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望郷

私が生まれ育った土地は、豊かな自然に恵まれている。大きな川が悠々と巡り、清らかな水が流れる。冬は厳しく冷え込み、雪はしんしんと積もり、世界は一面真っ白になっていく。



故郷の景色を思い出す時、まず目に浮かぶのは雄大な山々だ。盆地であるこの土地は、見渡す限りの大きな山々に囲まれている。この土地で外の景色を眺めるとき、視界から山が途切れることはなく、遠く遠くまで高い山脈が連なっている。

山は美しい。
季節の巡りとともに、山の色は移り変わっていく。緑が生い茂った青々しい山、紅葉に染まっていく赤や黄色の山、その葉が落ちる頃には雪が降り積もり、山は雪化粧をして真っ白になる。


肌寒い季節になると、とりわけ大きな存在感を示すのは北アルプス(飛騨山脈)だ。標高3000m級の山々からなる、その山脈の迫力は格別だ。

雪と氷に覆われたアルプスは、この星が作り出した偉大な彫刻だ。空の青と白銀の雪山、山の端と山際の間の稜線の美しさ、アルプスに彫り込まれるようにして出来た影の部分は、白い雪が反射して薄い水色の光を放つ。


山の存在は絶対的だ。
山はそこから動くことも、揺らぐこともなく、ただ静かにそこにある。

故郷を離れて暮らしている今でも、心の風景にはこの豊かな自然があり、澄んだ空気の中で呼吸をして生きているような、そんな気がしている。

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