(仮)ミャンマーとビジネスと人権と。 ※執筆継続中。7/30

(2021年 7月 30日 16:17)
続きを更新。現在 12,459文字…テレノール部分を もう少し 拡充。まだまだ続く…

(2021年 7月 28日 00:51)
続きを更新。現在 10,500文字…ようやくビジネスと人権 っぽいネタも。ただし、まだまだ浅いメモ程度です。

(2021年 7月 25日 10:01)
続きを下の方に更新してます。ビジネスと人権には全然、至る気配がありません、まだ。
今後のために、このツイートだけ一旦 置いておきます。


(2021年 7月 20日 23:59)
「ミャンマーとビジネスと人権と。」をテーマにまとめていこうと思って筆を取りましたが、前提条件となる部分を書いているうちに、そこそこの文量に。このままいくと1万字とかの記事になりそう。とりあえず、ここまでの分で更新します。

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 ミャンマーは 2月1日以降、とても辛い状況にある。軍によるクーデターによる負の影響が大きい。それに加えて、ここ 2週間ほどは、COVID-19の感染者が激増しており、とんでもないことになっている。
 元々 医療が脆弱な国ではあった。しかし、クーデター以降 ただでさえ脆かった医療が崩壊に向かい、今回のCOVID-19 第3波を受けて、完全に医療崩壊が起きている。

周囲から流れてくる情報は、
・家族や親戚、従業員が感染。自分も感染。
・感染者数は ○千人を超え、陽性率は 30%超。
・病院が満床で入院できなかったため死亡。
・酸素入手できず、酸素工場前に行列。並んでも入手困難。
・突然の 9連休化 と ロックダウン。
・火葬場には火葬を待つ棺桶が山積み。
といった類の情報。現地のCOVID-19情勢は悪化の一途を辿る。

 しかし、ミャンマーの場合、他国とは大きく異なる前提条件がある。

 2月 1日、ミャンマー国軍は軍事クーデターを起こした。ウィンミン大統領、アウンサンスーチー国家顧問を含む政権与党の幹部をことごとく拘束。「2020年 11月の総選挙における大規模な不正」を主張した軍事クーデターを起こした。なお、軍は「合法」だと主張(んなアホな)。
 国内にも国際社会にも、ほぼほぼ支持者はおらず、ミャンマーは大混乱に陥った。

国民による反対の意志

 1962年以降続く、軍事政権に深い恨みを持つミャンマー国民は「またか」と呆れると共に「今回は許すわけにはいかない」と、軍の行動に憤り、団結して立ち上がり、反対の意志を示す行動に出た。
 主な意思表示の方法は、市民不服従運動(CDMと呼ばれる)と非暴力による抗議活動。これらは、文字通りミャンマー全土に展開。
 市民不服従運動は、医療関係者からはじまり、教師、国鉄職員、政府関係者、銀行などにも広がっていった。
 非暴力による抗議活動は、Facebookでの情報拡散、11月の総選挙で圧勝したNLD支持へのプロフィール変更からはじまり、夜8時からの一斉鍋叩きへとシフト。夜8時になれば、ヤンゴン市内のあちこちから鍋を叩く音が響くようになっていた。
 またミャンマーの各業界で展開する軍系財閥企業が製造販売を行なう製品の不買運動も広がっていった。象徴的なものが、キリンビールが提携解消する方向性を発表したミャンマービール。ヤンゴン市内の最大手スーパーマーケット・チェーンであるシティマートの棚から、ミャンマービールが消えた、との情報には、2つの意味でかなり驚かされた。1つは、最も売れるビールが棚から消えた事実、もう1つは、シティマートがこの不買運動を支持したこと、だ。
 少し抗議活動に話を戻す。
 私の知る限りでは2月5日にマンダレーで初めて街頭デモ活動が行われ、翌日にはヤンゴンのダゴン大学発で街頭デモ活動、そこから一気に全国に広がっていった。平日も土日も関係なく、若者を中心とした多くのミャンマー国民が抗議の意思を示すべく、街に繰り出していた。軍への怒りを示す抗議活動ではありながらも、国際社会にメッセージを届けるべく、英語のプラカードが掲げている人が多かった事が各方面で語られている。
 2021年 2月 22日は「22222」と呼ばれ、全国で最も多くのミャンマー国民が抗議活動に参加した、とされている。

