし付き合いたくないと思った。仕事のモチベーションはだだ下がりだ。



朝、出勤してきたタエはすっかり忘れている様子で、
「この間はおつかれ~お祝いありがとう。また飲み行こ!」と上機嫌だった。
「何言うたか覚えてないのん?」とタエに問うと、覚えていないという。これはいつものこと、尋ねる私に笑うタエ。
「最後は寝てしまってごめんよ~あはは」

まぁいいや。私はしっかり覚えているからね、あんた達のW不倫。私は不倫に対しては否定も肯定もしない。本人たちがいいなら、まぁ、いいんじゃないのかな。誰にもバレずにいられるならね。
気に入らないのは、タエの態度だ。強力なバックグランドを得て気が大きくなったのか、人に対してのあたりが強くなった。威圧的なのだ。






いい気になって自慢したくなったんだね。あの時のタエの高揚しきった表情が忘れられない。とてもとても【選ばれし私】を自慢したかったのだろうけど、これはねぇ、墓場まで持っていく案件だったのよ。軽々しく口にしちゃダメよね。誰が何処で聞き耳立ててるかわからないじゃない。


程なくして、私は先輩に密告した。女の噂は光の速度で伝わる。タエに対してよく思っていない先輩たちは多数いる。



その後タエは部署配置転換となり、会うことはなくなった。



所詮、女なんてこんなもん、と思たわ。きらいやわ~。私も女だけど。