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「12.28韓日合意」以降、彼女たちの法廷

韓国の日本軍’慰安婦’問題研究所が発行しているWebマガジン”キョル”から記事を翻訳してお届けします。
キョル
http://www.kyeol.kr
原文はこちら
http://www.kyeol.kr/node/174

 映画<ハーストーリー>が示すように、「慰安婦」生存者たちは、日本政府と韓国政府を相手に、多様な訴訟を展開してきました。「12.28韓日合意」以降に行われたか、もしくは進行中の訴訟だけでも5件です。「慰安婦」ハルモニが当事者になった訴訟で、憲法裁判所へ憲法訴願1件、ソウル中央地方裁判所に大韓民国と日本を相手に損害賠償請求訴訟2件、そして訴訟の当事者ではないが、被害ハルモニが関連した訴訟として2件の情報公開請求訴訟があります。

1991年12月6日、故・金学順ハルモニが東京地方裁判所に訴訟を提起して以来、被害ハルモニたちは、数件の訴訟を日本の裁判所に提起しましたが、毎回、挫折を経験しました。 日本の裁判所は、被害ハルモニたちの被害事実を否定しなかったけど、既にすべての問題は1965年の韓日請求権協定で解決されたと判断しました。 被害ハルモニが現在、韓国の法廷に立つようになった過程を先に触れたいのですが、この文では2015年12月28日、いわゆる「12.28.韓日合意」が発表されてから、韓国で行われている訴訟について話をします。また別の機会に、これまでの法廷でのやり取りを説明したいと思います。

私は慰安婦被害者らが提起した訴訟の弁護人団の一人で、法廷では被害ハルモニらを代理して原告の側に立つ者です。より多くの方が被害ハルモニたちの主張に耳を傾けることを願ってこの文章を書いています。 したがってこの文章は、被害ハルモニの立場で、不当さと訴訟を起こすようになった理由を説明する形態になります。法廷での手続きや精緻な法理など、より詳細な法律的情報を知りたい方には、物足りなくなるでしょう。 また、法廷と学界では、使用する用語が異なるという点もご理解ください。

たった800字の「慰安婦合意」記者会見文、
これで「最終的かつ不可逆的」
解決になるのか?

被害ハルモニが12.28.韓日合意以降、最初に提起した訴訟は、情報公開請求訴訟です。 韓日合意から直ぐの2016年1月18日、大統領秘書室に情報公開請求をし、2016年2月1日には外交部にも情報公開請求をしました。大統領秘書室と外交部は、情報公開請求に対してそれぞれ1月27と2月15日にすべて非公開決定を下しました。この非公開決定に対して異議申請をしましたが、決定は変わりませんでした。

どんな情報を、何故公開せよ要求したのでしょうか? 「韓日合意」は両国外交長官が国内外の記者を集め、記者会見形式で発表されました。両国外交長官が交互に発表した合意内容は通訳を含めて約15分間でした。 そしてその記者会見文が、そのまま「慰安婦合意」というタイトルで公開されました。 韓国の記者会見文は約350字、日本のものは約450字程度で、合わせると約800字程度でした。この800字が、30年近く被害ハルモニたちと市民団体が闘ってきたこの問題に対する、「慰安婦合意」ということでした。その他には、いかなる合意文や文書も発表されず、実際、発表文以上のいかなる内容も文書も、追加作成されませんでした。

記者会見文は、日本が従軍慰安婦被害者に対する責任を痛感し、被害者の傷を癒すために日本政府が10億円を出捐して被害ハルモニたちの傷を治癒する事業をするという内容でした。 そのうち最も衝撃的なのは、今までの慰安婦問題が「最終的そして不可逆的」に解決され、よって韓国政府はこれから日本に対する非難を自制すると発表したのでした。 誰が見てもその意味を正確に知ることができないこの合意が、「最終的そして不可逆的」だというのは、到底、理解が困難でした。

記者会見文だけでは不足した、
明確にすべき内容を問う

法律家の立場として私は何よりも、日本が「法的責任」を認めたのか、「法的責任」の基本要素である'慰安婦被害事実'を認めたのか知りたかったのです。これまで被害ハルモニが求めたのは、日本に「不法行為による損害賠償責任」、つまり「法的責任」を取れということでした。 日本が植民地統治体制を利用し、被害ハルモニたちに性的奴隷生活強要という不法行為をしたので、その不法行為による被害ハルモニたちの被害を賠償せよということでした。 この不法行為による損害賠償責任を認める最初のボタンが、まさに日本が「植民統治体制を利用し、被害者らに性的奴隷生活を強要した」という事実を認めることだからです。

しかし、記者会見文だけでは” 日本が「事実認定」"をしたのかを正確に知ることができませんでした。 ある面では、これまで日本が認めてきた事実よりも、むしろ後退したとみる余地もあります。 だからまず、慰安婦の合意とするあの記者会見の内容を明確にしなければならなかったです。

外交部会議録公開要請
合意過程で"強制連行"を
どう扱っているのか?

