これから同人をやってみようというあなたに、ゆるゆると

はじめに

これから同人活動(一般的な商業ベースではない創作を本コラムでは同人と呼称する)をやってみよう、一次創作であれ二次創作であれ自分でなにかを書(描)いて人に問うてみようというあなたに、まずは心からの祝福を。おめでとう、あなたは語り手として世界にひとすじの線を引くのだ。
 そして助言と警句を。私は大昔ほどではないけれど、むかしむかしから参加して挫折してを繰り返している一介の字書きだ。今の私に落ち着くまで繰り返してみて、なんとなく掴めたことをここに書き残しておく。

1.何がしたいのかをはっきりさせる

 最初に持ってきてはいるけれど、ここが一番つらいところかもしれない。これは「あなたが見たくないあなた」を含む可能性がおおいにあるからだ。
 同人活動で何をしたいのだろう。感情を記録しておきたいのか、他人に己の世界を語って理解してほしいのか、はたまたきらきらとした仲間の中で好きなものを囲み踊り明かしたいのか。昔なら途中で考えていけばよかったのだが、このネット社会という激流で健康的に同人をやるためには、まずここを明らかにしておく必要がある。これをやっておかないと、文章のほうが得意なのにムリヤリ漫画を描いて見向きもされない、という事態が発生したりする。私です。
 仲間の中で踊り明かしたいのならば、傾向と対策を練ってそれを表現に落とし込む。己の世界を語るのなら、論旨とそれを表現する媒体を選ぶ。感情の記録であるならば、感情のかたちがどのようなものか確かめる。ここさえはっきりさせておけば、細々とした悩みはかなり軽減されると思う。

2.初期投資を減らす

 デジタルを使う利点は、鉛筆書きだろうとなんだろうとデータにして体裁を整えれば作品や原稿になるところだ。あなたがこれまで培ってきた画法(文体)にもよるのだけれど、かならずしも高価なソフトをいきなり買う必要はない。これから続けていくかどうかもわからないものであるのならなおのこと。(もちろん、続けるのならば快適性や表現の幅を上げるために購入を検討してもいい)
 物理的な本にする場合、印刷費と価格設定については本当に個々人の考え方になる。しかし最初はできるだけ出費を抑える方向で行ったほうがいい。「どうしてもこの装丁にしないと思うところが表現できない」というものがあるならばそちらが優先されるけれど、その種のこだわりをあなたはまだ持っていないはずだ。自分の作業スピードとお財布に相談しよう。
 イベント設営に関しても同様で、陳列に関するうんぬんとそれに付随する費用はまず限界まで減らすほうがいい。イベントに出るだけでも映画といいごはんを楽しめるぐらいのお金がかかる。それに加えて「一生懸命飾ったのに見てももらえない」というのは、あなたの想像以上にあなたの心を削るのだ。私が直近の参加で用意したのは下記の通り。
・敷き布(本の数と判型にもよるが、100均のランチョンマットでよい)
・左右に開くタイプのバインダー×2(組み合わせて立て、バックヤードとお品書き掲示スペースを同時に作る)
・釣り銭用の小銭(頒布する価格に合わせて調整すること)
・柄の濃いマスキングテープ(薄いよりは役に立つことが多い)
・筆記用具(油性の黒と赤、鉛筆、ボールペン、消しゴム)
 よく言われる見栄えや視線誘導は、繰り返しの参加で自分の存在がある程度周知されてから考えればいい。イベントは昔と違って規模がふくれあがっており、勝負は事前告知の回り具合、言ってしまえばどれだけの参加者が購入を事前に決めて地図にチェックを入れるかで決まってくる。一見の客、というのは狙いにくくなっているのだ。まずは本を出し、イベントに出て流れを掴もう。

3.狂気も才気も幻想である(健康第一)

 たぶん、これはかなり、たぶん、今時の悩みだ。SNSでいろんな狂気っぽいもの、才気っぽいもの、プロの技、ハイアマチュアの自由さ、そういうものを眺めて取り込み続けたあなたの心には、憧れがあるだろう。寝ずに原稿してなんか常軌を逸したおもしろレポとかゆかいツイートをしてバズりたいとかそういう。
 けれど忘れるな、その誰もが人である。人でしかない。落ち込むし、笑うし、眠るし、食事をする、生きた人間である。憧れはおおむね、圧縮された情報に宿る幻想なのだ。
 職業にしている(するつもりである)のでもないかぎり、あなたは心の平穏と生活を優先するべきだし、気が向かないときにはやめる自由がある。せっかくの作品を見てもらえないなら存分にスネるといい。あなたもわたしも人なので、当然の感情だ。ただし、他へ悪口雑言を連ねることのないように。感情はあくまで当人の感情でしかないので、むぎゅむぎゅスネたら休むなり対価を提示して構ってもらうなり、はたまた再び始めるなりして、あくまで自分の手元で折り合いをつけよう。
 あと、寝ずに原稿するのは命が縮むしクオリティ落ちるからやめようね。健康とスケジュール管理はしっかりと。

最後に

 創作は、おのれの中から正邪を問わずにあらゆるものを認識へと引きずり出すという面も持っている。それは思っているよりしんどいことだ。でも棚卸しと一緒で、やるとすっきりさっぱりする。これは思っているよりいいことだ。
 つまり、なんか同人って走り続けていないといけないイメージがあるけれど、「ときおりの創作」というのも悪くはないものですよ、と伝えたい。そのうちしょっちゅうやりたくなってきたら、きっとあなたは創作に慣れて、創作に向きはじめているのだと思う。
 どうかどうか、生きて、たまにあなたの世界を見せてください。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?