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ツイッギーに救われて

自己紹介の場面で
「私は骨体美普及協会、専務理事の骨皮筋衛門と申します」
と冗談でワッハッハと沸かせてやりたいと思いながら、
未だ果たせずにいる。
受けるどころか本当に痩せた身体のおじいさんが
しゃがれた震える声で言ったら、
シーンと憐れみの空気に沈むかも知れない。
逆に肉付きのよい人が言った方が受けるのだろうか。

小柄で小食な私の虚弱な印象から、
母は心配してやせっぽちとか青瓢箪とか呼びながら
もっと食べなさいといつも励ました。

もっとも肉付きのいい子を健康優良児とした時代だから
無理もない。

それでも運動は得意でマラソン大会で優勝したりした。
オリンピック大会などでもマラソン選手がみな
痩せ型であることに気付いてからは、
母はもっと太れとは言わなくなった。
 
1960年代にイギリスのファッションモデルの
ツイッギーが大人気となり、一世を風靡した。
ツイッギーは小枝という意味で
それこそやせっぽちな肢体で
ミニスカートから伸びる長い足に魅了され、
モデルの審美のスタンダードを塗り替えた。

その波はすぐに日本に押し寄せて、
それからというもの現代でも女性たちの合い言葉は、
「もっと痩せなきゃ」である。

この一言に商売人は飛びついた。痩身ビジネスである。
そりゃあ、痩せることを目的にした方がビジネスに、
商品もサービスもいくらでも考えられるので有利だ。
豊満が美しいとなったら、
食べて寝ていればいい訳で商売のネタにならない。

ツイッギー旋風のお陰で、やせっぽちの劣等感から
救われた気がする。
 
江戸時代に成瀬川土左衛門という
色白でぶくぶくと太ったお相撲さんがいた。
川などから水死体が上がると、水ぶくれで膨らみ、
肌が真っ白になるそうで、
その連想から水死体のことを土左衛門と呼ぶようになった。
骨皮筋衛門(ほねかわすじえもん)と呼ばれた身としては、
同情こそすれ、笑えない話である。

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