軍による弾圧

 実は、この少し前から軍による弾圧がはじまっていた。軍は、これほど反対される、とは思っていなかったのかもしれない。テインセイン政権時代に戻せば問題ない、と考えていたようには思う。しかし、多くの国民はタンシュエ政権時代かネウィン政権時代か、いずれにしても暗黒の軍政時代に戻されるなんてたまったもんじゃない、と捉えたのではないか、と思う。
 とにもかくにも、国民は軍政に強く反対。その意志を示すべく、自分ができる形で、不服従運動(CDM)や非暴力による抗議活動に参加していった。そうした国民の団結行動により、軍の統治機能はもちろん、経済活動も麻痺していった。国民は一気に倒す事を目論んでいた。
 しかし、軍は守るべき自国民に対して実弾を発砲して殺害。その弾圧の激しさは、2月末〜3月にかけて徐々に増していった。罪もない人々を多く殺害。小さな子供も殺された。
 3月27日の国軍記念日には、1日で 100名を超える一般市民を殺害。軍の残虐さはインターネットを通じ、SNSや報道を通じて、世界中に知れ渡った。多くの国民がライブ配信し、動画や写真を投稿し、それをミャンマーの民間メディアやミャンマー人ジャーナリストが取り上げ、SNS等を通じて、ほぼリアルタイムで世界に情報が拡散された。

通信制限

 軍は、情報統制を強化していった。まずは、その中でも通信制限に触れていきたい。
 クーデターが起きた2月1日の早朝には国内のモバイル通信と電話回線を遮断(固定回線は利用できた)した上で、関係者を拘束した。テレビ放送においても、民間放送局の放映を止め、国営放送しか見えない状況になった。そして、国営放送を通じて「ミンアウンフライン国軍総司令官に全権が移譲された」事を発表。2008年憲法に基づく合法的なものだと軍は主張(明らかに違憲だろ)。
 こうした軍の無茶苦茶な行動や正当化を見て、国民は激怒。Facebookで情報を拡散。その声は当然、世界各地に発信されていった。上記のような市民不服従運動や非暴力による抗議活動の様子もFacebookを経由して発信されていった。そこに対して、軍が取った行動は通信規制。
 ※ミャンマーではインターネットにアクセスできるユーザー 2,200万人のうち、2,100万人がFacebookを利用しており、そのほとんどがモバイルからアクセスしている。(参照データDATAREPORTAL DIGITAL 2020: MYANMAR

 具体的には、Facebookへのアクセス制限、続けて、VPNの利用禁止、Twitterへのアクセス制限なども立て続けに発表。それでも情報拡散は留まる事がなかったためか、通信遮断に踏み込んでいった。クーデター発生後、国民の反対行動は広がりを見せ、その声がどんどん大きくなっていった。クーデター以降、はじめの土日 である 2月6-7日を前に、軍は2日間、すべての通信遮断を行う事を発表。実際には、1日半ほどで通信規制は解除されたが、それでも、情報の拡散を防ぐ目的なのか、規制ができることを示すためなのか、ミャンマー全土での通信制限を行なった。
 その後、2月中旬からは、夜間の固定回線も含めたすべての通信遮断の運用がはじまった。毎晩 夜中〜早朝にかけて、すべての通信が遮断された。それに重ねて、3月中旬から4月末頃までの約1ヶ月半ほど、すべてのモバイル通信が終日遮断された。24時間、モバイル通信を経由したアクセスが一切できない状態になったのだ。日本でいう Docomo も SoftBankも auも 楽天モバイルも すべてのモバイル通信が利用不可、となった。
 モバイル回線しかインターネットへのアクセス手段を持たない人達は、一切インターネットにアクセスできず、情報の取得も発信もできない状態となった。
 外国人や一部ミャンマー人で家に固定回線を引いている者は、インターネットにアクセスできる状態ではあったが、それはミャンマー全体で見れば、ごく一部に過ぎず、ほとんどの人が情報へのアクセスを遮断された。
 ※いずれの通信規制も、いつ終わるかを発表しないままの運用だった。

