担当と切れたので○○を作ってみた話【後編】
思い立ったが吉日、
わたしはすぐに近所の商店街にある青果店へと向かいました。
平日の昼間にも関わらず、商店街には外国人観光客や地元の人たちで溢れかえっています。
人混みをかき分けて辿り着いた青果店の店先には、「500g 600円」と手書きのポップが貼られた南高梅が3袋。
それが高いのか安いのか考える余裕すらなく、
わたしはすぐに「これ全部ください」と言って買い占めました。
6月に一番の旬を迎える梅は、もう若干黄色く熟れていて、袋から漏れ出る甘酸っぱい香りに少し懐かしさを感じました。
──外は超晴天。
鋭い日差しを避けるように電車に乗り、帰り道にスーパーでガラス瓶と氷砂糖も購入。
重さのことを全く考えずに勢いで買ったせいで、両手がちぎれそうになるのをぎゅっと我慢し、袋を握り締めてやっとの思いで家の前に着いた瞬間、めちゃくちゃ重要なことに気付いたのです。
「エレベーター点検中やん」
この日は運が悪いことにマンションで定期的にあるエレベーターの点検日。
まあまあな階数に住んでる私は両手にいっぱいの荷物を持ちながら階段を上らざるを得なくなりました。
いや、でもこれはきっと
神様が与えてくれた試練。
私の人生の試練です。
「乗り越えろ」と言わんばかりに立ちはだかる階段を上った先には、きっと明るい未来が待っている……
一段一段と登っていくにつれて重たくなる足に反して、私の心は不思議と軽やかになっていく気がしました。
失意のチョイ底にいる私、大切なものを失ったばかりの私にもう怖れるものなど何もありません。
無敵です。
マリオのスター状態。
階段だってなんのその。
そしてようやく自分の部屋に到着。
私は無事に試練を乗り越えたのです。
前置きが長くなりましたがここからが本番。
早速、梅仕事スタートです。
まずは梅のヘタを取り、水でよく洗います。
もう既に黄色みがかった梅はアク抜きする必要はないらしいのですが、一応念のため水につけておきました。
美味しく作るためには一切の妥協を許しません。
約2時間ほど置いて、キッチンペーパーで水気をよく拭き取ります。
丸くてつやつやで、
お風呂上がりの赤ちゃんみたいでかわいい。
( ◜ᴗ◝)
梅の拭き取りをしている間に煮沸消毒しておいたガラス瓶を鍋から取り出し、また更にアルコール消毒で綺麗にしていきます。
完璧です。
そして……
今回の壮大な物語の主人公に
選ばれたのは……
『ヘネシーリシャール』
ホストに通ったことのない人でも何となく聞いたことがあろう、言わずと知れた最高級コニャック。
私と担当との一番の思い出の品です。
一番思い出深い物だからこそ、
一番先に消してしまいたい。
開封せずそのまま売ろうかとも思いましたが、せっかくだしどうせならちゃんと味わってみたい。
完全な好奇心が引き起こした
大きなチャレンジです。
小売価格もかなり高い代物ですが、ホスト価格だと引くほど高いです。あえて書きませんが、本当にドン引きするほど高いので、ぜひ興味のある人は怖いもの見たさでググってみてください。
ホス狂に変わり者が多いのは周知の事実でしょうが、さすがにここまで野蛮な(元)ホス狂は私以外いないでしょう。
天上天下唯我独尊───
地元のヤンキーが好んで使うこの言葉が自然と脳裏をよぎります。
これを贅沢と捉えるか、勿体ないと捉えるかは皆さんにお任せします。
こうして並べてみると
梅とのギャップが更に際立ちますね。
住む世界がまるで違う二つの突然の出会い。
お互い緊張しているように見えます。
そして彼らの仲を取り持ってくれるのは
この氷砂糖。
梅と梅の隙間を埋めていきます。
(ギャグじゃないです)
察しのいい方ならもうお気付きかと思いますが、
梅を買いすぎてガラス瓶が完全にキャパオーバーしています。
でももうそんなことはどうでもいい。
生きていく上でこういう失敗はよくある話。
うっかりソファカバーを4回連続サイズをミスって買うことだってあります。
私はこれから前を向いて生きていかなくちゃいけないのだから。細かいことは気にしません。
そしてついに……
リシャール投入!!!!
うわぁぁぁ!!!!
覆水盆に返らず。
もう後戻りなんかできません。
これはまさしく『絶対にヨリを戻すことはない』という私の決意のメタファー。
重厚感のあるボトルを開けると同時に、芳醇なコニャックの香りが鼻を抜け、艶やかな褐色の液体はスーパーで買った500円のガラス瓶にあっさりと収まってしまいました。
意外とあっけないものですね。
あとは完成を祈るのみ。
おいしくなーれ!
おいしくなーれ!
愛をこめて!!!♡♡
こうして私の"リシャール梅酒大作戦"は
無事に幕を閉じました。
余った梅はもちろん他のブランデーで漬けていきますのでご安心を。
タイムカプセルのように今の気持ちを梅酒に詰め込んで、いつか忘れてしまうくらい熟成させていこうと思います。
これが美味しく仕上がる頃、
私は一体どんな人生を歩んでいるのでしょうか。
「こんなこともあったな」って
笑って楽しく飲める日が来るといいな。
おわり✌️
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