令和3年司法試験再現答案 行政法(評価D、公法系97点台)

第1 設問1(1)について
1 本件不選定決定は「処分」といえるか。(行訴法3条2項)処分性とは,公権力の主体たる国または公共団体が行う行為のうち,その行為によって,国民の権利義務を形成しまたはその範囲を画定することが法律上認められているものをいう 。
2 不選定決定はA市基本条例(以下「A市条例」)26条1項に基づき,A市市長が行う,Bを本件区画の屋台営業候補者に選定しないという決定である。「公権力の主体たる」「公共団体が行う行為」で,「法律上認められているもの」といえる。
3 国民の権利義務への法効果性は認められるか。
 市道占有許可を受けるためには,道路法33条1項に規定する場合で,条例9条の基準に適合しなければならない。(A市条例9条)
 道路法33条1項は「いずれかに~の許可を与えることができる」と規定している。その土地ごとに占有許可を認めるべきかは専門的知見が必要となるため,道路管理者,すなわり市長に占有許可をするかどうかの効果裁量を認めている,といえる。
 A市条例9条は占有許可をする際の裁量基準である。裁量基準を示すことで判断過程の公正を確保する。基準の適用について,信頼した第三者の保護,平等の原則から,特段の事情のない限り,裁量基準に沿った裁量権の行使をしなければ裁量権の逸脱濫用にあたりうる。よって,原則として裁量基準に拘束される 。
 本件で,A市条例9条によると,市道占有許可を得るには,申請者が(2)アまたはイに該当している必要がある。Bは現営業者の配偶者,直系血族でないため9条(2)アに該当しない。そこで,占有許可を得るためには9条(2)イに該当する必要があり,Bは条例25条1項に規定する屋台営業候補者に該当しなければならない。不選定決定は,9条(2)イに該当しないとするものであるから,Bは市道占有許可を受けることができないという地位に立たされることになる。
 以上より,Bへの法効果性は認められる。
4 以上より,処分性が認められる。

第2 設問1(2)について
1 取消しの訴えの利益(行訴法9条1項)は認められるか。
 市長は,条例26条に基づきCを本件区画の候補者に選定して いる。Cが本件区画の候補者に決まったとしても,上述の通り,市長がCに道路法33条に基づく占有許可をするかはCの裁量にゆだねられる。よって,Cは候補者であるものの,本件区画の占有許可を受けるかは未だ不明である。
 Bは候補者に選定されていないものの,Cが未だ占有許可を受けていない以上,Cの候補者決定を取消し,Bが候補者となり占有許可を受けることはいまだ可能である。
 よって,いまだBの訴えの利益は失われておらず,訴えの利益を有する。

第3 設問2について
1 他人名義営業者の地位への配慮 
市長は,他人名義営業者への地位への配慮について条例施行日から6ヵ月の他人名義営業は暫定的に認めるものの,その後の営業は認めておらず,市道占有許可の期間の範囲内にとどまらせている。
 A市では,占有許可が売買の対象となっていたことや,営業者の頻繁な交代により屋台をめぐる問題解決に向けた話し合いが難しくなったという事情があり,条例が制定されている。その一方,屋台営業はA市の個性として貴重な観光資源で,防犯効果ももたらしているという事情があった。
 Bは,他人名義営業をしていた。しかし,本件区画で10年以上屋台営業を行ってきたもので,これまでA市とのトラブルはなく,屋台営業をする者としてA市の観光産業に貢献していたことをふまえると他人名義営業は悪質とはいえない。このようなBを本件条例の施行により新たに候補者への申請,選定,占有許可を必要とさせることは制定経緯に照らし妥当でない。
 以上より,Bへの地位に対する配慮に欠けるといえる。
2 屋台営業の実績を考慮して審査を行うという委員会の申合せの合理性 
(1)本件指針19条第1号から4号までの各号の審査に25点ずつ配点する際,A市との間でトラブルのなかった他人名義営業者は今後A市への屋台政策への確実な貢献が期待できるとして5点を与えるという運用をしているが合理的といえるか。
(2)これまでトラブルのなかった他人名義営業者は,これまで安全で,良好な公衆衛生を確保してきたことが推認されるから,今後もこれらの確保をしていくことを期待できる。また,これまでの営業を通しA市の観光業に貢献していたことが推認でき,屋台文化を守り,新たな魅力への創意工夫が期待できる。よって,指針19条1号2号の審査に点数を追加することは合理的である。
(3)また,A市とトラブルがなかったというから地域貢献に向けた取組も推認されるし,A市の観光業に貢献してきた者としてまちのにぎわいや人々の交流の場を創出してきており,意欲も推認される。よって,19条3号4号の審査に点数を追加することも合理的である。
(4)もっとも,4項目について5点ずつ追加することが可能だとすると,これまでトラブルのなかった他人名義営業者と,それ以外の者との間で最大20点の差が生じてしまい,それ以外の者が1位をとるのは非常に困難となる。実際にも,ほとんどの区画で他人名義営業者の点数が1位となる結果が生じている。
 Bらが本件条例施行後6ヵ月以内に新たな店舗を探すのが困難かつ,A市への貢献の期待があるとしても,20点もの差を生じさせると新規に屋台営業を始めようと応募した者が1位になることは実質的に不可能であるから,彼らの占有許可を受けるチャンスを奪っており不合理である。よって,委員会の申合せは合理性がない。
3 本件不選定決定の違法事由の主張 
1 市長の選定にかかる判断の内容に瑕疵があったこと
 A市条例26条1項は,公募を行った場合,「屋台営業候補者を選定するものとする」と規定されている。誰が営業候補者に適切かの判断は専門的知見が必要であり,市長は選定について裁量権を有していたといえる。
 本件では,1で述べた通り,BはこれまでA市と何らの問題も起こさず10年間本件区画で営業を続けていた者であるのに,こうしたBの事情を考慮せず,本件不選定決定をしており,考慮不尽として,裁量権の逸脱濫用が認められる。
2 市長が委員会の推薦を覆して選定をしたこと
 上述の通り,選定につき市長に裁量が認められる。もっとも,A市条例26条1項は「A市屋台専門委員会に諮り」と規定しているし,A市屋台委員会という機関が置かれ,規則の19条の選定基準にてらし候補者を選定する仕組みがとられていたことを踏まえると,特段の事情のない限り市長が委員会の推薦を覆して違う者を選定することは許されない。 
 本件では,2で述べた通り20点の優遇は不合理である。委員会の審査結果から申合せに基づく点数を差し引いた総合成績に基づき市長がBの不選定決定をしたのであるから,特段の事情があったといえ,市長の選定は裁量権の逸脱濫用とはいえない。
以上

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?