 結果として、4月末頃からオンラインバンキング等をはじめとした軍が認めた一部サイトに限り、モバイル通信でもアクセスできるようになった(俗にいうホワイトリスト形式でのアクセス制限解除。)。アクセスできるサイトの一覧が公開された際には「このサイトにはアクセスできないのに、マッチングアプリのTinderは認めるのか?」などと揶揄されていた。未だにFacebookなどは、VPNを噛まさないとアクセスできない状況にある。
 しかし軍の管理下に置かれている保健スポーツ省や外務省等は、Facebookで情報発信を続けている。色々と謎い仕組みである。

 そして、この話にはもっと重い後日談もある。実は3月頃から、軍は通信会社に対して通信傍受システムの導入を指示。Telenor と Ooredoo は 反発し、実際に導入したかどうかは定かではないが、軍と非常に近い立場にある通信会社 Mytel と MPT(住友商事とKDDI が 共同運営中)はシステムを導入済み。MPTの高官によれば、かなり早い段階からチームが構成され、通信傍受をはじめていた、とも。電話やSMSで 特定のワードが出たら監視するシステムが導入されており、盗聴もされていた、などという話も。
 この件については、現地在住で、ミャンマー語を操る日本人の友人2名から「かなり前から、ミャンマー人の友人と話していて "特定のワード" が出たら電話が切れたり、傍受されてるようなノイズが入るようになった」と情報を提供してくれた。
 軍による通信制限は、クーデター以降 手を変え品を変え、ずっと続いており、今も盗聴等を含めた通信傍受リスクがある。

情報統制

 通信制限の目的には、幾つかあるだろう。
・軍人が外部から情報を入手できなくするため(軍の情報がすべてに)
・国民同士の情報交換、連帯行動を阻止するため
・各地で起きる軍にとって不都合な情報が国民に届かないようにするため
・ミャンマーの情報(軍の非人道的行為 等)が世界に届かなくするため

 大きくは、通信制限も含めて、自分たちにとって都合の悪い情報の拡散を止め、情報統制を図ろうとしたのではないか、と考えられる。世の中のほとんどが軍の行動に強く反対しており、大半が軍にとっては不都合な情報。そこで彼らが行ったのが通信遮断、メディアへの圧力強化、ジャーナリスト弾圧、メディアのライセンス剥奪、ロビーイストの雇い入れなどだ。一応、軍のプロパガンダ紙と化している 国営新聞を通じた発信も。
 2月半ば、軍により「クーデターや軍政 等の表現を用いるな。さもなくばライセンス剥奪するぞ」といった発言がなされた。その後、各民間メディアは " 表現の自由 " を訴える共同声明を発行。しかし、その後 Myanmar Timesは一時休止を宣言。(スタッフが一斉に辞めた事で体制維持できなくなったため、などと言われている。)
 その後、2月末頃には、ジャーナリストへの弾圧強化が始まった。ちょうど不自然な軍擁護のデモ行進(おそらくクーデター後、1回限り。買収された人々が参加、と言われている。)があった前後。
 抗議活動に参加する、若者の逮捕・拘束は以前からあったが、この頃には、明らかにジャーナリストを狙った逮捕・拘束が目立ちはじめていた。日本人ジャーナリストの北角さんが1度目に拘束されたのが 2/26。彼は外国人であったためか、大使館のサポートのおかげか、即日解放されたが、ヤンゴンのみならず、全国各地でミャンマー人ジャーナリストの逮捕・拘束の報道が目立ちはじめた。
 3月8日には、民間メディア5社がライセンスを剥奪された。DVB、Mizzima、Myanmar Now、Khit Thit Media、7 Day。またライセンスは剥奪されてないと記憶しているが、Kamayut Media のオフィスが襲撃され、共同創業者と編集長が逮捕された。
 上述の通り、3月半ばには モバイル通信が遮断され、情報量がガクッと減った。
 そして3月末、CNNの特派員クラリッサ・ワード氏が異例のミャンマー入り。ロビーイスト アリ・ベンメナシェ氏(軍が国際社会における広報活動のため約2億円の成果報酬契約で雇用した人物。その後、7月に契約解除。)のアレンジによるもの、だとの事だが、どんな報道がなされるのか、世界が注目した。軍のガッチリガードの下での取材がメインだったが、途中で町に出て取材も行っていた。
 市場での取材中、CNNのインタビューに答えた人が逮捕されるなどの事態が発生。また一部 彼女のコメントを巡ってミャンマー人ジャーナリストを怒らせる事態も起きたが、軍やクーデターにおもねるような内容の報道ではなかった事だけは確かだ。
 その後、情報統制はさらに酷さを増し、ジャーナリストは次々逮捕されていった。そして、4月18日、日本人ジャーナリストの北角さんが2度目の拘束。夜間、家にいるところに踏み込まれたことを思えば、外国人であることをわかった上での逮捕であり、一度目とは大きく事情が異なる事は確かだった。一度目の拘束は、外国人とはわからず逮捕したら外国人だったため、解放した可能性もある。しかし今回の逮捕「外国人であっても軍にとっての邪魔者は排除する」とのメッセージだったようにも思う。
 実際、逮捕した直後、軍のプロパガンダ放送である国営放送で「偽のニュースを流した罪で逮捕した」と発表し、プロパガンダ紙の国営新聞にも記事を掲載したほどだ。人の逮捕を利用して、他のマスコミ関係者に圧力をかけようとしたように思う。
 結果的に5月13日まで拘束された後、突如 釈放され、14日の全日空便で急遽 帰国する事となった。外務省や現地大使館の懸命の働きかけはもちろんのことだが、笹川陽平ミャンマー国民和解担当日本政府代表の動きも影響したようだ。(軍のプロパガンダ放送である国営放送で、”ミャンマー国民和解担当日本政府代表” との役職名が読み上げられた事からも明らか。なお笹川氏は、北角氏が釈放された 5月13日に 「沈黙の外交」のタイトルでブログ投稿している。)
 北角氏が釈放されたのと同じ日、ミャンマー人ジャーナリストが2月1日以降はじめて 禁固3年の有罪判決を受けた。
 その後も、軍によるメディア弾圧は続く。5月24日には、現地メディア、フロンティア・ミャンマーの編集長ダニー・フェンスター氏が、マレーシア・クアラルンプール行きの飛行機に乗るために訪れた ヤンゴン国際空港で拘束された。彼は今も拘束されたままだ。
 また6月30日付の国営紙で、外国メディアに対しても「偽のニュースを流せば法的措置をとる」との通達を掲載し、圧力をかけている。
 具体的に外国メディアの特派員や記者を狙った行動などは起きていないが、いつ何が起きてもおかしくない状況には置かれている。
 様々な形で圧力をかけ、情報統制を強化している。それによって、人々の「表現の自由」は完全に奪われつつある。