時間的には、大統領秘書室へ情報公開請求をしたのが先ですが、外交部への情報公開請求に関して先に述べます。 外交部に公開要求した内容は、どんな過程で合意文に「強制連行」ではなく、「軍の関与」という内容が入ったのかに関するものです。「慰安婦」問題で日本政府は、「軍の関与」の下に慰安所が設置されたという事実を認めただけで、慰安所に慰安婦を強制的に連行し、連行された慰安婦に口にするも恐ろしい性奴隷生活を強要した事実は認めませんでした。 日本政府は、強制募集と性奴隷の強要などの責任をすべて民間に転嫁したり、それはすべて嘘だと主張したりもします。 しかし、被害ハルモニたちは、日本に「軍の関与」に慰安所が設置されただけでなく、強制的に慰安所に連行し、そこで性奴隷生活を強いられた事実を認定せよと主張しています。

したがって、2015年12月28日、韓日外交部長官が合意文を導出する過程で、「強制連行」表現及びその事実をどう扱ったのか確認するため、情報公開を要求しました。 両国が「軍の関与」という用語を選択し、その意味に関して協議した文書と、強制連行の事実を認めたかどうかを協議した文書などを公開せよということです。(韓国の)裁判所が、「国家間の合意や条約の内容が不明瞭な場合、会議録などを通じて、その内容を明確にしなければならない」と言ったことが既にあったからです。

しかし外交部は、非公開協議があったことを認めながら、韓日間の協議内容は「外交文書」なので、公開対象情報にならないと主張しています。 情報公開に関する法律では、「外交関係に関する事項として公開される場合、国家の重大な利益を著しく害する恐れがあると認められる情報」を非公開情報に定めているので、その規定を非公開の理由に挙げたのです。 外交文書が公開されれば、そのために日本との信頼関係に大きな打撃を与え、国際慣行にも反するとも主張しました。 外交部は特に、「外交に関する事項は高度に専門的な領域なので、他の情報よりも多くの裁量権を持っている」とも主張しました。 一方では、協議の過程でハルモニたちの意見を充分に聞いてその意思を反映したし、ハルモニたちが高齢なのを考慮し、早急に解決するために努力したと主張しました。

三審では、外交という名前で
被害者たちの法的権利が
むやみに侵害されないように

この情報公開請求訴訟は依然として進行中です。一審では、「外交文書であっても一律的にすべて非公開情報とことはできず、外交部が主張するように公開によって国益を著しく害するのか分からない」と判断して、(外交部へ)公開を求めました。しかし控訴審では、外交部の主張どおり、この情報は「公開される場合、国家の重大な利益を顕著に害するおそれがあると認められる情報」と判断、非公開を正当としました。

外交部に対する情報公開請求訴訟は、現在、最高裁にあります。 控訴審は、「公開されれば、国家の重大な利益を著しく害する恐れがある」と判断しました。しかし、顕著に害になるという「国家の重大な利益」が何なのか、そして何故「顕著に害する憂慮」があると判断したのかに関して、全く明らかにしなかったのです。 最高裁判所が、「慰安婦の合意過程で作成された文書を公開すること。国家の重大な利益を顕著に害することはない」と判断することを願います。 外交という名目で、被害者の法的権利をむやみに侵害してはいけないからです。

 日韓合意以降、日本では待っていたとばかりに、「軍の関与」は慰安所の設置に関することだけで、「強制連行はなかった」、「強制連行はまったくでっち上げ」と相次いで主張しています。 さらにこの事案は、「性的奴隷問題ではなく、慰安婦被害者問題に過ぎない」とし、「性奴隷」という表現は誤りとまで言っています。 こんな悲しい状況の中で、「慰安婦」関連訴訟がどんな肯定的な効果を出すのか、見守って下されば有り難いです。次回は、大統領秘書室を相手にした情報公開訴訟と憲法訴願について説明します。■

(翻訳;Kitamura Megumi & yb kwon)

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