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変らぬ母への思慕

花屋さんの前に小さな男の子が
小銭を握りしめて立っていた。

お店のお姉さんが優しく話しかけた。
「どの花がいいか探しているの?」
男の子はか細い声で「お母さんにあげるの」
「ああ、カーネーション、もうすぐ母の日だもんね」
と言って目にも鮮やかな赤いカーネーションの
花鉢のところに誘った。
男の子は首を横に振って「違う、白いの」と言った。
店員さんは直ぐに察して白いカーネーションの
花鉢を持って来た。

小銭を手渡してカーネーションを一本買って、
大事そうに両手で胸に当てて持ち、
俯きながらトボトボと帰って行った。
店員さんはこの子の姿が見えなくなるまで
じっと見守っていた。
 
母の日はアメリカ南北戦争で、
平和運動に身を捧げた亡き母を偲んで
追悼集会を催した娘のアンナが
集まってくれた人々に白いカーネーションを
手渡したことから始まった。
今や世界中がこの日に母への感謝の気持ちを新たにする。
元気にしているお母さんには
真っ赤なカーネーションを贈る。
なんて晴れやかで、生きている喜びを
純真無垢に祝うのにこれほど相応しい花が
他にあるだろうか。
 
今年からは母の日には、白いカーネーションで
祝うことになった。
73歳の男の子が96歳のお母さんの喪失に嘆いている。
あの肩を落として白いカーネーションを
抱きかかえて家に帰る小さい男の子と
なんら変わりない気持ちでいる。
 

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