イタリアのポップス職人Papikの仕事のこと

わたしがイタリアものが好きなのはなんといっても曲、メロディのよさ。
サイゼリアで流れてるのみたいないわゆるカンツォーネにはじまり、英米のロックをイタリアの味で漬け込んだ70年代のバンドサウンド、それが完成された80年代以降、一貫して流れるのは溢れ出る歌心と、過剰なまでの情緒感(要はクサい)だ。
現在ではイタリアのジャズミュージシャンがたびたび過去の歌物のカヴァーを演奏していることからも、その情緒はジャンルと時代を問わずイタリア人の血に流れ続けていることが窺える。

このおっさんはイタリアの、プロデューサー/キーボーディスト。
ここ数年、70年代以降のイタリアンポップスの名曲のあれこれのトリビュートアルバムを矢継ぎ早に出している。それだけならよくありそうな話だが、特筆すべきはアレンジが1980年代のジャズファンクというかAORというか、シティポップというか、その辺りに寄せていること。その結果はまったく素晴らしいものである。
おそらく80年代に多感な時期を過ごしたおっさんなのだろう。あの頃の音へのリスペクトと偏執が伝わってきて、同年代のわたしも泣きながら踊る。

歌うのはほぼ無名の男女若手が入れ替わり立ち替わり。これがまたどいつもこいつもどちゃくそ上手い。バックの演奏がこれまたひたすらグルーヴィな人力バンド、加えてホーンに生弦も惜しげなく使う、予算が凄そうだ。油田でも持ってるのかこの人。
まあまずは一曲どうぞ。

まずは「Cocktail Italy」vol1~3。
70sから比較的最近まで、オルネラ・ヴァノーニ、イ・プー、ピノ・ダニエレ、ニュートロルス、ファビオ・コンカートにニーノ・ブオノコレ、ジャルディーノ・ディ・センプリーチと、わたしの贔屓のアーティストだけでもこれだけ並ぶ怒涛のカヴァー集。
その中でも目立つのはルチオ・バティスティ/モゴールのコンビ作の楽曲の多さ。その美メロがどれだけイタリアのシーンを席巻してたかというのを思い知らされる。

パピック兄貴のバティスティ愛は、次いでバティスティ縛りのトリビュートを2枚製作することとなる。

さらにはミーナのトリビュートも2枚。ミーナといえば日本語アルバムは作るし、ザ・ピーナッツがカヴァーするし、あまりにメジャーすぎてわたしみたいにプログレから流れてきたイタロ好きはこれまでちょっと腰が引けていた。しかしこのようなかっこいいアレンジでいまになって聴くにつけ(この人もバティスティ作多し)勉強不足でしたと謝りたい気持ちになる。
またミーナは、オルネラ・ヴァノーニと並んでブラジル音楽への造詣も深く、あまたのイタ語カヴァーを録音したことでも知られる。ここにもジョアン・ボスコやマルコス・ヴァーリのカヴァーが収録されている。

で、ブラジル音楽といえば。「エスタテ」でおなじみブルーノ・マルティーノのトリビュートでも一枚ある。

原曲はその時代ぽい(多くはバタくさい)アレンジ故にちょっと引いてしまい勝ちな曲も、ジャジイでファンクでアーバンメロウなリメイクを施され、曲の地のよさを改めて味わえるのである。

Papik兄貴、このカヴァー集以外にも以前からオリジナルアルバムも出して活動しており、驚いたことに、というかやはりというか、すでにわが国でもウケて来日ライヴまでしていた。

あとイタロネタの他にも好き勝手な米英ソウル〜AORのカヴァー集やフュージョンインスト集なども出しており、もはや全体が把握しきれないくらいなので、もっと聴きたい人はYouTubeでディグしてください。


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