20220109開催 #ラノベドラフト 振り返り&指名作品紹介(ネタバレなし)

はじめに

2022年1月9日、ケルト(@Celticmythology)さん主催の「#ラノベドラフト」が開催された。ラノベドラフトは読んで字のごとく、ライトノベルを主題とした「仮想ドラフト」のひとつである。

「アニメドラフト」、「アニメソングドラフト」など仮想ドラフトのフォーマットを活用した派生企画は多く、以前から関心はあった。しかしなかなかスケジュールが合わず参加を見送っており、今回は晴れて参加者のひとりとして企画に加わることができた。

筆者は中学生のころからいわゆるライトノベルに親しんでおり、今回は過去に読んできたライトノベルを中心に指名候補リストを作成。無事に全10冊の指名に成功した。

今回はラノベドラフトで指名した作品の紹介と、企画に参加した振り返りを紹介していく。

指名方針

ライトノベルは歴史も長く、またその定義があいまいなものだ。

実際に筆者も指名候補としておよそ70作をリスト化するなど、無制限に指名を考えると全10冊の指名ではとても収まらないことが想定された。

そこで今回指名方針として、筆者は以下の4点を掲げた。

  • 読んで損をしない作品を紹介する(大前提)

  • 上位3つの指名(1位~3位)は知名度が高く、アニメ化を果たすなどアクセシビリティの高い作品を指名する

  • 中位の指名(4位、5位)は2021年近辺に1巻が刊行され、既刊も少ない(3巻以内)、将来性の高い作品を指名する

  • 下位の指名(6位以後)は趣味に走る

そして、この指名方針に従って今回のラノベドラフトで指名した10冊が以下のものである。

1位 『クビキリサイクル 青色サヴァンと戯言遣い』 西尾維新(講談社ノベルス)
2位 『されど罪人は竜と踊る』 浅井ラボ(角川スニーカー文庫)
3位 『安達としまむら』 入間人間(電撃文庫)
4位 『ユア・フォルマ』 菊石まれほ(電撃文庫)
5位 『公務員、中田忍の悪徳』 立川浦々(ガガガ文庫)
6位 『狂乱家族日記』 日日日(ファミ通文庫)
7位 『電波的な彼女』 片山憲太郎(スーパーダッシュ文庫)
8位 『幼女戦記』 カルロ・ゼン(エンターブレイン)
9位 『丘ルトロジック』 耳目口司(角川スニーカー文庫)
10位 『アリフレロ キス・神話・Good by』 中村九郎(スーパーダッシュ文庫)

指名作品紹介

ここからは指名作品を指名順位順に紹介していく。

1位 『クビキリサイクル 青色サヴァンと戯言遣い』 西尾維新(講談社ノベルス)

今回、1位指名させていただいた作品が『クビキリサイクル』である。『クビキリサイクル』は今もなお『物語』シリーズや『忘却探偵』シリーズなど、ノベルスの第一線を張り続ける西尾維新のデビュー作である。

『このライトノベルがすごい!』2006年版で作品部門第1位を取得するなど対外的な評価も高く、作者本人も「京都の二十歳」という異名がついた。以後にデビューしたライトノベル作家の中には西尾維新の影響を受けたと目される者も多い。

このような経緯から見ても『クビキリサイクル』は『ブギーポップは笑わない』シリーズなどと並ぶエポックメーキングな作品と言っていい。まさにラノベドラフトの1位指名にふさわしいと言えるだろう。

筆者自身も『クビキリサイクル』を読んで以後ずっと西尾維新作品を追っている。読書生活において多大な影響を受けた作品だ。あんなん中学生のころ読んだら人生が狂うんじゃ!(千鳥)

独特の諧謔、韜晦を織り交ぜた文章や命名法、アクの強いキャラクターは当時から健在。むしろ原点にして頂点といった趣もある。指名は刊行当初の講談社ノベルスで行ったが、現在は講談社文庫から文庫版が発行されており、簡単に全巻を揃えることができる。

2016年にはシャフト制作で全8巻(全8話)がOVA化した。……ただし、完全受注生産のため、2021年現在手に入れる方法は中古を探すしかない。ちなみにもちろん筆者は全巻保有して限定DVDケースも持っている。

ともあれ、初版が2002年とはいえ今なお古さを感じさせない内容には一読の価値がある。ぜひ読んで欲しい。

2位 『されど罪人は竜と踊る』 浅井ラボ(角川スニーカー文庫)