通信会社 テレノール のクーデター後の行動

 現在、ミャンマーにある通信事業者は、大きく4つ。KDDIと住商が共同運営を行う 政府系 MPT、ノルウェーのテレノール、カタールのオーレドー、軍系とベトナムの合弁 Mytel。2月1日以降、すべての事業者が軍に振り回されてきた。大前提として通信事業は、国・政府によるライセンス事業だ。
 2月1日、突如すべてのモバイル通信が遮断された。電話もインターネット接続もできなくなった。(固定回線のネットワークだけは生きていた。)その数日後には、Facebookのアクセス制限の指示、2月6−7日にも通信の全面停止の指示。3月15日からは、すべてのモバイル通信遮断の指示。軍が実質的に 権力を強奪したことで、従わざるを得ない場面が幾つも発生してきた。
 テレノールは、遺憾の意を表するメッセージも発信したが、2月2日〜2月中旬頃まで、軍からの命令を受ける度にその内容を公開しメッセージを発信し続けた。軍から「公表するな」との命令を受けて、途中から公開を断念したが、かなり早い段階からコメントを発出してきた。
 3月17日には、すべてのモバイル通信遮断の命令を受け「基本的人権である、意見や表現の自由を確保するためにもネットワークはオープンであるべき」と軍の当局に主張したことも伝えている。
 4月下旬からホワイトリスト形式により通信規制は緩和されたが、状況悪化や人権侵害の深刻化を受けて、テレノールは5月、ミャンマー事業の「全損」処理を発表。つまりこれ以上は利益が出ない、と判断したわけだ。
 しかもこの間、表には出ないものの通信会社を取り巻く事業環境は悪化の一途を辿っていた。
 6月末に明るみになった情報(※情報源は非公開)によれば「通信傍受システム導入」「通信事業者の幹部が出国する際は事前許可が必要」といった軍からの指示があったらしい。(しかもこれは、2−3月等かなり早いタイミングだったと予想される。)

