令和3年司法試験 刑事訴訟法(評価A、刑事系110点台)

第1 設問1について
1 差押え➀について
(1)差押え➀は,捜索差押許可状に基づく差押えとして適法か。差押えは,(ア)令状記載の物件で(218条1項,219条1項)(イ)被疑事実と関連性があること(99条1項,222条1項前段),が要件となる。 
(2)丁の名刺は「名刺」として令状記載の物件である。(ア充足)
(3)要件(イ)については,直接証拠に限られず,間接証拠であっても関連性を有する。本件住居侵入強盗は甲が実行犯としてVへの強盗しており,甲は犯行について自白している。
そして,甲の供述によると,一連の強盗は乙の指示で行ったもので,乙の背後に指定暴力団丙組がおり,乙はその幹部に犯行で得た金の一部を貢いでいたという。甲の供述は細部にわたり犯罪者しか知りえないような情報で具体的であり,アジトの場所についても実際にAビル21号室にパソコンやプリンター等があったことを踏まえれば,甲の供述の信用性は高い。 
 従って,乙の背後に丙組がいるという情報の信用性は高い。名刺は「丙組若頭丁」と記載されており,甲の供述する丙組幹部とは丁のことだと推認される。そして,乙の部屋に丁の名刺があったという事実は,乙の背後に丙がいたという事実を推認させる 。
 乙の背後に丙がいたという事実は本件被疑事実を直接推認はしない。しかし,本件被疑事実に誰が関与したかという背景事情を知る上で,丙の関与は重要な事実となるから本件名刺は背景事実を推認させる証拠として本件被疑事実と関連性を有する。(イ充足)
(4)以上より,(ア)(イ)を満たし差押え➀は適法である。
2 差押え②について
(1)捜索差押許可状に基づく差押えとして有効か。上記(ア)(イ)の基準に照らし検討する。
(2)USBメモリ2本は「電磁的記録媒体」にあたり,(ア)を満たす。
(3)本件で,PらはUSBメモリの内容を確認することなく差押えている。このような包括的差押えは許されるのか。
 この点,令状(219条1項)の趣旨は,裁判所が事前に差し押さえの正当事由の有無について判断し不当な人権侵害を防止するためであることを鑑みると,関連性の確認をせずにする包括的差押えは許されないのが原則である。
 もっとも,捜査の実効性の確保のため,(あ)被疑事実と関連性がある証拠存在の蓋然性が高く,(い)その場で関連性を確認することが不可能な場合は例外的に包括的差押えが許されると解する。 
(4)本件で,甲は乙宅のUSBメモリ内には強盗のターゲットとなる人の氏名と電話番号の入った名簿データが保存されていると述べている。1で述べた通り,甲の供述の信用性は高く,本件USB2本のいずれかが甲の供述通りのデータが保存されている可能性が高い。強盗ターゲットの名簿データは,Vの名簿も含まれ,これを乙がもっていたという事実により本件住居侵入強盗事件に乙が関与していたことを立証できるため,直接証拠となる。よって,USBメモリは本件被疑事件と関連性が認められ,また,名簿データが保存されている蓋然性が高く(あ)を満たす。
(5)甲の供述によると,USB メモリには8桁のパスワードがかけられており,一度でも間違えると初期化するようになっていたという。(4)で述べた通り,甲の供述の信用性は高い。そして,乙は,差押えの際,パスワードは「2222」であるからこの場で確認してくださいと述べている。甲の供述によるとパスワードは8桁であるはずなのに,乙の伝えたパスワードが4桁であることを踏まえると,乙はPらに誤ったパスワードを入力させ,データを初期化させつことで証拠隠滅を図ろうとしたおそれが高い。乙が本当のパスワードをPらに教える可能性も低い 。
 以上を踏まえると,USBメモリの内容を開き,関連性の有無を確認することは不可能であったといえ,(い)を満たす。
(6)以上より,(あ)(い)を満たす。(ア充足)
 よって,アイを満たし,本件差押え②は適法である。

