ドラゴンクエスト ダイの大冒険 新アニメにゲームのBGMは必要なのか?

はじめに

アニメ「ドラゴンクエスト ダイの大冒険」がテレビ東京系列にて土曜9:30から放送中である。

まず、これが8話時点で「ディープな原作ファンが観たいものを制作側がしっかり理解した上で、随所を現代向けにリファインした、大変良くできたアニメである」ということをお伝えしたい。

新アニメの魅力や欠点を語りつつ、旧アニメ・原作・ドラゴンクエストを巡る時代背景も踏まえ、個人的な解釈と共に、タイトルにあげた疑問を紐解いていく。

新アニメの良し悪し色々

・原作完結後だからこそ可能な演出を追加している

アバンがメガンテを唱える際、ある女性の姿がカットインされる。
これは原作連載当時にはそもそも設定がまだ無かったものと思われるが、完結した物語を俯瞰すれば、アバンの脳裏を彼女の姿が過るのは極めて自然。非常に良い改変である。

・「闘気」を序盤から意図的に演出している

マァムがクロコダインに対して「腕に闘気を~」と説明する一幕は原作にもあるが、それ以前において明確な描写はされていなかった。
新アニメでは強力な技を放つ際、随所で敵味方問わず全身が光に包まれる演出が付加されている。

・原作で行間を読む必要のある部分を丁寧にフォローしている

マァムがダイ・ポップに合流する描写は、原作では「私も行くわ!」と声をかけて追いつくのみであり、アバンが命を落とした事実を知ってしまっていることは特に触れられず、話と話の間を想像させられるに留まっていた。
新アニメではここが尺に合わせる形でしっかり補完されており、それがキャラクターの性格をしっかり踏まえた上でのやり取りに仕上がっている。

上記のような芸の細かさがある一方、物足りない点があるのも確かである。

・原作で特徴的だった演出が省かれているところもある

これはテンポ的に仕方ないと思うところもあるのだが、要するに全部が全部原作に忠実というわけではない、ということだ。
直近の回で言えば、偽勇者一行と再会した際にずるぼんがゴメちゃんに色目を使うシーン、ポップを殴って走り去るマァムにでろりんが一言こぼすシーンなど、細かい部分がカットされている。

・BGMがドラクエのものではない

これは旧アニメをご存知の方々が唱えているのを頻繁に目にする批判である。
個人的には「ゲームのBGMでなくても何も問題はない」と考えているので、ここからはそう考える理由にフォーカスしていきたい。

旧アニメと原作が辿った道筋 及びBGMについて

旧アニメは1991年から放映されており、全46話で構成されている。
原作漫画でいうと12巻あたりまでの内容であり、終わり方はオリジナルであった。

これにおいて特徴的なのは、ゲームのドラクエのBGMを(アレンジも含むが)大体そのまま使っていることである。これが当時何を意味していたのか自分なりの解釈を示していきたい。

まずファミリーコンピュータ全盛の時代に、週刊少年ジャンプとドラゴンクエストが密接な関係にあった背景については下記に詳しい。

そんな時代の後期ともいえる頃に、ダイの大冒険のアニメ化が目指していたもの、それはもちろん原作の世界を広げるのは勿論ながら、個人的な推測に過ぎないが「ドラゴンクエストの認知度の更なる上昇」にも重きを置いていたのではないかと考えている。

原作の話を少しまじえると、そもそもダイの大冒険はドラゴンクエストの世界観をベースに、ジャンプ編集部から堀井雄二への申し出から始まった漫画だが、「ゲームとのクロスオーバー」的な要素が存在していた。

短編2つを経て長期連載となったがそもそも最初は当時発売を控えていた「ドラゴンクエストIV」と連動した企画が含まれていたのだ。

新アニメでは改変されてしまっているが、原作ではロモス城にゴメちゃんを助けに行ったダイが窮地に陥った際、ブラスから受け取った魔法の筒から出したモンスターが「見たこともないモンスターたち」であり、それが「ドラゴンクエストIVで新たに登場するモンスター」という仕掛けである。

今でこそコンテンツのマルチメディア展開において、それぞれの媒体の良さを活かす形に仕上げるというのは一般的なことだが、1991年という「まだゲームが市民権を得ていたとは言い難い時代」においては、事情は異なっていたのではないだろうか。

ゲームから漫画へ、そして漫画からアニメへ、という流れの中で、ダイの大冒険旧アニメにゲームのBGMを採用したのは、ドラゴンクエストの知名度自体をより底上げしたい思惑もあったのではないか、という推測である。

こう考えれば、新アニメにおいて「ゲームのBGM」が採用されるべき理由は特に無い。何故ならばもう2020年現在において、ドラゴンクエストは十分すぎるほどの知名度があり、1991年とはあまりにも状況が異なるからだ。
そんな中で、人によってはゲームのイメージが染み付いてしまっているようなゲームのBGMを、最新技術で制作されるアニメに添える必要性は無い、むしろそれは悪手ではないかと思えるのだ。

新アニメは近年数々のヒットアニメの劇伴を手掛けた林ゆうき氏による音楽で彩られているが、これまた嬉しいことに「ドラクエらしさ」を踏まえており、決して大きく踏み外してはいない印象だ。
一つ例をあげるならば、CM入りとCM明けのBGMが弦楽器のピチカートで奏でられているのは「Love Song探して」のオーケストラバージョンを彷彿させる。

終わりに

主題歌がミスマッチだとかそういった意見も散見されるダイの大冒険新アニメであるが、現代アニメで可能な範囲ではあるものの、様々な要素を序盤からうまく取り入れていると私は思っている。

(余談だが主題歌、特にオープニングの歌詞は今も昔も変わらぬ堀井雄二の精神性が色濃く表現されていると思っており、個人的には大変気に入っている。曲調はさておき。)

過剰に「ドラゴンクエスト」に寄せることなく、新たな表現となって飛び立つダイの大冒険を、新鮮な気持ちで鑑賞してみてはいかがだろうか。

特に11/28(土)放送予定の「ひとかけらの勇気」は序盤最大級の山場なので是非!

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