令和3年司法試験民事訴訟法 再現答案(評価A、民事系180点台)

第1 設問1について
1 課題1について
(1)引換給付判決をすることができない場合,正当事由(借地借家法6条)が補完されないことになるため,請求原因事実は認められず,請求棄却判決となる。
(2)Xの申出額と格段の相違のない範囲を超えて増額した立退料の支払との引換給付判決(以下「増額給付判決」)は許されるか。「裁判所は,当事者の申し立てていない事項については判決をすることはできない」(246条)ため,問題となる。246条は処分権主義を規定したものである。処分権主義とは,訴訟の開始,訴訟物の選択,訴訟の終了を当事者の意思に委ねる権能をいう。私的自治の原則を訴訟上にも反映したものである。そして,➀原告の合理的意思に反さず②相手方の不意打ちにならない場合処分権主義違反となる。
(3)増額給付判決と請求棄却判決を比較する。
請求棄却判決の場合,基準時の収去土地明渡請求権の不存在について既判力が生じる。しかし,基準時後に生じた新たな事由により正当事由を補完すれば請求は既判力により遮断されないし,所有権に基づく土地明渡請求も遮断されない。
 増額給付判決がなされた場合,収去土地明渡請求権の存在について既判力が生じる。しかし,立退料の支払いは収去土地明渡しの強制執行の要件となる。(民事執行法22条 )立退料の支払いと明渡しは同時履行の関係となり,高額な立退料が支払われるまでYは明渡しを拒むことができるから立退料の支払いをしない限りいつまでたっても強制執行をすることができない。結局,高額な立退料の支払いをXに強制させており,Xへの不利益が大きい。
(4)Yは1000万以上の立退料を求めており,Yへの不意打ちとはならない。(②不充足)しかし,(3)で述べた通り増額給付判決の不利益の大きさを踏まえれば請求棄却判決をする方がXにとって不利益が小さい。不利益の大きい増額給付判決をすることはXの合理的意思に反するため(➀不充足)処分権主義に反することとなり,引換給付判決をすることは許されない。
2 課題2について
(1)Xの申出額よりも少額の立退料の支払いの引換給付判決をすることは処分権主義に反しないか。1(1)の➀②の基準に照らして判断する。
(2)口頭弁論調書によるとXは「1000万円という額にこだわりはなく,早期解決の目がなくなった以上より少ない額が適切である」と述べているため,Xはできるだけ少額の立退料を求めていたといえ,Xの合理的意思に反さない。(➀充足)
 Yは,口頭弁論期日で,1000万円の立退料では本件レストランの収入喪失まで補償するには全く不十分であると述べている。そして,Jの釈明に対し,Xは「立退料はより少ない額が適切と思っているが,本件土地を明渡してもらうのが一番大事です」と述べている。Yとしては,Xは本件土地の明渡しを第一に求めており,少なくとも1000万円の立退料が支払われることについての期待があったといえる。そうすると,1000万円より少ない額の立退料の支払いの引換給付判決をすることはYに対する不意打ちとなるため(②不充足)処分権主義に反し許されない。

第2 設問2について
1 訴訟承継制度は,実体関係に変化があった場合に訴訟を引き継がせることで訴訟上の便宜を図り,権利救済を図り,紛争解決を資するための制度である。また,訴訟資料を引き継がせることで訴訟経済に資するようになる。
2 そこで,「承継」とは,紛争の主体たる地位の移転があったことをいう。
3 本件で,訴訟物はXY間の賃貸借契約終了に基づく建物収去土地明渡請求権である。ZはXと契約関係にはないため訴訟の目的である義務すなわち賃貸借契約終了に基づく建物収去土地明渡義務を負うことはない。しかし,現在本件建物に住み,土地を占有しているのはZであり,Xとしては本件土地の引渡しを求めている。結局,土地を引き渡すという義務は負うことになる 。
 よって,Zは訴訟の目的である土地明渡義務義務を負うようになったといえ,紛争の主体たる地位の移転があったといえる。Zへの「承継」は認められる。

第3 設問3について
1 課題1について
(1)本件新主張は時機に遅れたものとして却下されるか。(157条1項)➀当事者が故意又は重大な過失により時機に送れた提出したこと②訴訟の完結を遅延させることとなる場合,却下が認められる。Xは却下決定を得るために裁判所に却下を申し立てることができる 。
(2)却下が認められるか。
 ア 最終期日指定後,Zの委任したLが改めて調査をしたことにより本件通帳に1500万円の振りこみの旨の記載が見つかっている。そして,Lの調査により1500万円は更新料の前払いの性質を含むものであると思い,新主張をしている。指定後に,新主張の前提となる事実が発見してしたのだから,新主張が最終期日前の遅れた時期となったことについて,
Yに故意は認められない。
 もっとも,Yは攻撃防御につき適宜提出義務を負う。(156条)Yは,BからAへの振込みを把握していた。それなのに,本件通帳,1500万円の振込についてLが発見するまで何ら調査することをしていない。Yは,弁護士等を雇い,1500万円の振込みについて調査をすることは容易であったはずであるのに,Yの怠惰によって本件主張が遅れている。本件主張は適宜提出義務に反する。上述の通り,本件通帳,振込について調査することは容易であったのに調査を怠り適宜提出をしなかった点に重大な過失があるといえる。(➀充足 )
イ ②要件について検討する。
 本件新主張は,更新料の前払いの性質の金銭1500万円がAに支払われていたというものである。本件訴訟は,Xは本件賃貸借契約の更新拒絶を主張しており,Xの更新拒絶に正当事由あるかが争点となっている。そして,事前に1500万円の更新料が支払われていたという事実は,更新拒絶に正当事由がないと評価される評価根拠事実となるため重要な事実である。
Yは,本件通帳についての書証の申出,Aの証人尋問の申し出をする。書証については裁判所が即座に認めたとしても,Aがすぐに出廷できる状況であるかは不明であり,長時間かかる可能性がある。
Xは,Yの新主張に対する防御として,新たにA,Yへの証人尋問,1500万円の金銭の性質についての調査をする必要が生じる。金銭の性質についても,新たに弁護士等の見解を仰ぐ必要があり,長時間かかる可能性がある。
以上を踏まえると,訴訟の完結を遅延させることとなる場合といえる。(②充足)
(3)以上より,➀②を満たし,157条により却下が認められるべきである。
2 課題2について
(1)Xの主張 
 訴訟承継人は,従前の訴訟状態をそのまま引き継ぐ義務がある。従って,訴訟承継人Zは,従前のXY間の訴訟状態を引き継ぐため,本件新主張が時機に遅れた主張でるという状態も引き継がれる。よって,Zによる新主張も157条により却下されるべきである。
(2)Zの反論
 承継人は訴訟状態引継義務を負うのが原則であるが,前主による訴訟の手続的保障が代替されていない場合など特段の事情があれば,例外的に訴訟状態は引き継がれないと解する。 
 この点,本件でZは自らが弁護士を雇い本件新主張をするに至っており,Yは何ら1500万円の振込についての調査をしていない。よって手続がYによって代替されていたとはいえず,特段の事情はあるとして訴訟状態は引き継がれない 。
                                     以上

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