令和3年司法試験民法 再現答案(評価A、民事系180点台)

第1 設問1について
1 アについて
 アの主張は,Dが即時取得により所有権を取得したという主張である。即時取得(192条)が成立するか。
 Dは借入金債務の弁済に代えて,Bから甲を譲り受けている。代物弁済という「取引行為」により「平穏」かつ「公然」と占有を始めている。Bは甲を中古業者から買い受けたという虚偽の説明をしておりDは信じていた。よって,Bが無権利者であることにつき「善意」であったといえる。また,甲に所有者を示すプレート等はなく,他に不審な点もなかったというから,Dは信じたことにつき「過失がなかった」といえる。以上より即時取得が成立し,アの主張は成立する。
2 イについて
 イの主張は,指図における占有移転に即時取得は成立しないとの主張である。主張は成立するか。
 本件で,甲の賃借人Cが代理占有しており,Cに以後Dのための占有を命じ,Dがこれを「承諾」することでDが占有を始めている。(184条)即時取得制度は,占有に公信力を与え,これを信じた第三者を保護することにある。よって,占有の外形に変化があれば即時取得を認めるべきである。指図による占有移転の場合,代理占有者への命令が必要で,外形に変化があるから即時取得は認められる。
 従って,本件イの主張は成り立たない。
3 ウについて
 甲は盗品であるとしてAはCに対し193条に基づき甲の返還請求ができるという主張である。認められるか。
 甲は「盗品」であり,Dに即時取得が成立している。甲が盗まれたのは令和2年4月10日で,現在2年10月15日であり2年以内である。Aは「被害者」である。現在甲を「占有」しているのはCである。したがって,Aは193条に基づき甲の返還請求をすることが可能であり,請求は認められる。
4 請求1,請求2の可否について
(1)前述の通り,請求1についての請求は認められる。
(2)請求2は認められるか。
 Cは甲が盗品であることを知らず,Bとの契約に基づき甲を占有していたため,「善意」の占有者である。そして,使用利益は「果実」と同視するから,Cは甲の果実を取得できるため使用料相当額返還請求は認められない。(189条2項)

第2 設問2について
1 (1)について
 AE間の契約は,令和3年6月から10月までの5か月間,Aの事務所にて口座を開設し,週4回授業を行うという仕事の提供が契約内容となっている。従って,請負契約(632条)が締結されたといえる。
2 (2)について
ア 請求3について
 Eは契約に基づき8月に週4回講義をしており,仕事の提供をしている。従って,60万円の報酬支払請求は認められる。
イ 請求4について
 事実11で支出した40万円についての請求は認められるか。この点,請負契約の債務の履行において要した費用を請求できる規定は委任契約とは異なり(659条1項)存在しない。従って,40万円の支払いを求めることはできない。
残りの80万円の損害賠償請求は認められるか。Eの出す課題の量は膨大で,AはEに対し善処を求めたがEは応じず,AはEに「このままでは8月に講座を取りやめる」旨を伝えている。そして契約解除は有効に行われている。よってEは不法行為(701条)に基づく損害賠償請求をする。AE間の契約では10月までの講座が契約内容となっていたのに関わらず「故意」に解除をしたことでEに80万円の「損害」を与えている。従って,不法行為に基づく損害賠償請求は認められる。
 もっとも,Eは契約解除により他の出張講座を行えるようになり15万円の利益を得ているから中間利息として控除される。(722条1項)

第3 設問3について
1 (1)について
(1)Hは契約③の保証契約に基づき500万円の請求をする。(446条1項)Fは,Aが100万円の売買代金支払債務を有しており相殺権を有するとして,100万円の支払いを拒むことができるか。(457条3項)
(2)そこで,Aが相殺権を有しているか検討する。100万円の売買代金債務の弁済期は4年8月31日であり,Aは弁済期を認識して令和4年4月31日に「権利を行使することができることを知った」といえ,令和9年8月31日の経過により消滅時効が完成する。(166条1項1号)よって,令和15年5月11日の時点では100万円の債権は消滅している。
(3)もっとも,時効によって消滅した債権が消滅以前に相殺に適するようになっていた場合には相殺をすることができる。(508条) 
契約②は,令和4年4月1日に弁済期を令和10年4月1日とすることを内容として締結されている。消滅時効が完成した時点では未だ弁済期前であるから,令和9年8月31日までに相殺適状していたとはいえないように思える。しかし,弁済期についての期限の利益を有するAは期限の利益を放棄し弁済期を到来させることができる。というのも,Aが期限の利益を放棄しても債権者Hにとって何ら不利益はないからである。
Aが令和9年8月31日以前に期限の利益を放棄した場合,100万円の売買代金債権と契約②に基づく支払債権は相殺適状となる。(505条1項)Aは期限の利益が可能であった以上,「債権が消滅以前に相殺に適するようになっていた場合」(508条)といえるから,Aは相殺権を有している。
(4)以上より,547条3項に基づきFは100万円の限りで支払いを拒むことができる。
2(2)について
(1)Aへの求償
ア まず,FH間の債務免除は相対効であるから(441条,458条)HがFに対してなした免除はA,Gには影響を及ぼさない。
 いくら求償できるか。FはAに知らせないまま本件債務の連帯保証をしており,「委託を受けない保証人」である。(461条1項)もっとも,Aの意思に反して保証をしたという事情はないため462条2項は適用されず,Fは「主たる債務者がその当時利益を受けた限度において」求償権を有する。(459条の2第1項)
イ 本件債権は令和10年4月1日が弁済期であるから,令和15年4月1日に時効が完成し,Fが支払った同年5月11日の時点で債権は消滅していないか。(166条1項1号)Aは,令和10年6月20日に本件債務猶予を求める書面を送付しており「債務の承認」(152条1項)をしているから,時効は更新されており令和15年6月20日の経過まで完成しない。従って,Fが弁済した時点で未だ債務は存在しているから,Fの弁済によりAは300万円の債務消滅という利益を受けたといえる。
ウ 以上より,FはAに対し,300万円の求償をすることができる。
(2)Gへの求償
 連帯保証人に対しては「自己の負担部分を超える額を弁済したとき」にしか求償できない。(465条1項)本件で負担割合の合意はなく,Fは自己の負担部分を超える額を弁済したとはいえないからGへの求償はできない。
                                      以上

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