マルティン・タキンボの映画批評映画『梅切らぬバカ』 星 ★★★



マルティン・タキンボの映画批評
映画『梅切らぬバカ』
 星 ★★★

監督・脚本:和島香太郎出演:加賀まりこ 塚地武雅 渡辺いっけい 森口瑤子 斎藤汰鷹 林家正蔵 高島礼子配給ハピネットファントム・スタジオ制作国 日本(2021)上映時間 77分公式サイト https://happinet-phantom.com/umekiranubaka/
あらすじ

古民家で占い業を営む山田珠子(加賀まりこ)は、近隣住民との付き合いを避け、自閉症の息子・忠男(塚地武雅)とふたりで暮らしていた。庭に生える一本の梅の木は、忠男にとって亡き父親の象徴だったが、その枝は塀の乗り越えて道にはみ出していたため、新しく越してきた隣人と揉めたりしてそこに交流が生まれる。やがて、珠子は、知的障害者が共同生活を送るグループホームへの入居案内を受け、忠男を入居させる。住み慣れた家を出た忠男は環境の変化に戸惑うばかりだった。ある晩、他の利用者との諍いをきっかけにホームを抜け出した忠男は、近隣住民を巻き込む厄介な「事件」に巻き込まれてしまう…。

新宿バルト9で、お昼の回を初観賞した。公開2日目もあるのだろうか、若い人から年配までと、席はほとんど埋まっていた。自分のとなりには、ダウン症的な方もいて、塚地のお芝居を見て大声で笑っている。
 全体的に漂う清々しさと、塚地演じる忠さんが、あどけなくて、ついついほほえましく、クスクス笑いが漏れる爽やかさが良い。決して重くなく、身体障がい者問題の映画ではなく、淡々と、母子の山あり谷ありの穏やかな暮らしを、伝えてくれる。
 最初は、自閉症の息子を介護する母親役に、加賀まりことは、違和感があったが、やがて彼女の自宅での仕事が、売れっ子手相占い師ということがわかり、なるほどと納得していった。息子で迷惑をかける人たちへの精一杯の誠実さが伝わる加賀まりこの抑えた演技が静かに光る。桜切るバカ、梅切らぬバカ、という諺がある通り、剪定によって木はダメになったりよくなったりすることから、人間もその人なりの生かし方で大きく成長することを母子の物語に編んでいくストーリーは、新鮮で面白い。道路に大きくはみ出した梅の木が邪魔で隣人と揉めたり、また、忠さんが馬が好きで、近くにある厩舎があり、そこと騒動を起こしたり施設で仲間と合わなかったりにして、母親の珠子を手こずらせる。やがて、忠さんは我が家に舞い戻ってしまう。おかえり、といって抱き締める珠子のシーンがクライマックスシーンなんだろうが、いまひとつ、珠子に感情移入して泣けなかった。それは、前段、忠さんの大変さが母親を本気で手こずらせているように見えない演出にあると思う。爽やかさなのはよいのだが、やはり、自閉症ならではの激しい暗部が描けていて、もう少し母親の激しい苦労が伝われば、泣けたのかもしれない。また、最後、剪定鋏で、チョン切れたかのように終わるラストの処理も勿体ない気がした。
 ともあれ、見終わった後に感じるのは、介護する親子であれ、される親子であれ、施設に入れられる親子であれ、外からどう言われても、連れ添いをとことん面倒みてあげたくなる、元気を貰える1本であることには間違いない。新しいジャンルの母子物語の誕生を祝いたい。
 キャストも豪華で、ややテレビ二時間ドラマ的なキャスティングは少し気になったが、皆温かい助演で、母子を立たせてくれているのが印象的である。
 新宿バルト9、シネスイッチ銀座他で
上映中


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