令和3年司法試験再現答案 憲法(評価A、公法系97点台)

第1 規制➀の適合性について
1 規制➀は,匿名表現の自由を侵害し,憲法21条に反しないか。
 デモ行進は動く集会として,憲法21条1項の表現の自由として保護される。顔を隠してデモ行進をすることは匿名表現である。匿名での表現により,表現活動をしていることは周りからばれにくいため表現行為をしやすくなる。そして,匿名表現を禁止することは,匿名であるがゆえに表現行為をしていた人に対しての表現萎縮効果がある。よって匿名表現の自由は表現の自由として憲法21条によって保障される。 
2 法律案第3の1項は,顔面を覆う行為を禁止しており,規定に違反した場合10万円の過料に処せられることになる点で匿名表現の自由を侵害しているといえる。
3 規制は正当化されるか。
 法律案第3の1項は,顔を隠して集団行進に参加することを全面的に禁止しており,過料も課される点で規制態様は強い。そして,デモ行進は政治的主張を掲げるもので,デモ行進を通して政治的意思決定に関与するという点で表現の自由として要保護性が高い。
もっとも,各団体は顔を隠すこと自体に特定のメッセージを込めていなかったというから,本件規制は表現方法のもたらす害悪性に着目した表現中立規制である。 さらに,デモ行進自体を禁止しているわけでなく,顔を出してデモ行進をすることは可能である。以上を踏まえると,規制が正当化されるかは(ア)目的が重要で(イ)手段と目的の間に実質的関連性があるかどうかで判断する。
4 規制➀は集団行進における公共の安全を害する行為を抑止することを目的としている。(法律案1条)
本件で,デモの際に顔を隠した参加者の一部が商店のショーウィンドウを破壊する,ごみ箱を放火するなど暴力的な行為を行い,さらに警察官を負傷させ数十名が逮捕される事態となっている。現在人々の身体,財産に被害が生じていることをふまえると,早急に公共の安全を害する行為を抑止する必要があり,目的は重要だといえる。(ア充足)
5 目的達成の手段として実効性はあるか。覆面や仮面によって誰がやっているか分からないという錯覚が生じ,普段はしないような行動に走る面がある。そして,覆面の参加者の一部が上記暴行をしている。逮捕者の半数は専ら暴力的な行為を目的としてデモに参加した者であったことを踏まえると,顔を隠したデモを禁止することで普段はしないような暴行を防ぐこともできるし,専ら暴力的な行為を目的とするもののデモ参加を防ぐことにつながる。よって,目的達成の実効性はある。
 現在,被害が生じていることをふまえると覆面や仮面デモを禁止する必要性もある。
 覆面でデモに参加している者の中には就活や職場のことを気にせずデモに参加できるという理由により参加している者もいたという。しかし,団体はデモ行進の様子をSNSに通して配信していたから顔を映される危険があるのであり,顔を映されたくない者は団体に事前に知らせて顔を映さないようにすればよい。さらに,名前などの個人情報は求めておらず,目的達成のために最小限の顔を隠す行為を禁止するにとどまっている。
 また信仰上,感染症対策によるマスクは「正当な理由」にあたるとして顔を隠すことを 許している。以上を踏まえると,本件規制は相当性が認められる。
 以上より,本件規制➀は目的との実質的関連性が認められる。(イ充足)
6 従って,本件規制➀は憲法21条1項に違反しないため,合憲である。

第2 規制②について
1 規制②は,団体及び団体員の表現の自由を害し,憲法21条に反しないか。 
 (1)まず,団体及び団体員は,自己のSNSのアカウントで表現行為をする自由を有する。(憲法21条)本件規制②は,団体名義で利用している機関紙,SNSのアカウントについて1か月ごとにA2庁長官への報告を義務付けており,報告をしないと50万円以下の過料をかしている。機関紙,SNS,ウェブサイトが常に監視されることになり,アカウント主の表現への萎縮効果を生じさせる点で,表現の自由を侵害しているといえる。 
(2)また,機関紙,SNS,ウェブサイトが常に団体,団体員のSNS等を監視することになる。監視は,団体に対するデモ活動への萎縮効果がある。団体の自由にデモをするという行動の自由が制限されており,結社の自由ひいては表現の自由を侵害しているといえる。 
2 規制は正当化されうるか。
 法律案第4第1号は,第2第3号の規定する「公共の安全を害する行為を行っていると認められる団体」に対し,観察処分を行えることを定める。観察処分を受けた場合,団体の代表者は1か月という短期間ごとにA2庁長官にアカウントを報告しなければならない。違反すると50万円以下という高額な過料が科されることになる。また,団体のアカウントを教えることで常に監視されることとなる。以上より規制態様は強い。そして,デモを通じて政治的意思決定に関与する点でデモによる表現の自由は要保護性が高く,重要な権利である。 
 もっとも,監視されるアカウントは誰もが見ることのできるウェブサイト等に限られ,報告がなくても第三者がみられるものである。そして,表現活動そのものではなく,監視を通してデモ行為への萎縮効果を生じさせるもので間接的規制である。
 以上より,規制が正当化されうるかは中間審査によるべきで(ア)目的が重要か(イ)目的と手段の間に実質的関連性があるか,で判断する。
4 目的は,公共の安全を害する行為を助長する団体の活動状況を明らかにするため必要な措置を定め,公共の安全の確保に寄与することである。(法律案1条)
 第1の4で述べた通り現在覆面デモで暴力的な行為,事件が多発しており人々の生命,身体,財産権が侵害されていることをふまえると,団体の活動状況を明らかにする措置を定め,公共の安全の確保に寄与することは重要である。(ア充足)
5 規制対象となる団体は,過去5年間に公共の安全を害する行為を行い,委員会規則で定める基準を超える団体(法律案第2の3)に限定している。処罰された構成員が全体の10%以上であることは,団体が今後もデモで暴行等を行うおそれがあるといえ,基準は妥当である。
 また,1か月という短期間でのアカウントの報告を義務づけている。デモ団体はSNSを通じてデモ参加者を募っており,監視をすることをふまえるとアカウントをデモごとに変えて参加者を募る可能性が十分認められる。よって,1か月という短期間での報告は必要であり,手段として相当である。 
また,過料は50万円以と過大すぎず実効性確保の手段として相当の範囲内である。以上より,目的との実質的関連性が認められ,適法である。
以上

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