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改革論

Chapter 1
規制改革≠規制緩和
規制を緩和することが善で、規制を強化することが悪ではない。
本来的な規制改革とは「社会経済の実態に合うよう規制を改めること」である。

規制改革の方向性
①規制の新設
②規制の強化
③規制の緩和
④規制の簡素化
⑤規制の廃止

規制改革のメリット
負担の軽減(手続きの迅速化、添付書類等の軽減、行政処分の変更)
機会の創出(制限の撤廃、対象として追加)

バランスの悪い規制改革を巡る議論
改革すること自体が問題であると明らかになれば、改革はしないことで終わるはずだが、改革を進めたい勢力は、現行規制を守る立場を「既得権益」「抵抗勢力」とレッテル貼りし、攻撃する。ここに、大手メディアの言論人が加勢し、改革に反対する勢力は悪者扱いされ、改革に反対すること自体が悪いことになり、結果として改革が押し通される。

規制改革⇒機会の創出⇒新利権の誕生
(例:公務員削減⇒人材派遣会社への委託⇒人材派遣会社の利益確保)

規制改革のデメリット
タクシーやバスの参入規制の緩和 新規参入増加⇒コスト競争の発生⇒賃金の低下・人件費の削減⇒運転手の質の低下・運転手の長時間労働⇒事故多発

改革勢力は改革にスピード感を要求し、国民の安心・安全や国民経済の安定よりも、自らの利益の確保を求める。

Chapter 2
日本経済を衰退させた改革の系譜
中曽根・竹下改革
行政改革(三公社五現業の民営化)
増税なき財政再建(老人医療費無料化の見直し、整備新幹線工事の抑制)
→第二次臨時行政調査会(土光臨調)は行政改革を飛び越え、増税なき財政再建を提言。
経済構造調整(アメリカの市場アクセスの改善、金融・資本市場の自由化を検討・推進)
→「従来の行政の効率性や財政再建の文脈とは別のものであった」(増島俊之『行政改革の視点』)とあるように、日本経済自体を変えてしまおうという方向に転じた。
橋本改革
 行政改革(中央省庁等改革)
 緊縮財政・増税(財政構造改革法、消費税増税3%→5%)
 金融ビッグバン(金融制度改革)
小泉・竹中改革
 構造改革(郵政民営化・労働規制の大幅緩和等)
 緊縮財政(プライマリーバランス黒字化目標、地方交付税交付金の減額)
これらの改革により、日本で小さな政府、グローバル化、株主資本主義、金融資本主義が進んでいった。

洗脳世代(ロナルド・ドーア『金融が乗っ取る世界経済』)
海外留学で渡米し、MBA(Master of Business Administration)を取得し、後に役所の管理職や幹部になっていく人材で、小さな政府論やアメリカ型改革を推進すればよいと洗脳されている。行政に民間の経営手法や考え方を取り入れて、行政を改めていこうというNPM(New Public Management)的な発想を是とする風潮がこれを後押しした。洗脳世代は民営化の信奉者であり、国や地方公共団体が持つインフラ事業に民間企業を参入させるPFI(Private Finance Initiative)、民主党政権からはPPP(Public Private Partnership)を推進した。

日本経済異質論・日本後進論
日本が成長しない原因を、日本社会の異質性や後進性に求め、日本型システムを改革するため、グローバル化を推進する口実を与えた。日本経済が低迷するに至った原因は、日本に社会的・構造的な問題があったためではなく、金融政策の失敗、後の改革や緊縮財政にあるが、自信を失った日本人は必要以上に自国を卑下したため、改革を推進する原動力になってしまった。

Chapter 3
改革=日本のデフレ、停滞、貧困化を進めた元凶
〇緊縮財政
▲行政改革
 中央省庁等改革・政策評価
▲公務員制度改革
 定数削減・非正規化
▲特殊法人等整理合理化 
 独立行政法人化・独立行政法人整理合理化
〇規制改革
▲株主資本主義促進法制
 会社法・金融ビッグバン、会計ビッグバン
▲グローバル化促進法制
 業法規制緩和・入管規制緩和・労働規制緩和・メガFTA等を通じた制度破壊
▲民営化
 PFI/PPP、指定管理者、市場化テスト
▲地方分権改革

行政改革
①事業縮小や廃止、必要な事業の継続が困難になる
 ⇒公共インフラの整備が不十分になり、東京一極集中と人口減少が進む
 ⇒基礎研究や公共分野の人材育成などの民間分野に適さない事業が機能不全に陥る
②人員削減(退職勧奨よりも採用抑制で対応)、人員不足は民間委託で対処
③コスト削減のため、物資の質の低下、人件費の削減
④人件費の削減のため、民間企業の職員の士気低下
⑤業務に関するノウハウの継承が困難になる

地方分権改革
①小泉政権以降、三位一体の改革(国からの補助金の減額、地方交付税交付金の減額、税源移譲)とともに推進される
②地方自治体の場合、税収は財源であり、平均して都道府県では約4割、市町村では約3割程度であり、国からの財源が重要になる
③優秀な人材の雇用や必要な事業の継続のための財源も確保できなくなり、地域間格差は拡大する。

株主資本主義促進法制
①会社法により、株主本位、投機家本位の会社制度に変わる
②金融ビッグバンにより、国際的な資本移動が自由化され、日本の株式市場に外国人投資家が雪崩込み、株主資本主義の推進に拍車がかかる
③会計ビッグバンにより、株主・投機家は企業の会計、財務状況が見やすくなり、配当金の要求がしやすくなった。

グローバル化促進法制
①労働規制や入管規制を緩和することにより、人件費を削減し、日本の需要減、グローバルコスト、価格競争に対応する。結果として、日本人の賃金は低下する。
②業法規制緩和はアメリカの余った弁護士の働き先を作る。日本にとっては全くメリットがない。
③メガFTAは規制のハーモナイゼーション、規制を締約国で同じくし、グローバル企業の利益になる制度に改める。

日本人が改革を好む理由
明治以来、日本は西洋に対して遅れているという劣等感を持ち、西洋に追いつくことを目指し、戦後は戦勝国であるアメリカに劣等感を持ち、同じことをやってきた。そうした経緯があるため、日本では欧米型の改革を受け入れやすい素地がある。また、日本の持つ強さは組織の柔軟性や弾力性であり、多様な状況に対応できること(「ダイナミック・ケイパビリティー」経産省『ものづくり白書』)であるが、これを日本人自身が理解できていないことにある。現在は逆に、選択と集中という企業の改革を後押しするような行政運営により、環境の変化に対応する能力が失われ、硬直化している(例:行財政改革を進め、医療・保健に関する組織を縮小・廃止した結果、新型コロナウイルス感染症対策に十分に対応できなくなった)。