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スマートフォンの画面の向こうから、聞こえる息遣い。
かちかち、かたかた。
キーボードを叩く音。特に会話もない。時折、思い出したように打ち合わせをするくらい。
それが、なんだか普通なことのように感じられた。
これは、実はそんなに普通ではなく、奇跡なような可能性の上に成り立っている。それは、画面の向こうの相手も、ここで微睡んでいる自分も理解していた。
だから、今はそれに甘えていよう、と思う。
甘えだなんて、おそらく相手は思わないだろうが。
「すろたん」
キーボードの音が止む。
ぽんやりと、回らない頭で相手を呼ぶ。
眠れはまだしないけれど、意識はふわふわとゆめとうつつを彷徨う。
「おやすみぃ」
「うん、おやすみぃ」
本当に眠るわけではない。それはきっとふたりともわかっていた。
だから、安心して……キーボードを叩く音を聞きながら、微睡むことが出来る。
これは、過ぎていく人生の時間を共に過ごす……大事な日々の話。
忘れないようにしたい、スマートフォンとアプリケーションで繋がった、彼らの日々。
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