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「劇場版 少女☆歌劇 レヴュースタァライト オーケストラコンサート」の話

 「劇場版 少女☆歌劇 レヴュースタァライト オーケストラコンサート」に参加してきた。
 はじめに断っておくと、これはオーケストラコンサートではなかった。と言うと語弊があるが、少なくとも本公演は、一般的に「オーケストラコンサート」という単語を耳にして想像するものとはかけ離れており、オーケストラコンサートの皮を被った異形の「何か」であった。

 いや、本当は答えはもう出ていて、これは劇場版の再演であり、再生産であり、そして「舞台」そのものだった。

 未見の方に、本公演がどのようなものだったのかをざっくり説明すると、

 上記のCDに収録されている楽曲ほぼすべて+αを、大スクリーンで流れる劇場版本編の映像に合わせてオーケストラで生アテレコをしたような感じ。レヴュー楽曲については当然のようにすべて歌唱付き(これに近い公演形態を俗にフィルムライブと呼ぶらしいですね)で。
 つまり、「(半)舞台版劇場版スタァライト」ということだ。

 そもそもこの劇中歌アルバム自体が「聴くスタァライト」と評される代物であるように、本作の劇伴はフィルムスコアリングという性質上、映像と根本の部分で密接に撚り合っており、切っても切り離せない不可分な存在である。つまるところ「あなたはわたし、わたしはあなた」というわけで、それゆえ本コンサートが劇場版スタァライトの延長線にあり、拡張された歌劇体験となることは半ば必然であった。

 しかしながら、本公演には映画館で視聴する劇場版とは決定的に異なる点があった。それは、観客と舞台人が共犯関係にありながら、しかし客席と舞台上に双方向性のある、けだし血の通った「舞台」そのものであったという点だ。

 新たな舞台を渇望して訪れた観客が舞台を見つめ、そして舞台がそれに応え、また観客が呼応する。舞台には干渉することができない盤外の存在でありながら、しかし紛れもなく場を構成する一要素であるという不思議な感覚。

 自分はこれまでこの手のイベント事に参加したことがなかったのですが、このコンサートに参加して、劇中でのキリンの「私にも与えられた役があったのですね」「舞台に火を入れる役が」という発言の意味が完全に理解できた。

 劇場版で描かれていたこの相対的・相補的な関係性だが、しかしこれは映画という媒体では構造的に再現不可能な部分であり、実感を伴って理解することが難しかった。それが本公演をもって真に「繋がった」という感覚を得た。この日、会場にいた我々は、紛れもなくキリンそのものだったと思う。

 また、内容について触れると、とにかく演出が素晴らしかった。特にライティングの仕事がとんでもなく良かった。
 はじめ、会場に入ったとき「何か煙ってるな」って思ったんですよ。モヤがかかってて。オタクの水蒸気か? みたいな。でもこれ違うんですね。要はミー散乱を利用した演出の小道具だった。
 天使の梯子と呼ばれる自然現象は誰しも見たことがあると思うんですが、光の波長より大きい粒子が大気中に浮遊していると、散乱によって光を可視化することができて、それによって柱状の光を演出として綺麗に見せることができる。多分、演劇とかライブでは一般的な演出なんだろうけど素直に感動した。
 そうした光の演出によって、平面上の演出が立体的に展開される。スクリーンが物理的に空間へと拡張される感覚。分かりやすい場面でいうと、ラストの華恋とひかりの口上時のライティング。あれが現実世界で展開される。これは得難い体験であり、ほんとうに光と音の総合芸術といっても過言ではなかった。

 また、劇伴をアテレコするという性質上、上演中に独特の間のようなものが発生して、特に競演のレヴューでは無音のセリフパートが結構長尺で存在するため、観客のみならず演者もスクリーンのまひるとひかりの動向を固唾を呑んで見守るという色々な意味で不安になってしまう場面もあった。自分は演劇やコンサートの道には明るくないんですけど、それにしてもこういう上演形態の公演っていうのは珍しいんじゃないか? と思った。

 今回は事前情報から得られる情報が少なく内容の具体性を想像できた人間は多くないと思うが、蓋を開ければ劇伴版の拡張体験であったため、劇スに感銘を受けた人間には漏れなく体験して欲しい公演だったが、しかしそれだけに現在の我々を取り巻く情勢が悔やまれて仕方がなかった。これはもっと多くの人々に観られるべき舞台であっただけに、勿体ないという一言に尽きる。断腸の思いで参加を見送られた方も多いであろう故に。

 本公演の最後に、2023年に新たな舞台公演が予定されていることが発表されたが、それまでにこの非日常体験を日常のものとして、誰に気兼ねすることもなく味わえる日が戻ることを願うばかりである。

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