2位で指名したのが『されど罪人は竜と踊る』(以下『され竜』)である。

ライトノベルには「暗黒ライトノベル」という非公式のサブジャンルがある。暗黒ライトノベルとは救いのない展開、性や死、暴力についてごまかしをしない残酷な描写などを特徴とするライトノベルを指す分類だ。

そして『され竜』はこの暗黒ライトノベルの「始祖にして最終作」と言われるほどの作品だ。「咒式」という化学をベースにした魔法設定や酷薄な世界観、くどくどしい文章、独自のアフォリズムなどによって形成された、他にはない圧倒的な個性が魅力である。

特に4巻以後のアナピヤ編は筆者の一押し。読後感が最悪。メンタルが弱っているときに読んではいけない。

また『され竜』には今回指名した角川スニーカー文庫版(全8巻)、ガガガ文庫版(全21巻)の2つのバージョンがある。詳細は省くが、角川スニーカー文庫からガガガ文庫に乗り換え、全面改稿して現在も続いている形だ。

両者を比較すると、内容がより酷薄で文章がより難解なものがスニーカー文庫版。キャラクターや会話文が増え、よりライトになったのがガガガ文庫版である。そもそも現在も続いているのがガガガ文庫版であるため、まず買うならガガガ文庫版をオススメしたい。

ちなみに2018年にアニメ化をしたが……お察しください。

ジヴーニャ(cv日笠陽子)はすごくかわいい(こなみ) 
あとギギナ(cv細谷佳正)はすごくハマってたと思う(こなみ)

内容はまぁ…… 別に見なくてもいいかな……

3位 『安達としまむら』 入間人間(電撃文庫)

3位指名は『安達(了一)と嶋村(一輝)』『安達としまむら』である。おそらく2022年現在、入間人間の代表作として最初に名前が出る作品であろう。

2020年にはアニメ化も果たしている。絵柄も原作に即しつつアニメで動かすのに適した形にデフォルメされたほか、心情描写を丁寧に描いており、非常に出来がいい。刺激に満ちた作品ではないがスルスルと観られる良作だ。

さて、筆者は作者買いをするほどの入間人間作品好きである。中でもデビュー作である『噓つきみーくんと壊れたまーちゃん』が最も好きだ。だがより作者の強みを生かした作品として、今回『安達としまむら』を取り上げた。

筆者が考えるに、入間人間という作家の強みは独特の語り口で描かれる心情描写だ。極から極へ振れるのではなく、微妙で、明言できない心情の動きを間接的に描くのが巧い。

その心情描写の強みと、いわゆる「百合」の親和性は高い。最初に入間人間に百合を進めた編集は素晴らしい仕事をしたと言っていいだろう。参考に渡したのは『ゆるゆり』らしいが。

童○男子とメン〇ラの悪いところを足したド級めんどくさい安達と、こざっぱりし過ぎているしまむらの関係が進展したり進展しなかったりする、百合時々青春ストーリーが展開される『安達としまむら』は入間人間の強みがとてもよく出ている。

作者自身も手ごたえを感じたのか、これ以後発刊される書籍のほとんどが百合作品になってしまっている。

たまにはデビュー時のサスペンス路線も恋しい……。

4位 『ユア・フォルマ』 菊石まれほ(電撃文庫)

2021年刊行の新作ライトノベルとして、筆者が最もオススメしようと思って指名したのが、この『ユア・フォルマ』シリーズだ(1巻は2021年3月発売、2022年1月10日現在既刊3巻)。

電撃文庫は日本最大のライトノベルレーベルである。『ユア・フォルマ』はそんな電撃文庫の懐の広さを感じられる作品のひとつと言える。

『ユア・フォルマ』はライトノベルの主流であるラブコメもの、異世界ファンタジーものとは一線を画す、ハードSFに分類されるだろう。世界観作りから綿密に練られており、高いオリジナリティと魅力的な設定を有している。

かといって、邦SFにありがちな概念的な何かをこね回したような抽象性や専門用語を濫用した難解さがあるわけではない。設定はアイザック・アシモフなどをベースにした地に足のついたもので、用語は適切な説明がなされている。