 6月末に " 軍による通信傍受システム導入指示 " 等に関する報道が流れた後、テレノール身売りの話題が出た。全損処理でも驚いたが、この行動はミャンマービジネス業界が驚いた。

 ビジネスと人権を考えた時「通信傍受、それらの情報提供は " 表現の自由 " を奪うものであり、人権侵害も甚だしく決して受け入れられない。それをやらなければライセンス剥奪、と言われるならば、それで結構。」と、そんな判断をしたのではないだろうか。
 そうした経緯もあって全損処理をしていたのかもしれない。
 人権を重んじるテレノールとしては、完全NGなのだ。どの線まで許せるか、という中で「これ以上は無理だ」という一線を越えた、と判断し、撤退路線に踏み切ったのではないだろうか。

 「人権」を考えれば「人権を侵害しながらビジネスはできない」となるのは仕方のない判断だ。一方で、やはり難しさもある。
 「ビジネスと人権」の観点からでも、幾らでもテレノール批判が可能、というのが実際のところだ。

テレノール という 一事業者 としての悩み(想像)

例えば あがった批判でいえば

・テレノールのような大企業が引けば、多くの雇用が失われる事になる。ひいては貧困の加速に繋がる。
・欧米企業のエゴだ。人権とか言ってたらビジネスなんかできない。皆 撤退しろ、となるじゃないか。中国に乗っ取られて終わりだ。
・責任ある事業者が撤退し、その穴を埋めるのが人権侵害お構いなしの事業者だとしたら、非人道的な行動に加担することになるのでは?
・テレノールが退けば他の大手も撤退する可能性がある。ミャンマーの事業環境は悪化の一途を辿ることになるのでは?

 ここに入る前に前提を揃えておきたい。テレノールは事業者である。そして世界各国で事業を展開している。ビジネスである以上、利益の最大化を目指す必要があるし、損失はできるだけ小さくする必要がある。
 事業における判断をする際には、ミャンマー一国のビジネスへの影響はもちろん考慮するが、それと同時に世界全体への影響も考えた決断が必要になる。部分最適に加えて、全体最適も考える必要があるのだ。

 すごく単純化した事例で考えてみたい。

あるビジネスに投資をした場合
A国 で1億円儲かるが、その代償として B国 で10億円損をする

 そんなビジネスに、あなたは 手を出すだろうか?
 もちろん物事はそれほど単純ではない。判断する際には、合理的に数字化することは容易でない。目に見えない様々な影響や将来性・ポテンシャルを加味するものの、それを数値化するのはほぼ不可能だ。バイアスもかかるし、将来性の見極めも視点が変われば大きく異なる。
 ビジネスとしての合理的な判断より、この人を信じたい、この国に貢献したい、といった個人の想いも影響してくる。そうした感情的なものを完全に排除することは難しい。
 さらにいえば、実際にやってみないとわからないことだらけだ。大化けするかもしれないし、大ゴケするかもしれない。
 そうした不確定要素がたくさんあることは承知の上で、あえて 上記の質問を見てみてほしい。投資するか?しないか?
 おそらく多くの人が「しない」を選ぶだろう。
 ここで伝えたいのは、部分最適ではなく全体最適を考える必要がある、ということだ。言い換えれば、ミャンマー事業だけでなくグローバル事業を見る必要があるのだ。
 これは単純に「ミャンマーから撤退せよ」とか言うつもりはなく、むしろミャンマーのために、世界のためになると " 信じ切る事ができるなら " できる限り残った方がいい、と思っている。ここに疑念があるなら、ここんとこ見つめた方がいい、とも思っている。
 ただ単純に " 思考停止 " して、ビジネスだから、この先 何かあったら、とただ先送りすることにはあまり共感できない。
 とはいえ「各社の判断をできる限り リスペクト(尊重)したい」というのが私の偽らざる本音である。
 ただし、自社の判断を相手に押し付けるとか、そういう行為や言葉遣いには強い違和感を覚える自分がいる。みんなめちゃくちゃ葛藤しているだろうし、99.999%が 軍に対して バカ野郎 と思ってるとは思うし。

