令和3年司法試験会社法 再現答案(評価A、民事系180点台)

第1 設問1について
1 本件保証契約の332条4項2号該当性 
 本件保証契約が「多額な借財」(332条4項2号)にあたれば取締役会決議が必要なところ,本件では決議を経ていない。そこで,「多額な借財」にあたるか問題となる 。
(1)「多額な借財」かは,総資産に占める割合,純資産に占める割合,借財の価格,借財の目的等を総合考慮した上で,会社への影響が大きく取締役会の慎重な決議を必要とするか判断する。
 本件で,甲社の総資産額は10億円とはいえ負債額は2億円もある。1年間の経常利益は2000万円であり,5000万円の借入は1年間の経常利益では賄えない額である。借入はAが個人でレストランを開業するためであり,和食器の製造販売をする甲社の業務ではない上,甲社取締役会で一度反対された企画である。以上を踏まえると「多額」な借財といえる。
 また,上記の通り,Aは以前に一度レストラン開業につき取締役会で採算の見込みがないとして反対されている。Aは5000万円の開業資金を出すことができず,採算の見込みがうすいことをふまえると,5000万円がAから弁済される可能性は低く,本件保証契約は実質的に甲社への「借財」となる。
 以上より,本件保証契約は「多額な借財」にあたり取締役会の決議が必要となる。
2 内部的瑕疵について
(1)取締役会の決議が欠けているものの,甲社代表取締役Aが保証契約を締結している。代表取締役は株式会社の業務に関する一切の行為をする権限を有する(349条4項)から,取締役会決議が欠けたことは内部的瑕疵にすぎず,本件Aのした保証契約は原則有効となる。
 もっとも,内部的瑕疵がある点で内部的意思に欠ける意思表示と似ている。そこで民法93条1項但書を類推適用し,取引の相手方が取締役会決議の瑕疵について悪意,または有過失のときは取引の無効を主張できると解する。
(2)B は事実1に該当する甲社の財務状況の概要をAに確認しており,「多額の借財」にあたることを認識していた。(事実3)そして,取締役会の議事録を要求しており,Aは取締役会の決議がなかったのにも冠者割らずあったとする虚偽の内容の本件確認書を渡し,Bは取締役会決議があったと信じたのだから,なかったことについて悪意であったとはいえない。
 また,Aは「議事録は金融機関以外の第三者に見せたことはない」と虚偽の説明をして,A自らが本件保証契約を締結している。本件確認書も何ら不審な点もなかったことをふまえると,Bにこれ以上の調査確認義務は認めれず,取締役会決議があったと信じたことにつき過失があったとはいえない。
 以上より,民法93条1項を類推適用することはできず,本件保証契約は有効となる。
3 従って,甲社は乙社からの保証契約に基づく履行請求を拒むことはできない。

第2 設問2について
1 まず,本件株式の登記簿上の株主はAであるものの株式名簿への記載は会社に対する対抗要件(130条1項)となるものの,AC間で主張はできない。
では,ACいずれが本件株式の株主といえるか。民法の規定に照らし,株式の対価を実質的に出損 した者はだれか,株主としての権利を行使しているのは誰かを考慮し検討する。
2 株式取得時の行為
 株式取得に関してはCの指示に基づき甲社の総務部が進め,Aの記名押印も総務部が行っている。また,払込金額2000万円はCの貯金によって支払われており,Aは何らの関与もしていない。以上を踏まえると,株式の対価を支払ったのはAでhがなくCであるから本件株式を取得した実質的株主はCといえる。
3 取得後の行為
 本件株式にかかる剰余金配当は,C名義の株主にかかる分と合わせてC名義の銀行に振り込まれていた。
 そして,株主総会の招集通知はCの指示により甲社の総務部に留め置かれ,C名義の株式にかかる議決権と併せて会社提案に賛成するものとして事務処理がされていたというから,本件株式はC名義の株式と同様の扱いがされていたといえる。そして,Cが取締役を退任した後も同様な事務処理がされていたという。
 剰余金配当(453条),株主総会での議決権行使(295条1項)は株主の権利のうち最も重要な権利の一つである。こうした権利を行使したのはCであったといえる。
4 結論
 以上を踏まえると,株式取得時も,取得後も本件株式の実質的株主はCであるといえる。

第3 設問3について 
1 弁護士Gに議決権を行使させなかったことについて 
(1)定款の有効性
甲社定款では,代理による議決権行使を株主に限る定めがある。この定款は310条1項に反さないか。
 310条1項は,株主の議決権行使の機会を保障したものであるが,総会屋などによって株主総会がかく乱されるおそれもあるため,合理的かつ相当な定めなら許されると解する。
 本件で,株主総会の代理人による行使を株主に限る規定は,かく乱のおそれを防止する点で実効性があり,相当な規定だといえ,有効である。
(2)Gを行使させないことについて
 もっとも,株主以外の者に議決権を行使させることが直ちに定款に違反するとはいえない 。310条1項が,株主の議決権行使の機会をできるだけ保障している趣旨に照らし,かく乱のおそれがない代理人による議決権の行使は定款違反とならないと解する。
 本件で,Gは甲社の株主ではない。Dは,親子のAとCがもめていることを知り,Aの祖母かつCの母親であるDが一方に肩入れするのを避けたいと思っていた。そして,AとCとも面識がなく,中立的な立場から議決権の行使をすることを期待して弁護士Gに委任している。Gの立場を考えると,中立的な立場から議決権を行使すると考えられ,Gの行使により株主総会さく乱のおそれはない。
 それなのに,Gの議決権行使を許さないことで,Dの議決権行使の機会を奪っており,310条1項に反しており許されない。
(3)以上より,株主総会の「決議の方法が法令」に「違反」しており,831条1項1号の決議取消事由となる。
 Dの株式は20万株であり,瑕疵は大きいため裁量棄却は認められない。(831条2項)
2  Fによる投票を有効としたことについて
(1)丙社の内規によると,帳簿価格の1%未満の保有株式の議決権行使については総務担当の代表取締役専務に委ねられていたという。丙社の甲社の総資産に占める割合は0.1%であり,1%未満であるため丙社内規によると議決権行使は専務に委ねられることになる。そして,専務Eは一切の事項について甲社代表取締役に委任する包括委任条用紙に記載し,甲社に送っているから,本件修正議案についてもAに委ねているといえる。
(2)一方,丙社の副社長代表取締役Fは代表取締役として一切権利義務を有する。(349条4項)従って丙社の株主としての議決権行使の権限も有するといえ,Fが丙社の代表として議決権の行使をすることは許される。
(3)では,丙社の議決権行使として,事前のEによる行使と,Fにより議決権行使のいずれを有効とすべきか。この点,Fの行使の方がEによる事前の行使よりも新しい。そして,Fは実際に株主総会に出席しており,修正議案についての議決権を行使していることを踏まえると,Fによる株主権の行使を株主の意思が反映されたものとして有効とすべきである。
 また ,丙社の内規に違反しているとはいえ,内部的瑕疵にとどまり,内規違反についてA
及びCは知らなかったというから対外的にはFが丙社を代表して議決権行使したことは有効である。(民法93条1項)
 以上より,Fによる行使の方を丙社の議決権の行使として有効としたことに瑕疵はない。
(4)もっとも,FはCの頼みにより株主総会に出席し一連の投票をしているのだからFとCは実質的に同視できる。修正議案はCの取締役の選任についてであり,Cは特別利害関係人である。よって831条1項3号の決議取消事由となる 。
                                     以上

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