構成も白眉である。バディもののミステリーとして読むことができ、キャラクターも魅力的だ。主人公である天才捜査官・エチカとその相棒であるハロルドの掛け合いは軽妙で、難しい言葉を交えつつもスルスルと読むことができる。

筆者はライトノベルもSF作品もたしなむが、両者のいいところを併せ持った、非常に面白い作品である。

捜査の過程で他者の<機憶>に潜るシーンなどはビジュアル的にも非常に映えるため、今後のアニメ化などにも期待できる。ぜひ読んでみてほしい。

5位 『公務員、中田忍の悪徳』 立川浦々(ガガガ文庫)

4位指名の『ユア・フォルマ』が電撃文庫の懐の広さを感じられる作品であるとするならば、5位で指名したこの『公務員、中田忍の悪徳』はある意味で非常に「ガガガ文庫らしい」、型破りな作品であると言える(2021年9月1巻発売、既刊2巻)。

そもそも小学館ライトノベル大賞の優秀賞を受賞したときのあらすじがすごい。「帰宅した中田忍は、自室内でエルフの少女と遭遇。異世界の常在菌を危険視した彼は、エルフを冷凍し破棄しようとする」。

インパクトは抜群だが、ともすれば出オチ感もある。このような煽りでどのような作品が出来上がるのか、興味が湧いたことを記憶している。

実際の作品は、異世界ファンタジーの「お約束」を逆手に取った破天荒なものだった。多くの作品では、異世界に言っても不思議な力で言葉が通じる。これは当然のことで、言葉が通じなければストーリーが展開できない。

しかし現実では、私たちは同じ地球上でも言葉が通じないケースが珍しくない。いわんや異世界をや。

この作品は目的のためなら手段を一切問わない、実直を地で行く地方公務員・中田忍と、言葉も何もかもが異なる異世界エルフがゼロからコミュニケーションを構築する異文化コミュニケーションライトノベルなのである。

まぁそれはそれとしてエルフがかわいい。

6位 『狂乱家族日記』 日日日(ファミ通文庫)

まず最初に言うべきこととして、筆者はこの『狂乱家族日記』を客観的に語ることができない。

なぜならば、自分の記憶をたどる限り、最初に読んだライトノベルがおそらくこの『狂乱家族日記』だからである。言ってしまえば入口のような作品だ。思い入れが強い。

まぁこんなクソ気持ち悪い自分語りはそれくらいにして、作品としてはタイトル通りの家族もの。突然集められたメンバーが家族として絆を深め、ときに思い悩むというストーリー。日日日ならではの陰鬱な展開もあるが、「宴」と称した斜め上からの解決策がセットになっており、読後感がいい。

イラストもポップで時代を感じさせないし、見開きで本編と関係ないマンガを掲載するなどの演出も心憎い作品だ。

日日日先生は近年はソシャゲの脚本執筆が目立つが……またライトノベルを書いてくれないかなぁ。

2008年にテレビアニメ化もされている。原作10巻まで+関連した番外編を2クールにまとめるという余裕のない編成のため、原作の描写がかなり端折られていて正直出来は……。EDを複数用意して毎回流す曲を放送局によって変えるとかいうわけのわからない演出をしていた。

頼むから原作の最後までアニメ化をしてくれ(届かぬ想い)

7位 『電波的な彼女』 片山憲太郎(スーパーダッシュ文庫)

片山憲太郎作品といえば、アニメ化を果たした『紅』が有名かもしれない。しかし今回指名したのは『紅』とも世界観を共有する、この『電波的な彼女』である。

筆者はこの作品が好きで、たびたび読み返している。

『紅』は暴力の世界が舞台で、主人公も自衛ができる程度の実力がある。一方、『電波的な彼女』の主人公はあくまで一般人。作品もバトルよりもサスペンスの色合いが強い。悪意に対して無力で、翻弄されてしまう。

ネタバレになるため詳しくは言えないが、筆者はこの作品の主人公を本当に好ましく思う。紆余曲折はありながらも、目を背けたくなるような悪意を直視し、事態の収拾に尽力する。心優しい人物だ。

残念ながら2021年1月現在続刊は出ておらず、今後も刊行の見通しは立っていない。ただ最近コミカライズ版の連載が始まったので、まずは漫画から入ってみてもいいのではないだろうか。

可愛い女の子もいるぞ。デムパだけど。

8位 『幼女戦記』 カルロ・ゼン(エンターブレイン)