 テレノールは、大きな大きな企業ではあるが、あくまでも一事業者 であることも忘れてはいけない、と思っている。しかも、彼らはだんまりを決め込む事なく、メッセージを発し続けてきた。
 そんな 一事業者としての テレノールだからこそ、その判断もリスペクトしたい、と私は思っている。しかし、批判があるのはやっぱり事実だ。再度 批判の部分に話を戻したい。

テレノールに対する批判の声

例えば あがった批判でいえば

・テレノールのような大企業が引けば、多くの雇用が失われる事になる。ひいては貧困の加速に繋がる。
・欧米企業のエゴだ。人権とか言ってたらビジネスなんかできない。皆 撤退しろ、となるじゃないか。中国に乗っ取られて終わりだ。
・責任ある事業者が撤退し、その穴を埋めるのが人権侵害お構いなしの事業者だとしたら、非人道的な行動に加担することになるのでは?
・テレノールが退けば他の大手も撤退する可能性がある。ミャンマーの事業環境は悪化の一途を辿ることになるのでは?

 ざっくりいえば、こういった指摘があるだろう。そもそも、テレノールの身売り先なんて見つかるのか?といったところも含めて、大きく話題になった。
 しかし、この話題の決着は思いの外早かった。身売り報道が流れて、1週間もしないうちに「身売り先決定報道」は流れた。売却先がレバノンの投資会社 M1 group に決まり、移行プロジェクトチームが立ち上がる、と。
 そしてその翌日には「M1 groupが軍系通信会社である Mytel との取引がある事」等の情報が流れた。「軍に加担する会社に身売りするなんて、Telenor は 無責任」「ビジネスと人権の観点から許容できない」的なコメントが幾つも見られた。気持ちはわかるが、とても複雑な気分にもなった。
 ちょっとテレノールにおいては、前提が異なるとも思っている。
 テレノールは、クーデター直後から様子見はせず、無言を貫く事もなく、ライセンス管理者(強奪者?)となった軍への意見、HPを通じた顧客への状況説明や声明発表など、関係者に対して自社の立場をはっきりと示し「責任ある事業者」としての立場を取り続けたように感じている。
 なお カタールの Ooredoo も懸念表明の声明や軍からの命令の幾つかをHPで公表して抗議の意思を示している。 Mのつく残りの2社は、私が見た限りそうした痕跡は見当たらず…

 少し話を戻します。身売りについても、テレノールを取り巻くビジネスと人権の難しさが浮き彫りになる。
・完全撤退。
・事業売却。
・継続運営。


 継続運営、という選択肢はもはやないのだろう。一応 ビジネスでもあるから、ただただマイナスを垂れ流すわけにもいかない。投資家や株主もいるわけだし。そして完全撤退。あとは知らん!とやる方法もあるが、正直 かなり厳しい道。従業員の雇用維持、Telenorユーザーへの責任を考えれば、すべてのタワーを壊し、設備を破壊し、回収しきるのはやはり簡単ではない。
 ビジネスである以上、少しでも投資回収を考える必要もある。その道が事業売却。記事には売却先として、中国系企業やOoredooの名前も登場していた。この辺りはテレノール社の判断なので、わからないが、そこよりはマシ、との判断をしたのではないか、と思う。
 この先どうなるか、はわからないが… とにかくすごーく難しい道、だということだけはよくわかる。ビジネスと人権を両立させる必要があるのだ、「ビジネスが先、人権が後」ではない。むしろ「人権が先、ビジネスは後」と捉えるくらいでいいのかもしれない。捉え方としては「稼げるようになったら、そのうち なんとかする」が通じる世界ではなくなっているようにすら思う。今はもはや、最優先すべきが人権となっているのだ。

ゼロベースで考えてみる

 少し問いを置き換えてみたい。

 これまでミャンマー市場に一切投資なく、投資回収を考える必要がない状況だとしたら、どのような判断をするだろうか?
 ミャンマー市場への新規参入の道を選ぶ可能性はあるだろうか?

