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少し過去の話

これは僕の、
そう、僕の少し過去のお話。


代官山と表参道は
僕の唯一の後悔が眠る、
そして僕の人生が大きく変わった場所。


そこで出会った彼女。

僕と彼女の関係は
他の誰にも秘密だった。


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ライト
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僕は表参道で働いていて、
彼女は週に1回代官山で仕事をしていた。

遠くに住んでいた彼女が歩いて行ける距離にいる。
その日はいつも特別だった。

仕事が終わると、
決まっていつの季節もイルミネーションライトが綺麗な「2人だけの待ち合わせ場所」で落ち合う。

お疲れ様。
今日はどうだった?

お互いの頑張りを確かめるように
いつもの台詞を交わした。

そんな他愛のない、
でも大切な会話をしながら、
そのまま夜を明かすこともあった。


今でも代官山を歩くと
その時の記憶が鮮明に焼き付いていることを実感する。

ここは僕の後悔が眠る場所。

それなのに、記憶の中の2人は
どんなステージライトに照らされるよりも優しく輝いていた。


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優しさの温度
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僕が1人暮らしを始めてから、
2人の時間は増えた。

同じ時間を共有していく中で
2人の見ているものや考えていることが怖いくらいに一緒なのは、
僕らの脳がクラウドで繋がっているからだと半分本気で思っていた。

そんな風に、
距離が近くなると見えてくるものも増えた。

彼女のイタズラ好きな所や
芯まで染み付いたユーモア。

一方で、

僕の面倒くさがりなところや
気の短いところ。

自分に余裕がなくなってくる感覚があった。

僕には彼女の温もりが
熱く感じ過ぎてしまった。

温もりは近すぎると
優しく感じられないのかもしれない。

彼女はそんな僕にいつから気が付いていたんだろう。


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僕だけの時間
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2人の時間を考えていくことの不安が
ゆっくりと膨らみ続ける。

僕が逃げた先は

「僕が自由に過ごせる時間」だった。

ゲームをしたり
漫画を読んだり
他の女の子と遊んだり

とにかく2人でいる時間を減らそうとしていた。

自然と彼女もそれを感じ取ったのか、
友人の家へ遊びに行くことが増えていった。

「彼女だって遊んでいる」
「僕の時間を自由に使って何が悪い」

ただひたすらにそう思っていた。

友人に愚痴を漏らす僕は、
とうとう別れることを決断する。

その先で、
彼女が僕にくれていた優しさを知った。


″友人の家に遊びに行く″と言っていたあの日、
彼女は1人、満喫で夜を明かしていた。

彼女は嘘をついていた。

僕に余裕がなくなっていることに気付いて「僕が自由に過ごせる時間」を作ってくれていた。

僕は、彼女が僕のことを分かってくれていることに、気付けなかった。

あんなにいつも同じことを口にしていたのに
あんなにいつも同じことを考えていたのに


彼女の温もりが熱かったんじゃない。

僕が冷たかったんだ。

もう戻れなかった。


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後悔の眠る場所
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今でも代官山や表参道は好きだ。

時々後悔が目を覚ますこともあるけれど、
楽しかった日々を思い返すことも同じくらいにある。


人の人生は一度交わり、進む先が別々になるともう交わることはなくなる。

進む先は、本来向かうべき場所へ行く前に
自分でねじ曲げてしまうことが出来る。
その先に後悔があるとは知らずに。


代官山や表参道は、
僕の心を後悔する前に戻してくれる。

ここを歩くときは、
少しずつ、少しずつ
色を塗り重ねていくみたいに、
後悔に新しい記憶と想いを重ねていくようにしている。

そんなことをしたって、
この地にはこの先も僕の後悔が眠り続ける。

それは分かっている。

ただ、最後に重ねる色が、
彼女の幸せの色であるように。
そう想いながら
僕の幸せに向かって歩く。

この地の先に、
それがあるような気がするから。


これは僕の
少し過去のお話。

別に、病んでないよ。

幸せな未来を願う、そんなお話。

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