第2 設問2について
1 本件メモ1の証拠能力
(1)本件メモ1について乙の弁護人は不同意(326条1項)である。本件メモ1は乙が作成したメモであり,「公判期日における供述に代え」た「書面」といえ,証拠能力が否定されるか問題となる。(320条1項 )
 供述証拠は,知覚記憶叙述の各過程に誤りが生じやすく,供述態様の観察や反対尋問の実施による信用性のテストを経ることができない。そこで,要証事実との関係で供述内容の真実性を証明するために用いるときは伝聞証拠として証拠能力が認められない。
(2)本件メモ1の立証趣旨は,甲乙間の共謀である。
 メモには,Vの名前,住所,生年月日,一人暮らしであること,タンス預金500万円,台所の食器棚,などと,VがS銀行の職員と称する者との電話で話したことが書かれていた。そこで,Vが電話で話した相手方が,Vの話の内容をその場で聞き取ったことをメモしたものだと推認できる。
 さらに,メモ下部には「催涙スプレー,ロープ,ガムテープ,後ろ手」と記載されていた。本件住居侵入強盗事件では,Vの家に押し入り,催涙スプレーを吹き付け,ガムテープでVの身体を後ろ手に緊縛して現金500万円を強奪している。
 本件メモ1は乙の部屋にあり,乙作成のものであったのに関わらず,甲の行った犯行態様とメモ内容の犯行内容が一致している。甲の行った強盗手段は一般的なものとはいえず,この一致は,経験則偶然の一致とは思えず,このメモを見た甲が本件強盗を行ったことが推認される。よって,本件メモ1を介して甲乙間でVへの強盗の意思連絡があったことを推認できる。以上より,本件メモ1の要証事実はメモ1の存在及び内容であり,メモの記載内容の真実性は問題とならない。よって非伝聞証拠である 。
 また,本件メモ1の自然的関連性も認められる。
 以上より,本件メモ1は証拠能力を有する。
2 本件メモ2の証拠能力
(1)本件メモ2について不同意(326条1項)であるから,伝聞証拠にあたるか問題となる。伝聞証拠に当たるか否かは,1(1)で述べた通り,要証事実との関係で決する。
 本件メモ2は甲作成のもので,検察官の立証趣旨は甲乙間の共謀である。メモ2の内容は「乙から指示されたこと」と書かれ,Vの住所や500万円の場所,甲が行った強盗手段を推認させる内容の記載がある。もっとも,メモは甲が作成したものであるし,メモの存在自体から甲乙の共謀を推認することはできない。
 そこで,共謀の立証には,乙からメモ下部に記載の内容を本当に指示されたかどうかが問題となり,内容の真実性が問題となるため,本件メモ2は伝聞証拠にあたる。
(2)では,伝聞例外として証拠能力は認められるか。甲と乙は共謀に基づく強盗の共同被告人である。もっとも,共同被告人であっても乙は甲に対し反対尋問が可能であり,伝聞例外該当性は322条ではなく321条に基づき検討する。
(3)本件メモ2は甲の作成したメモで「被告人以外の作成した供述書」にあたり,員面書面であるから321条1項3号に該当するか検討する。
ア 本件で,甲の証人尋問は遮へい措置を講じて実施されており,甲は乙や傍聴人からの目線に耐える必要はない。それにも関わらず,甲は本件メモ2について「今後も絶対に証言することはありません」と述べ,一切の証言を拒絶している。捜査段階,自己の公判を通じても拒否している。以上を踏まえると,今後の公判においても甲が証言をする可能性が低い。よって,「公判準備又は公判期日において供述することができ」ない場合にあたる。 
イ 甲は自己が住居侵入強盗を実行したことについては証言するものの,メモ2,乙との共謀については一切証言していない。強盗事件の乙の関与を推認させる証拠は本件メモ2以外にはなく,本件メモ2が乙の犯罪の関与の「証明に欠くことができないもの」といえる。
ウ 「供述が特に信用すべき情況の下でなされたものである」かは,外部的付随事情から判断する 。
 本件で,メモ2は甲の机の施錠された引き出し内にあった甲使用の手帳の令和2年8月4日のページに挟んであったという。甲は,施錠されていた机の中身を他人に見られることを想定していたとは思えない。手帳は通常自己使用のために使われるものあるから,甲は誰かに見られることを想定しなかったといえる。令和2年8月4日は事件のあった日であり,甲が8月4日に,ページを開き,メモをはさんだものと推認でき,恣意的にその日に挟んだと思われる事情はない。
 以上をふまえれば,本件メモ2は特信性が認められる。
エ よって,本件メモ2は321条1項3号を満たし,伝聞例外として証拠能力が認められる。
                                以上

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