 正直、今のミャンマーに新規参入する企業は相当少ないだろう。とりわけ、グローバル企業などビジネスの影響が各方面に及ぶ企業であれば、どれだけ儲かるビジネスがあろうとも、今のミャンマー市場に新規参入する選択肢は限りなくゼロに近いだろう。
 ゼロベースで考えれば、残念ながら今のミャンマーは新規参入しない方が懸命な国に位置づけられるだろう。
 しかし、ビジネスとして過去に投資をしていると、また違う判断が出てくる。ビジネスとして入ってきた以上、どうしても「投資回収」を考えたくなる。サンクコスト(埋没コスト)と呼ばれるやつが頭をもたげてくる。
 さらにいえば、現地で従業員を雇用していれば、情も働き、なおのこと判断が難しくなる。従業員の減給も心苦しいだろうが、解雇となれば、さらに心苦しい。とりわけ今のミャンマーはコロナ → クーデター → コロナで、経済は崩壊している。とりわけクーデターの影響はとんでもなく大きい。
 前述の通り、クーデター後の軍による非人道的行為や権力の濫用、今後の見通しの難しさなどから、撤退や事業規模の縮小をする外資企業こそあれど、新規参入や事業規模拡大をする外資企業はほぼないのが実態。
 となれば、働き手からすれば今 職を失えば、次の職が得られる保証はない、そんなシビアな状態に置かれていることになる。そうした事情がわかっているからこそ、現地に進出している企業は判断がとても難しい。
 何年間か一緒に働いてきたスタッフなどがいればなおさらのこと。軍はとんでもなく残虐だし酷いけれど、その国で働いているスタッフが悪いわけではないし、ミャンマーの国が悪いわけでもない。
 しかし残念ながら、今の状況は(全然 できてないけど)軍が国を統治しかけており、軍事政権下に置かれている。それほど単純な話ではないのだが「国を利する事 = 軍を利する事」とも捉えられてしまうのだ。今の軍は自分たちの正当性を示すために暴力行為を行い、見せしめに人を殺し、脅迫し、人質をとり、気に入らない人は逮捕・殺害し、拘束者を拷問するなど、非人道的行為は枚挙にいとまがないほど酷い。
 現地でビジネスをしている人も、ごくごくごくごくごくごく一部を除いては、軍の行為には遺憾の念しかなく、憤りを覚えている事だろう。ほんの一部おいしい目を見る人もいるだろうが、クーデター前の方がよかった人が圧倒的 多数を占めるだろう。むしろ誰 得? ってくらいに、とんでもなく無意味で愚かなクーデターである。その事はほぼすべての人が思っているだろう。それでも、これまでの投資があったり、顧客企業が残っていたり、ODA案件で日本政府の方針が定まるまでは引けなかったり、何かできることがないのか?と考えたり、色んな想いを抱いて、動けないのが実際のところだ。

 ここで考えが分かれるのが「声をあげる」かどうか。声をあげる事によるリスクはもちろんある。軍に目をつけられ、ライセンス事業であれば、ライセンス剥奪される可能性はどうしてもある。従業員が狙われるリスクを口にする人もいるが、そこは 個人的にはかなり低いと思っている。もちろんゼロリスクではないが。

 一方で、声をあげない、となると、容認しているように取られてしまうリスクはどうしてもある。この事は、グローバル企業にとってはあまりよくない事のようにも思う。顧客がいる事業であれば不買運動に繋がる可能性もあるし、取引が消える可能性もある。そうした経済的な影響は想定される。
 それと同時に、投資家的にも「困ったら黙ってやり過ごそうとする会社」に投資し続けようとは思えない。将来が明るい会社だとは、どうしても思えない。日本では消費者が不買運動が起こるイメージはほぼない。(DHCが一時期荒れてたが、どれくらいビジネスに影響があったのだろうか。気になるところだ。)
 一部の法人が取引を停止する、といった動きは起こりうるが、まだまだそうした企業も少ないのが日本の実態だと思っている。
 だから各企業共に、最高のお手本である " 日本の政府のやり過ごし方 " を見習って動いているように思う。


(メモ)
 
 真正面から据えると、かなり難しい。そしてビジネスと人権の文脈でいけば、それを置かない選択肢ないよね? って話である。
 人権を守らずビジネスをする、というのは、イメージ的には、反社会的勢力とうまく付き合いながらビジネスをやるようなもの、と捉えている。今の日本では反社会的勢力と付き合いがないことは、取引の大前提になりつつあるが、それと同じように捉えるべきなのではないだろうか。
 

(まだまだ続く)

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