令和3年司法試験刑法 再現答案(評価B、刑事系110点台)

第1 設問1について
1 甲の罪責
(1)丙を脅して腕時計を奪った行為
ア 強盗罪(236条1項)が成立するか。ナイフを突きつける行為は一般人の犯行を抑圧する程度の害悪の告知といえ,「脅迫」があったといえる。強盗罪が成立するには,強盗に基づき相手方が畏怖し財物を交付することが必要である。本件で,甲は丙と事前に共謀のもと,防犯カメラにその様子を映すためにナイフで脅しており,脅迫により畏怖した結果交付したとはいえない。したがって,強盗未遂罪(236条1項,243条)の客観的構成要件をみたす。
イ 甲は一連の強盗行為について認識している以上構成要件的故意も認められる。本件で,甲は事前に丙の承諾を得た上で前記強盗行為をしており,正当化事情の錯誤があったとして責任故意が否定されないか。
 故意責任の本質とは,反規範的態度の対する強い道義的非難である。正当化事情を基礎づける事実の認識があれば,責任故意が否定される。本件で,甲は事前に前記強盗行為について丙に承諾をうけている。これは,防犯カメラなどにその様子を映し,強盗に見せかけるための違法な目的によるものである。違法目的の承諾は,承諾として有効とならない。
 本件で,甲は違法な目的及び一連の強盗について認識しており,正当化事情を基礎づける事実の認識がある以上責任故意は否定されない。
ウ したがって,甲につき強盗未遂罪(236条1項,243条)が成立する。後述の通り,乙との共犯(60条1項)となる。
(2)罪責
 後述の通り,丙,乙との共犯が成立する。
 甲につき,強盗未遂罪,窃盗罪,業務妨害罪が成立する。強盗未遂は甲乙の,窃盗は甲乙丙の,業務妨害は甲丙の共同正犯となる。
2 丙の罪責
(1)B店から腕時計を盗んだ行為
 窃盗罪(235条)が成立するか。腕時計は「他人の財物」といえるか。
丙は,B店の副店長として帳簿作成や売上金管理等の業務を担当していたものの,商品の店外への持ち出し価格設定などについては丙に権限はなく,店長Cの承諾を必要としていた。また,丙はショーケースの鍵を所持していたといえ,腕時計の処分権限はCにある。したがって,丙は占有補助者にすぎず,腕時計の占有は,上位者であるCの占有下にあったといえ,腕時計は「他人の財物」といえる。
丙は,Cの承諾なしにCの占有を排除し,甲の本件バッグに占有を移しており「窃取」があったといえる。不法領得の意思も認められる。従って,丙につき窃盗罪(235条)が成立する。
一連の行為は,甲と共謀のもと共同実行しており,甲と共同正犯(60条)となる。
(2)B店への背任罪の成立について
 B店に対する背任罪(247条)が成立するか。丙はB店の副店長でありショーケースの鍵を所持していた。B店の財物について管理する者であり,「他人のためにその事務を処理する者」といえる。腕時計を自分のものにする目的で,ショーケースを解除し甲に腕時計を交付し窃盗に加担しており「自己の利益を図る目的で」「その任務に背く行為」をし,「本人に財産上の損害を加えた」といえ,背任罪(247条)が成立する。
(3)警備会社への通報について
業務妨害罪(233条)が成立するか。丙は,一連の行為によって通報システムを作動させている。「偽計」により警備会社の通常の「業務を妨害」したといえ,警備会社に対する業務妨害罪が成立する。甲と共謀の上,実行しており甲との共犯となる。
(4)罪責
 窃盗罪,業務妨害罪,背任罪が成立し,併合罪となる。窃盗罪は甲乙丙での,業務妨害は甲丙での共同正犯となる。
3 乙の罪責
(1)甲の窃盗行為に加担している点について
ア 甲の窃盗罪につき共同正犯が成立するか。乙は実行行為をなしていないため,共謀共同正犯の成否が問題となる。相互利用補充により犯罪を実行しており,共謀共同正犯も成立する。➀正犯性②共謀の存在③②に基づく実行行為,が要件となる。
 乙は,甲がB店で強盗をしている間,車から通行人,警察官が来ないか監視しており,犯罪遂行に欠かせない行為をしていた。盗んだ腕時計の2割を取り分として受け取っており正犯意思も認められ,➀を満たす。
 事前に,甲乙間でB店に強盗することを画しており,甲が共謀に基づき実行しており②③も満たす。 
 従って,➀~③を満たし,共謀共同正犯が成立しうる。
イ もっとも,乙は一連の強盗について,事前に丙が承諾していたことを知らず窃盗の故意はなかった。この点,強盗と窃盗は占有奪取という態様,財物という保護法益が共通しており,乙は強盗の故意があったのだから窃盗の範囲で規範に直面していたといえ,故意は認められる。
ウ また,窃盗につき乙丙間に直接の共謀はない。しかし,甲を通して乙丙間で順次共謀が成立しており,甲乙丙の共犯が成立する。
(2)罪責
 以上より,乙につき甲乙丙との窃盗罪,強盗未遂罪の共同正犯(235条,236条,60条)が成立する。
4 丁の罪責
 盗品等保管罪(256条2項)が成立するか。本件腕時計40点は丙がB店から窃取したもので「盗品」である。預かった後,丁は本件腕時計が盗品であることについて認識しているから,認識した後の保管について被害者の追求権が侵害されており,盗品等保管罪(256条2項)が成立する。

第2 設問2について
1 共犯の解消について
(1)甲丙は共謀のもと,乙の頭部を木刀でなぐり,顔面や腹部を手拳で多数回殴っている。甲が失神後は,丙のみ木刀で乙の頭部を一回なぐっている。甲の失神により,甲丙間の共謀が解消されていなければ,甲は失神後の丙の傷害についても責任を負うから,当然頭部致傷につき甲も責任を負う。そこで,共犯が解消されたか検討する。
 この点,自らが及ぼした因果的影響力の除去が認められたら,共犯関係の解消を認めると解する。
(2)本件で,甲は,丙の暴行の勢いに驚き,「落ち着け」と言い暴行を終了させようとしている。そして,丙の一方的な暴行により失神している。甲の意思によらず,一方的な暴行により甲は失神しているのだから,共犯関係は一方的に解消されたといえる。判例もこの立場に立つ。
(3)もっとも,乙への暴行はそもそも甲が乙をけしかけ,丙に持ち掛けたことが原因である。甲自ら木刀を持ち出し,気絶後丙は甲の木刀を使用して殴っている。気絶も一方的なものであり,甲は木刀を持ち帰るなど危険除去に向けた行為をしていない。以上を踏まえると,甲が及ぼした物理的影響力は残存しており,共犯関係の解消は認められない。頭部致傷の責任は当然甲に帰責される。(設問2(1)の立場)
2 同時傷害の特例について
(1)前記(2)の立場に立ち,失神による共犯関係の解消を認めた場合,207条が適用されるかで結論は異なる。
(2)本件で,丙は甲の失神後単独で木刀で殴っており,丙は頭部致傷についての責任を負う。丙が少なくとも責任を負う以上,「その傷害を生じさせた者を知ることができない」といえず207条を適用するのは適切でない。甲は頭部致傷結果について因果関係をもたない。(設問2(1)の立場)
(3)木刀による障害は,甲,丙のいずれの殴打によるものか不明であるから,「その傷害を生じさせた者を知ることができない」といえ,207条が適用される。そうすると,頭部致傷について甲は共犯と同様責任を負うことになる。(設問2(2)の立場)
                                      以上

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