令和3年司法試験労働法第2問 再現答案(58点台)

1 懲戒解雇が不利益取扱い(労組法7条1号)に当たれば懲戒解雇は無効となる。(ア)労働組合の正当の行為をしたことの(イ)故をもって(ウ)不利益な取り扱いをすること,が要件となる。(ア)要件について検討する。
2 争議行為に基づく懲戒解雇について
(1)争議行為とは,正常な業務の運営を阻害する一切の行為をいう。Xは4月13日に早退届を提出し,21日まで仕事をしていない。Xの行為は正常な業務の運営を阻害するもので争議行為にあたる。
 争議行為の正当性の有無は➀主体②目的③手続き➃態様で判断する。
(2)争議行為は団体交渉の要求を貫徹するために行う。そこで,主体は団体交渉の主体となりうる者である必要がある。
 各支部は組合本部と独立して団体交渉をする権限はなく,組合本部の了承を得ていない。しかし,憲法28条は団体交渉権を保障している。そして,「労働組合の代表者」は使用者と団体交渉をする権限を有する。(労組法6条)XはA労働組合F支部長F工場で働く従業員の代表であるから団体交渉権限を有する。(➀充足)
(3)団体交渉の目的事項,すなわち義務的団交事項でなければならない。義務的団交事項とは団体交渉をしている労働組合の構成員である労働者の労働条件その他の待遇,又は労働組合と使用者との団体的労使関係の運営に関する事項で使用者に処分可能なものをいう。
 本件では,Bの懲戒解雇の撤回を目的としている。BはかつてA労働組合員であったが現在は組合員ではない。しかし,Bの懲戒解雇は,安全性を訴えWに反発したことを理由になされている。そして,どれだけ会社の発展に身を捧げ,管理職に栄進したとしても創業者の一存で解雇されることを示すものである。Bの懲戒解雇の撤回求めることは,A組合の組合員が将来的に会社の一存で懲戒がなされる危険の防止につながる。よって,本件目的は,労働組合の構成員である労働者の待遇是正のためといえ,目的として正当である。(②充足)
(4)Xらは,工場長室前へ行き,Bの解雇について話し合いを求めている。Wが返事もせず無視したのを見て,「組合は断固戦う」と争議行為の宣言をし,罷業を開始している。何らの予告なしになされた争議行為とはいえず,手続きは妥当である。
 次に,F支部は本来団体交渉の権限がなく,Xは組合本部から承諾を得ていないのにも関わらずそれを他の組合員に秘して一連の行為をしている点は問題とならないか。この点,承諾がなかったことについては労働組合内部の瑕疵にとどまり,Xは統制処分の対象となりうるが,問題とならない。また,F支部組合員は承諾を受けたと誤信しているものの,Y社の対応やWの態度に憤りを覚え,Xに賛同していたことを踏まえると,Xが承諾の有無について秘したことは重大でない。
 以上より争議行為の手続きに問題はない。(③充足)
(5)争議行為は労務不提供が本質で,手段も労働者が団結して労働力を使用者に利用させないことにある。よって,争議行為は暴力を伴うものは許されない。労務不提供をこえる積極的な行為が平和的説得をこえる場合も許されない。
 本件で,Xらは罷業にとどまっているのだから,争議行為の態様として正当である。(➃充足)
(6)以上より,争議行為は正当である。(ア充足)
 「故をもって」とは,反組合的意図ないし動機をいう。本件で,Y社はXが争議行為をしたことを認識し,あえて懲戒解雇をしており,反組合的意図が認められる。(イ充足)懲戒解雇は不利益的取扱いにあたる。(ウ充足)
 ア~ウより,争議行為を理由とする懲戒は不利益的取扱いにあたり無効となる 。
3 組合活動に基づく懲戒解雇について
(1)組合活動とは,通常の業務を阻害しない労働組合による行動をいう。本件で,XはF支部名義の情報宣伝活動用アカウントで,ネット上にY社を批判する内容の投稿をしている。ネット上の投稿でY社の通常の業務を阻害しない活動であり,組合活動にあたる。組合活動の正当性については➀主体②目的③態様から判断する。
(2)本件で,XはA労働組合の組合員であり,主体として正当である。(➀充足)
(3)目的は,労働者の地位の向上のためでなければならない。本件で,Xは世論を味方につけるためY社を批判する投稿をしている。Bに対する不当な解雇を世間に訴え,世論を味方につけ,今後Y社による不当な懲戒解雇を防止するためであり,労働者の地位の向上に向けられているから目的として正当である。(②充足)
(4)態様は社会通念上相当な範囲のものでなければいけない。
 本件で,甲はF支部名義の情報宣伝活動用アカウントでネット上にY社経営陣を批判している。組合のアカウントでの投稿は組合にとって重要な活動であるし,組合員,組合の表現活動として憲法21条により保護される。もっとも,インターネット上の投稿は拡散しやすく,炎上しやすい。また,一度投稿されてしまうと,ネット上から情報を消すのは難しい。従って,投稿は事実に基づく批判にとどめるべきであり,事実を誇張した過激なものは許されない。本件で,Xは批判にとどまらず,事実を誇張しY社を攻撃中傷する過激なものであった。そして,ネット上で注目を集めた結果本社に抗議の電話が殺到するなどして会社の業務に影響が生じている。
 以上をふまえると,Xの投稿行為は社会通念上相当とはいえず,態様の正当性に欠ける。
(③不充足)
(5)以上より,Xの投稿行為は組合活動として正当なものとはいえず,(ア)を満たさず,不当労働行為にあたらない。
(6)では,労契法15条に照らし本件懲戒は有効か。Y社就業規則に懲戒事由,種別は明記されており,投稿行為により就業規則59条4号,6号,7号,8号に該当する。そして,弁解の機会も与えており手続きは妥当である。Xの行為により,本社に抗議の電話が殺到したことを踏まえると,Xの非違行為は重大で懲戒解雇は社会通念上相当でないとはいえない。以上より,Xの投稿行為に基づく懲戒解雇は有効である。
                                     以上

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