コミカライズ化、アニメ化、映画化もしたため、知名度は今回指名した作品の中で、最も高いのではないだろうか。なんでアニメの絵柄はあんな独特だったんでしょうね。

筆者はこのシリーズに本棚の一角を完全制圧されており、その異常な厚さから「本当に幼女戦記はラノベドラフトに参加していいんだろうか?」と考えてしまった。挿絵もオッサンばかりだし。

ただ、作者がライトノベルだと公言してるから『幼女戦記』はライトノベル。ラノベは自由だ。

第一次世界大戦を下敷きに、豊富な知識量から描かれる緻密な描写は他では得られない。アニメや映画を見た人は、ぜひ原作に当たってほしい……が、やはり分厚過ぎる。電子書籍で買うことをおすすめする。

いや本当に分厚いんだこれが……もう筆者は後には引けないんだ……。

9位 『丘ルトロジック』 耳目口司(角川スニーカー文庫)

『丘ルトロジック』は第15回スニーカー大賞において「選考委員を最後まで悩ませた問題作」とまで言われて刊行された作品である。

なるほどその看板に偽りはない。

ストーリーラインとしてはライトノベルによくある学園ものだ。「オカルト研究会」に集う部員たちが、都市伝説を追い求めるという内容。

しかし登場人物のアクが強い。独特の主義主張を有し、芸術などと絡めながらぶつけ合うさまは圧巻だ。登場人物と都市伝説とが関連し、ひとつの大きな結末へ収束する構成も読ませるものがある。

作者は当然この作品がデビュー作であるため、まだ生硬な部分も散見される。とはいえ、伝えたいものを詰め込んだという意気込みやエネルギーのようなものを感じさせる。最高だ。

今なら全4巻の合本版なども電子書籍サイトで買えるため、おすすめしたい作品である。

10位 『アリフレロ キス・神話・Good by』 中村九郎(スーパーダッシュ文庫)

君たちは中村九郎というライトノベル作家をご存知だろうか。おそらく知らないと思う。

筆者は多くのライトノベルを保有しているが、その中から敢えて「奇書」を3つ選ぶのであれば確実に中村九郎作品が入る。ちなみにあとの2つは『インテリぶる推理少女とハメたい先生』と『神戯』です。今考えました。

さて『アリフレロ』に限らず、中村九郎作品の魅力を一言で言うなら唐突さにあると思う。と言っても、何も構成から何からいきあたりばったりというわけではない。

むしろその逆で、よく考えられていることは分かるのだ。ネーミングも詩的で、何かしらの元ネタのようなものがあると思う。全体を見ればまとまっているようだ。

しかし唐突なのだ。文と文のつながりがよく分からない。そもそも今何を言い出したのか分からない。時に情景を思い浮かべることすらできない。

そう聞くとけなしているように思うかもしれないが、読後感はさっぱりしてていい。意味が分からない。

まあこんな紹介を見て中村九郎作品に興味を持つ人はいないだろうが、もし最初に読むなら『樹海人魚』か『曲矢さんのエア彼氏』あたりをおすすめする。解像度が高い。

『アリフレロ』から読むと筆者みたいに思考の迷路に陥るぞ。

総評・謝辞

いかがでしたでしょうか?
今回は何もわかりませんでしたね!

今回のラノベドラフトの総評としては、やはり「ライトノベルも代替わりをしてるんだなぁ(しみじみ)」という一言に尽きる。

筆者はいわゆる「なろう系」に関しては、恥ずかしながらセンサーが届いていない部分も多い。指名作品の中にも分からない作品があり、汗顔の至りだった。

自らの不足を思い知る企画だったと感じている。

ただし、今回指名した作品はいずれも計画通りだった。ハズレはないと自負しており、ぜひ知ってほしいものを揃えたつもりである。『アリフレロ』以外は。

このような企画でまた知らない本に出会えるというのは、素晴らしいことだと筆者は思う。まだまだ指名できていない作品もごまんとあるため、ぜひ次あるのであればまた参加したいと感じている。

最後にラノベドラフトを主宰し、参加者としても場を作り上げてくれたケルトさん、指名作品をまとめたスプレッドシートを作成してくれたブラウン(@ut1057)さん、

筆者と共に参加したイザヤ(@Izaya_107)さん、bonten(@syu1012bonten)さんに最大限の感謝を述べたい。

本当にありがとうございました。

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